見出し画像

筑波大学トレーナークリニックが果たす役割

大学教員やスポーツ現場での指導をしております、藁科侑希(わらしなゆうき)です。

藁科の前勤務大学であり、大学から博士取得までお世話になった筑波大学には、学生アスリートを支えるための「トレーナークリニック」という組織があります。
※筑波大学内では、色々な組織体系がとられていますので、そのあたりは割愛します。

ここではトレーナークリニックのスタッフやスタッフを育成・養成する教員・大学院生、そして選手とクリニックスタッフとの関わりについて紹介をします。

なぜこの紹介をするかというと、このトレーナークリニックが私のトレーナー活動の原点であり、さかのぼれば自身が大学の現役選手としても支えていただいたとてもかけがえのない場所だからです。


◼︎藁科とトレーナークリニックの関わり


2006年に筑波大学体育専門学群に入学後、体育会バドミントン部に入部しました。
当時の自分の体力レベルでは、到底追いつくことのできない水準をスタンダードとして掲げている部だったこともあり、ひたすらに毎日のトレーニングに打ち込みました。

その中で、大学1年生でシンスプリントの診断を受け、1年以上現場に復帰しては休んでを繰り返しました。
その時にお世話になったのがトレーナークリニックであり、そのスタッフの方々です。

怪我をしたらどうすればいいのか、自分が自分自身にできることは何なのか、そのお手伝いをしていただきながら自問自答して、自分なりのコンディショニング方法を確立していけた時期だと思っています。

いまや、お世話になった当時のスタッフの方々は、主に大学でのトレーナー教育現場での第一線にいらっしゃるか、トップアスリートの全幅の信頼を得ている方ばかりです。
今思えば大変贅沢な環境の中、リハビリやトレーニングをさせていただいていたのだと振り返ります。

その感謝の念もあり、藁科自身も大学院生を育成する大学院生の立場を経て、教員としてもトレーナーを養成する手助けをトータル6年ほどさせていただきました。
※参照|TSUKUBA FUTURE #096:アスレティックトレーナーとしての高みへ


◼︎学生が学生を支えるための学びと指導の反復

トレーナークリニックは、支え・支えられる学生の双方が挑戦するための組織です。
より具体的には、トレーナーを志す大学院生が、大学での競技成績を本気で目指すアスリートの大学生を支援する実習場所です。

そのため、当然学生トレーナーである院生のスキルやノウハウは、プロとされるトレーナーの方々に大きく劣ります。
しかし、私の恩師がかけてくださった言葉が、この組織にいる意義として詰まっていたのだと感じています。
多くの資格を持つという手段|恩師からの言葉

トレーナークリニックのスタッフは、活動母体を体育総合実験棟(Sport Performance and Clinic Laboratory|略称: SPEC)の2階に置いています。
筑波大学体育総合実験棟

画像1

トレーナークリニックへの来室の流れとしては、おおまかに筑波大学の学生アスリートが学内の保険管理センターや筑波大学近辺の提携する病院での診断、ないしはチームドクターの診断を受け、リハビリテーション指示書とともに、トレーナークリニックへの紹介状を受け取ります。
そしてその紹介状を持って、筑波大学内SPECへ行き、そこで待つ大学院生トレーナーと二人三脚で競技復帰に向けたコンディショニングを行っていきます。

ここで大事にしていた概念は、アスリートを「患者」と捉えないこと、また「治療」ではなくトレーニングを基本として復帰を目指すということです。

学生アスリートは、そうした共通認識を持つ大学院生トレーナーに指示を仰ぎながら協力して、自身の競技力の向上を目指しながらもアスレティックリハビリテーションやトレーニングを日々行います。

学生アスリートとしてのメリットは、トレーナークリニックが大学院生のトレーナー実習現場でもあるので、支援を受ける際の費用が一切かからないということ。
また、筑波大学内の施設であるため、アクセスがしやすく、さらに学生トレーナーと運動部のスタッフ陣、そして選手自身とのコミニュケーションがとりやすい環境にあるということがあります。

デメリットとしては、学生トレーナーが学び途中のトレーナーであるがゆえに、満足度が高い支援を必ず受けられるとは限らない、という点かと思います。


◼︎学生トレーナーとしての「本格的」トレーナー実習現場


大学院生トレーナーは上記の学生側のメリットとデメリットを受け入れた上で、選手に寄り添って「いま」の自分でできる最大限の支援を選手に提供します。
つまり、日々の指導・支援と現場でぶつかった困難に対して、毎日挑戦できる環境が用意されているということです。

こんなにも学生の挑戦が奨励され、選手の生の声を毎日聞ける実習現場は他に類を見ないのではないかと感じています。

ただ、当たり前ですが選手は自分が強くなるために真剣かつ覚悟を持っているので、その覚悟に見合うような学習と実践が求められることは明白です。
「知識がないのでできません」と開き直っていると選手から見限られてしまうでしょうし、その意識や態度は選手が空気感として最も敏感な部分です。

ただこの点に関していま自身を振り返ると、すべての選手にその覚悟を持って臨めたかというと、情けなくも申し訳ないですが、完璧にはできていなかったと思っています。

そもそも、クリニックスタッフになるための内部試験制度も取り入れており、かなりの密度でインプットとアウトプットを繰り返す環境なので、2年間ひたすらに頑張り続ける心の体力も磨かれるのだと思います。

こうして学生トレーナーらは、選手と真剣に向き合うことを決め、少しでも力になるために何をすべきかを毎日考え、実践に臨む、この密度の濃い繰り返しの実習を行っています。


◼︎悩みを持つクリニックスタッフを支える協力体制と筑波大学ならではの横の連携


トレーナークリニックの通常開室時期では、毎日3時間、月曜日から土曜日までの6日間クリニックを開室し、1日あたり学生アスリートが平均30〜40名ほど来室します。

トレーナー1名につき、例年10名程の選手を担当することは珍しくありません。
3時間の開室時間だけでなく、その前後の選手の生活や部活動での活動、アルバイトや交友関係等を含めた24時間をイメージして、選手に適したトータルなコンディショニングとトレーニングの提案とすり合わせが求められます。

これら全てが最初から完璧にできるはずもないことは明らかなので、筑波大学トレーナークリニックでは、グループ制をとり、クリニックスタッフのOBOGとトレーナー育成担当の教員が全面的にバックアップする体制を整えています。

スクリーンショット 2020-07-20 18.54.25

教員としては、スポーツ整形外科の医師の先生や理学療法士の先生、さらにトレーナー陣の先生は全員が日本スポーツ協会公認のアスレティックトレーナー資格を有しています。
クリニックOBOGスタッフとして、大学院生博士課程の学生が、教員と学生スタッフの仲介役を果たし、グループを形成して、日々挑戦して膨大な悩みを抱えている学生スタッフのアドバイザー役を担います。

また、筑波大学は学部として体育と医学があり、学生トップの方ではその競技での日本代表レベルのアスリートが在籍する大学です。
そのため、大学附属病院との連携を行いながら、即時に診察やトレーニング計画の立案をできるサポート体制を整えている、包括的なサポート体制の充実に力を入れる部活動がほとんどです。

クリニックの整形外科の先生をはじめ、選手をサポートしてくださる大学附属病院の先生方や関係者の医療従事者の皆様の選手への熱い気持ちが半端ではないので、選手にとっては最良の環境とも言えるかもしれません。


◼︎選手の自立を促すために求められるトレーナー像


私が学生トレーナー指導にて必ず示すことが、先の恩師の言葉にもある概念をより具体化した以下の言葉です。

体育人として選手と一緒に動けることが当たり前で、動きの共感ができる
エビデンスだけに頼らず目の前の選手が成長できるための最善手を探せる

自身はこれを念頭に活動していますが、学生の中にはトレーナーの取り上げられる・輝かしい部分と実務のギャップが原因で、『自分はこんなことをするためにトレーナーを目指したわけではない』と思ってしまう学生もいます。
ただ、選手が覚悟を持って臨んでいることに対して、どれくらいの熱量で関わるのか、選手に少なからず影響を与える自分はどうあるべきか、という問いを常にかけられているので、そのギャップも全てひっくるめて受け止めて頑張って欲しいなと思います。

これは自分自身も含めてです。
時折弱い自分がでてしまって、選手に対して不誠実な行動や言動をとってしまう場合もあるかもしれません。
しかし、自分という存在がいなくとも、選手が自らの足で、自分の頭で考えて今後の競技生活や仕事ができるようになることを目指すことが重要だと感じています。

今のクリニックスタッフたちには、「選手の成長のきっかけの一部でもいいからお手伝いできれば」というそのままの考えでいて欲しいですし、自分でもこういった関わりができればと思っています。

選手の頭の中の「自分」というトレーナー像が指針となって、選手がどんどん前に進む後押しができることを願います。


今頑張っている現役のクリニックスタッフである大学院生のトレーナーは、これらのクリニック活動に加えて、それぞれの部活動のトレーナーとしても帯同していたり、修士の学生として研究活動や授業にも全力を注いでいます。

改めて、壁にぶつかりながらも目の前のことに誠意を持って活動し続けている彼らに敬意を表するとともに、また何か支援をし続けていきたいと感じています。

トレクリ

-----

●藁科侑希(わらしなゆうき)について
 大学教員として、教育・研究現場で活動中。また、スポーツ現場でもトレーナーやコーチとして活動。選手や学びたい人にとって、最良のアドバイザーであることをモットーに、肩書きにとらわれない現場目線のサポートを模索中。

【保有資格】
博士(スポーツ医学 筑波大学)
日本スポーツ協会公認バドミントンコーチ3
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツコーチ
日本障がい者スポーツ協会公認中級障がい者スポーツ指導員
日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツトレーナー
NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト
NSCA認定パーソナルトレーナー
高等学校教諭専修免許(保健体育科 茨城県)
中学校教諭専修免許(保健体育科 茨城県)
赤十字救急法救急員

トレーナー・コーチ・教育者・研究者に役立つ情報を日々発信していきます! サポートしていただけると、それが活力になってより楽しく内容の濃いものが発信できるかと思います^^