騙された敬老会
先日も書いたが、私は夫の両親と同居している。
田舎なので自治会の団結力が強く、
コロナ禍以前は、自治会イベントなどが盛んだった。
同居するようになって、私はよくわからないまま、
流されるようにいろんなイベントに参加させられていた。
地域のお祭りでは、婦人部手作りの炊き込みご飯の販売係をさせられた。
「三角巾に割烹着が規則よ」と事前の打ち合わせで言われた。
その姿で参加したのは素直な私だけだった。
義母を含め、可愛い手編みのニット帽に可愛いエプロンを着てきた。
まぁ、いいだろう。
自治会でお悔やみがあると、受付などのお手伝いに行く。
受付の裏の小部屋で帳簿書きをさせられた。
必死に書いてるのは私だけだ。
必死な私をよそに自治会の役員さんたちは、べらべらお喋りをしている。
あげくには「この住所、何て書いてあるんでしょ?」と
私が尋ねただけなのに、そこの地域の話まで始める次第。
弘法大師も立ち寄った場所だとかなんとかの物知り自慢大会だ。
そんなのどうでもいいと思いつつ、「そうなんですねぇ」と顔も上げず帳簿書きをしながら答えている私がいた。
耳の悪いお年寄り役員さん達は、声がデカい!
そして、そのデカい声で下ネタをバリバ話す。
とうとう受付にいた自治会長さんが、「受付まで声が聞こえてるよ」と叱りにきたくらいだ。
私まで一緒くたに叱られた。
まぁ、いいだろう。
ある日、義母が「今度、敬老会があるから、あんたの分も参加にしとくね」
はっ? 敬老会?
有無も言わさず?
いろいろ参加して地域には貢献したいと思っている。
でもいくらなんでも、敬老会はあんまりだろう。
そもそも年齢が足りてない。
私…「お義母さん、敬老会はさすがに私の年齢じゃ参加無理でしょ?」
義母…「大丈夫よ、もう参加って言っといたから」
ハッ?
義母は続けた。
「敬老会っていうのは本来、若い人が年寄りを敬うんだから、みんな参加するとよ」
変に納得している自分がいた。
子どもがいない私は横のつながりがあまりないので、
こんな時に若い人達とのつながりを持たせようとした義母の優しい計らいかもしれない。
ちなみに私はちょっとだけ書道をたしなむ。
自治会長さんが、「○○自治会敬老会」とでっかく掲げる紙を書いて欲しいと頼みにきた。
それもなぜか私の意見を聞く前に義母が二つ返事でOKをだしていた。
書道セットまで用意されていた。
義母は嫁が自治会のお役に立つことで鼻が高いのだろう。私もそのお役に立てるのであれば、嬉しい限りだ。
甘かった。
義母は図に乗った。
その後、式次第も書くことになったし、
その時に古希、喜寿、傘寿、米寿を迎える人の
お祝いのし書きもすべて書くはめになった。
敬老会、当日。
近所の施設の大広間を貸し切っての会だった。
見覚え(書き覚え)のある「○○自治会敬老会」という文字がドーンと飛び込んできた。
見渡す限りのお年寄りだった。
騙された。
どう見ても一番若いのは私だ。
敬う側の人間なんてどこにもいない。敬われる側の人達の顔がニコニコと並んでいた。
私は騙された。
年寄りの咀嚼音に囲まれて、会食し、酒を飲み、それから余興が始まった。
私は完全にお酌係だった。
地獄だった。
余興は、カラオケ。
モニターはあるが、選曲方法は分厚い歌本のなから選んで番号を入力するという、かなりの旧式だった。
係りのじいさんが、何を歌うかいろんな人に聞いて回っていた。
歌いたがりのお年寄りさん達は、もう、歌が決まっていた。
もちろん皆さん演歌。
それに合わせ、踊りだす人もいた。
みんなケラケラ笑っていた。
私は顔は笑って、楽しそうに手拍子もしていたが、全く面白くなかった。
とうとう、歌聞き係りのじいさんは分厚い歌本をひっさげ、
私のところまでやってきた。
こんな、ド演歌オンパレードの中、
アイドルや、頑張ってもニューミュージックと
呼ばれてきた世代がせいいっぱいの私に何を歌えというのか。
しかも、私へ年寄りからのコールが始まった。
「今日はなんとMさん家の若奥さんも参加されています! さぁ、どんな歌声を披露してくれるのでしょうか!」
パチパチパチパチ♪
おいおい嘘だろー
勝手にハードルをあげるんじゃない司会のおっちゃんよ。
歌聞き係りのじいさんが私にプレッシャーをかける。
「さぁ、もう後には引けんばい。なに歌う?」
ううううううううぅぅぅぅ
私は絞り出すように「じゃあ、中島みゆきの『糸』で。」
それが、年寄りが聴いてもわかるであろうギリギリの選曲だ。
歌聞き係りのじいさんはすでに酔っ払っているし、
中島みゆきも知らなければ、『糸』も知らない。
「はっ? ヒト? 」
「いや、イト!」
私が仕方なく前のステージに向かうと年寄りたちは、
いきなり水を打ったように静かになった。
おいおい!
さっきまで誰が熱唱しようが見向きもせず、
食べたり飲んだり騒いだりしてたじゃないか。
敬われる側の人達の好奇の目がいっぺんに私に注がれた。
なんせ、敬老の歳に達せずに敬老会に参加したのは私が初めてだったのだ。
だーまーさーれーたー!
私は開き直った。
「た~ての糸はあなた~♪」
どうにでもなれ。もう思いっきり熱唱してやったぜ。
おっと、しまった!
気づけば、ちょっとしたスーザンボイル状態になってしまっていた。
歌い終わったときには拍手喝采だった。
それから、私は毎年、敬老会に出るハメになってしまった。
コロナで会がなくなり、ちょっと残念に思っている自分がいる。
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