軍艦島クルーズにて
軍艦島クルーズに夫と参加したときのことである。
軍艦島が世界遺産に登録されて一年程経った頃で、
まだ世界遺産フィーバーは続いていたので、クルーズ参加者はいっぱいだった。
長野県から来たという男子高校の修学旅行生などもいた。
クルーズコースは高島という島と、軍艦島という、
かつての炭鉱の島をダブルで上陸する3時間程のツアーだ。
3階建てのクルーズ船で3階部分は屋上みたいになっている。
優に150人くらいは乗れたと思う。もっとかな?
予約してたチケットを購入して2列に並んで乗船を待った。
指定席などはない。
なので、良い場所をとろうと、せっかちな私は早めに並んだ。
幸い、まだ前には十人程しか並んでいなかった。
これなら良い場所が確保できて最高のクルージングになるだろう。
楽しみだ♪
・・・夫が真っ青な顔をして私を見ている。
嫌な予感がする。
的中。
「ヤバい! トイレに行きたい」と言う。
もちろん、顔の様子から「大」であることは間違いない。
ここは波止場。
トイレのマークが近くに見えない。
ちょっと遠くに見えるターミナルか、あとショッピングモールか・・・
「とにかく急いで行っといで! 」
全く! しょうがないな。
イライラしながら夫が戻ってくるのを待つ間、
呑気に私の目の前でイチャイチャする若いカップルがよけいに私をイラつかせた。
たぶん男性の白いデニムのジャケットに、
つま先の尖った革靴というスタイルが鼻につくのだと思う。
彼女の方は大人しそうな可愛い子だ。
カップルは都会から来ているのであろう。
彼…「あそこに見える山が稲佐山っていうんだよ、知ってる?」
彼女…「へぇ、知らない」
彼…「あそこの頂上から見える夜景は世界三大夜景なんだぜ」
だぜ君よ、せめて日本三大夜景にしとこうぜ。
と私は心の中で語りかけた。
彼女…「へぇ、すごーい♪」
だぜ…「夜、天気が良ければ見に行こうぜ。ロープウェイで頂上まで行けるから」
彼女…「うん♪行ってみたい」
そんなくだらない会話をくりひろげてる
だぜ君の白いジャケットの小脇には「るるぶ長崎」が挟まれていた。
ということは長崎の夜景は、本当に世界三大夜景なのか!
なんて思ってたら、、、
乗船が始まってしまった!
おいおい、夫よ早く戻ってこいよ!
なんのために早くから並んだのか!
だぜ君カップルも乗船した。
夫は戻ってこない。
私は後続の人に次々抜かれ、、、
えええ、マジかよ~。
とうとう最後尾ではしゃいでいた長野県から修学旅行できている男子高校生十五人くらいと私だけになってしまった。
でもこのはしゃいだ男子高生が思いがけず時間稼ぎになった。
先生らしき人が
「お前たち!海がない県から来てるんだぞ!ちゃんとライフジャケットを着てから乗りなさい」
みんなオレンジのライフジャケットを慣れない手つきで羽織ってた。
そんな時、、、
超スッキリ♪って顔をした夫が走って戻ってきた。
私はココよ!って手を振りながら顔は笑っていたが、心の中は笑っていなかった。
オレンジ軍団(男子高校生)とともに、最後尾で乗船した。
もちろん、どこにも座る席などなかった。
船内の椅子は1階も2階もいっぱい。
屋上もいっぱい。
また下の階に降りると、
案内の人がここでよかったらどうぞ
と言ってくれた席というか場所があった。
それは船室からでた操縦席と船室の間で
屋根があるだけの横から波しぶきがザバンザバンとかかるようなところ。
かろうじて私と夫と二人くらいが座れるようなスペースがあるだけだった!
あんなに早くから張り切って並んでたのは何だったんだ!
でも、なんとそこは特等席だった!
まるで、電車オタクが運転手さんの後ろに陣取ってるような感覚だ。
前の操縦席と、前方の海が見える。
横はスッポンポンでそりゃ、波しぶきは多少どころではなくあるが、
イルカショーに比べたらたいしたことなかろう。
むしろこっちの方がリアルしぶきだ!両サイドの海も見える。
高島に着くまでは三十分くらい。
着くまでの時間、いい歳こいた私たち夫婦はヤッホー!と、はしゃいでいた。
まずは高島に着いた。
下船するときだった。
なかなか椅子から立ち上がれず、ぐったりしてる人がいる。
だぜ君だった。
白いジャケットと尖った革靴のだぜ君は船酔いしていた。
彼女は隣りで「大丈夫?大丈夫?」と言っていた。
あんなにしゃべっていただぜ君は一言も発していなかった。
きっと一言でも発したなら、違うものまで口から発してしまうのだろう、
高島に上陸して観光した後、次はいよいよ軍艦島だ。
私と夫は乗船するやいなや、不幸中の幸いだったあの特等席にまた座った♪
高島から軍艦島まではアッという間だった。
軍艦島に上陸すると、ガイドさんについて周り、
島内を観光した。
ところどころでガイドさんが大きな声で説明してくれた。
それを取り囲むように人がいて、
ちょうどガイドさんを挟んで向こう側に白いジャケットが見えた。
その時のだぜ君はこの廃墟となった軍艦島がとても似合うほど、ぐったりしていて、もはや彼女に支えられるほどの船酔い状態だった。
軍艦島観光を終えて、乗船した時には、私達夫婦の特等席は盗られていた。
誰かが、特等席であることに気づいてしまったようで狙っていたのだろう。
仕方なく、3階の屋上に行った。
ここはここで潮風が気持ちよかった。
ただ、テンションの高いオレンジ軍団がいた。
でも、ここでも私達はまたラッキーだった♪
イルカの群れに遭遇したのだ。
イルカウォッチングまで出来た♪
3階ではその光景にどよめいた。
イルカに気づいていなかったテンションの高いオレンジ軍団は、
「何? 何?」と
何がおきてるのか知りたかったようなので、私が
「イルカの群れだよ」って教えてあげた。
「わああ、すげぇぇ」
とオレンジ軍団もどよめいた。
でも、そこにもぐったりとしたオレンジが一人いた。
みんながどんなに盛り上がっても、顔が青ざめていた。
身動き一つしなかった。
確かに船酔いはキツイ。
その後、白ジャケットのだぜ君とぐったりオレンジ君はどうしたかな?
その晩は、曇っていた。
稲佐山の夜景は多分無理だろう。
だぜ君、ある意味良かったかもね。
船酔いをなめてはいけない。
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