見出し画像

パフォーマンス向上のためのフォームの考え方

大学教員やスポーツ現場での指導をしております、藁科侑希(わらしなゆうき)です。

先日、ありがたいことに現役バレーボールアスリートから相談を受けました。今回から、その相談へ回答したことの詳細を解説をしていきます。

コーチの役割としては、基礎的な運動の理解から、それらを統合させ、競技特有の(特異的)運動の精度の向上や「キレ」や「巧みさ」を生むことが求められます。

スクリーンショット 2020-07-21 21.55.31


選手からの相談内容はこちら↓

最近のプレーに関する課題なんですけど、練習中に心拍数が上がって疲労感も強くなってくると力がずっと入っていたり、入らなかったりでフォームが崩れてミスやコントロールできなくなるんですよね。(特にジャンプサーブの動作、バレーのアタックとほぼ同じ動き)
そんな状態になった時には威力よりもフォームにフォーカスして安定性を求めることにしているのですが、試合になると出来るだけ強く、出来るだけ正確にサーブを打ち続けたいんですよね。
そこでなぜフォームが乱れるのか、改善のためのトレーニングや理論を知りたいです!
今は同じような自分の状態を意識的に作って反復してって感じで練習してるんですけど、アプローチとして合っているのか、他にも方法はないのか気になります。

前半の心拍数や疲労感とミスやコントロールができない、という部分は後のテーマとします。

それらで関連すると思われるのは、【ミスとエラー】の概念、【運動生理学的な反応】、【心理学的な緊張やあがり】あたりかと思います。これらは後日に回します。


今回は相談後半部分の回答の詳細です。それぞれ、言語化していきます。

私がパフォーマンス改善に直結すると思い回答した要点は2点で、「フォームは一つではない」ことと、「集中の分類」です。

フォームは一つではない

スクリーンショット 2020-07-21 21.52.57

球技でのコーチング現場全般ですが、同じ運動は2度起きない、という運動一回性の原理が大原則としてあります。

皆さんも自分の目の前で拍手を2回していただけるとわかりやすいかと思います。
寸分違わず「手を2回とも同じ運動をして合わせられるか」というと、具体的には肘の高さや指の開き具合、手首の角度や指1本ずつの角度、手が離れてからの時間、叩いたときの音の大きさや高さなどの細かな条件から、それらが2回ともすべて一致することはほぼあり得ません

つまり、自分では同じフォームだと思っている動き方は、毎回異なる動きをするもの、ということを認識するところから運動の理解が始まります。


点と点を繋ぐ自由度を保証する

では、シャトルを打つバドミントン選手や卓球選手、バレーボール選手らは、なぜ毎回ラケットや手でシャトルやボールを「ドンピシャに」打てるのでしょうか。

それは、自分の運動の軌跡を【線】ではなく、【点】で捉える運動の最適化イメージがあるためです。

言い換えれば、「どう」動くのかを同じように意識して動かすのではなく、「どこに」動くのかをその時々で細かく変えて動かせる、ということです。

動きを変えているのが意識的か、無意識的かというと、トップアスリートの場合は無意識的な部分の割合が多いかと思います。

練習を行う目的が、最終的には最適化された運動の自動化をすること、であるためです。


これらの概念については、「よい動きとは何か」という論文の中で実証されていることでもあります。

研究ではまず、線でのイメージ(いわゆるフォーム志向)では、最終的なインパクト(ラケットや手が目標物に当たること)は、精度がとても低い結果でした。

逆に、動き始めの【始点】から、動き終わりの【終点】を自由に繋ぐことでの運動では、インパクトの精度が高い結果を示しました。この結果では、毎回のフォームは先のものよりも軌跡が一定ではないことが示されています。

これらが何を示しているかというと、画一的なフォームに捉われてしまうと、「自由度が制限」されてしまい、自動化は促進するもののパフォーマンスから考えた運動自体の最適化を阻害してしまうということです。

言い換えれば、単一のフォームばかり教え込む・覚えると、見た目はキレイだけれど、どんどん下手になってしまう可能性が高くなる、ということです。


『当意即妙な運動』のための集中の分類

当意即妙とは、即座に機転を利かせて対応する、という意味です。

まさにこの四字熟語は、先に記載した「運動の点と点を繋ぎ合わせ、運動の自由度を保証した最適化運動をしましょう」という意味を表してもいるかと思います。

その当意即妙な運動のためには、集中を分類し、自分が今どう集中しているのか、その集中をどう切り替えるのかを考えることが大事になります。

集中は大きく、外的集中と内的集中に分けられ、さらに集中の対象が狭いか広いかという分類をされます。

内的集中とは、自分の身体の動き自体に意識を向けること。
外的集中は、環境や周りといった自分以外の対象に意識を向けること。
集中の対象の狭さは、いわゆる視野を広くするか狭くするかの違い。

相談をしてくれた選手の場合、今行っているのは「内的集中かつ視野が狭い集中」に分類されるかと思います。

これらを統合すると、対処としては外的集中にまず切り替えることと、視野を広くすること、ということで「相手」に集中の軸を置くことが重要なのだと考えられます。

なぜなら、内的集中かつ視野が狭い集中で意識していることが、【線】を意識したフォームで、かつそれを運動一回性の原理に反した「同じように」動かそうとしているためです。

線を点に切り替えるように、というアプローチでもいいとは思いますが、そもそものことを考えれば、バレーボールは対人競技です。

フォームだけに囚われることは、手段を目的と取り違えてしまっていることになると思いました。

つまり、フォームうんぬんよりも、相手がどう受け止めるか、を重視してそれを中心に自分の動きの最適化、そして自動化を促す練習を反復するべきではないか、ということです。


自立してPlayするためのゾーンの考え方

スクリーンショット 2020-07-21 21.53.28

相手を意識・集中の主体に置いた際に、上記の領域(ゾーン)の考え方が非常に重要となります。

相手にとても近い受動的領域(パッシブゾーン)
相手に最適な能動的領域(アクティブゾーン)
相手から遠い受動的領域(パッシブゾーン)

の3つが相手の周りに構成されています。

対人競技、特に球技スポーツでは、相手との駆け引きややりとりをする場合は、この概念から考える必要があります。

さらに、これらは時間的な距離と空間的な距離で区別して考えることが求められます。

時間的な距離が近いとすると、対応が間に合わないくらい速い反応を強いられます。いわゆる「テンポ」の崩しです。
逆に空間的な距離が遠いとなると、自分の手の届く範囲にないので、移動してアクティブゾーンを動かす必要が出てきます。

このように相手のゾーンから、時間的・空間的な距離のどこにどう打ち込むのか、それをどう騙すのか・崩すのか、ということを念頭におく必要があります。

これらがオープンスキルという対人競技スキルの中の「駆け引き」となり、せめぎ合いになる、とても魅力的な部分です。


まとめとして、これらの概念や前提となる運動一回性の原理、運動の自由度の保証を踏まえると、以下の回答となります。

外的集中を頭において、相手のゾーンのどこをどう狙うかを定め、運動の自由度を保証した運動ができるように、かつ当意即妙に運動を変え続けられるようにボールを打つ練習を続けましょう!

…ややこしいですね。

要するに、自分ではなく相手を見て、フォームを気にしすぎないでその結果を重視して練習しましょう、ということです。


その練習を繰り返していくと、運動が最適化され、当意即妙な運動が自動化されてできる体と感覚になると思います。

私はこれを指導現場では「しっくりくる」と表現しています。

いかに、「しっくりくる」を積み重ねるか、を考えてみましょう!


この内容が少しでも選手の理解の参考になれば幸いです。

-----

●藁科 侑希(わらしな ゆうき)
 大学教員として、教育・研究現場で活動中。また、スポーツ現場でもトレーナーやコーチとして活動。選手や学びたい人にとって、最良のアドバイザーであることをモットーに、肩書きにとらわれない現場目線のサポートを模索中。

【保有資格】
博士(スポーツ医学 筑波大学)
日本スポーツ協会公認バドミントンコーチ3
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツコーチ
日本障がい者スポーツ協会公認中級障がい者スポーツ指導員
日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツトレーナー
NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト
NSCA認定パーソナルトレーナー
高等学校教諭専修免許(保健体育科 茨城県)
中学校教諭専修免許(保健体育科 茨城県)
赤十字救急法救急員

トレーナー・コーチ・教育者・研究者に役立つ情報を日々発信していきます! サポートしていただけると、それが活力になってより楽しく内容の濃いものが発信できるかと思います^^