大失恋をしました
昨夜、私は失恋した。
29歳と、1ヶ月と、26日目の夜、家の近くの浜辺で、夜の海を見ながら。
直接話をする勇気の無かった私は、文字でリアルタイムにやり取り出来る文明の利器の便利さに感謝しながら、好きな人にLINEをした。
好きな人は同じ女性で、私も女性だから、世の中に分かりやすく名前を付けるならば、私は同性愛者ということになると思う。
男性ともお付き合いしたことがあるので、またの名をバイセクシャル。
でも私にはそんな呼称はどうでも良くて、ただ一緒にいて心地が良くて、面白くて可愛らしくて、あぁこの人を独占できたらいいのに、と思った相手が女性だっただけだ。
嘘だ。
呼称はどうでもいいなんて言うのは強がりで、本当は、呼称なんか付け(られ)たくない。
呼び名が増える度に、私には足枷や手枷が増えていくように感じる。
だって、私が自分から好きになった女の人は今のところ、あの人だけだもの。
とにかく、人生で初めて好きになって、それから2年間想い続けた人に、好きだと言った。
私は好きな感情に名前を付けるのも苦手で、これは家族愛、これは友情、これはただの情、これは欲情、動物相手なら庇護欲、なんていうのがよく分からない。
だから、いちから全部説明した。
この好きは、
例えば〇〇なときに、嬉しいこと、
あなたが✕✕するのを面白いと思うこと、
あなたに恋人が出来たら私はきっと悔しく思ってしまうこと、
だからあなたの恋人だと名乗ることが出来たらいいのに、と思うこと。
私の「好き」はそういうのが集まったやつのことだよ、と。
LINEの返事はなかなか返ってこなかった。
返事が来るまでは、色々と考えた。
まさか無視されるのかな!?というビクビク。
そんなことする人じゃない、という期待。
もし無視されたらそれはそれで面白いな、めちゃくちゃマイペースなところも、好きなところだからな、とか。
15分経って、返事がなくて、諦めて家に帰ったら、返事が来ていた。
その内容を、私は一生誰にも言わず私だけのために取っておく。
私だけのために、20分一生懸命考えてくれたであろう文章。
飽くまで私の受け取り方でしかないけれど、きっと、私が絶対に、「自分の存在を、恋心を否定された」と思わないように、考えてくれたことが伝わってくる文章。
私と彼女が、仲の良い、気の合う友達として過ごしてきた2年間を、そしてこれからどのくらい続いていくか分からない、友達としての私たちの未来を、大切にしてくれようとする文章。
私が、もし男性だったら、或いは友達としてではなく、彼女を公に独占することの許されるパートナーになれただろうか。
いや、でも男性だったらこんなに仲良くなれて無かったかもな。
男性だったとしても、フラれてたかも知れない。
あと10歳若かったら?
ここがもっと都会の大きな街だったら?
でも、もし、もしも…
私は泣いた。
たくさん泣いた。
飼い猫に涙と鼻水を付けながら、声を上げて泣いた。
失恋で泣いたのなんて数年ぶりだった。
周りの友達は、今出産ラッシュだ。
大きなお腹や、産まれたばかりの子を抱えて、大変そうに日々の生活を送っている友人たちの顔を想像すると、私の中の意地悪な私が「いい年して、同性に恋して、フラれて泣いてるなんて恥ずかしくないの?」なんて言ってくる。
うるさい、邪魔をするな。
私のこの好きという感情も、彼女の返事に嬉しく思う気持ちも、ギュッとなって痛い心臓も、2年間の想いも、全部今ここにあるのが全てだ。
恥ずかしいのは当たり前だ。
人を好きになって、心の1番柔らかいところをさらけ出したんだ。
恥ずかしくないわけない。
痛くないわけがない。
真面目じゃなくて恋なんかやってられるか。
恥ずかしくない恋なんてない。
色々な感情をごちゃまぜのまんま抱きかかえて、私は泣いた。
泣いて、泣いて、歯を磨いて、眠った。
30年近く生きていると、人間は学ぶ。
どんなに悲しくても、人間はそう簡単に死なない。
葉を磨かないと虫歯になる。
虫歯は痛い。
数時間後には朝がやって来る。
朝が来ればお腹は空く。
パンパンに腫れて浮腫んだ目と顔をしていても、私は仕事をしなければいけない。
そんな訳で、いつもより2時間ほど早く、キュッと縮んだままの心臓の痛みで目が冷めて、私はこの文章を書いている。
懲りずにまた泣いているけれど、この顔で人と合わなくてリモートワークで良かったな、沢山の我慢がある昨今だけど、ラッキーもあるな、なんて思いながら。
もう完全に日は上った。
私が住むマンションの前の、交通量の多い道路を行く、朝の早い人たちのタイヤの音が聴こえる。
エントランスにあるツバメの巣から、巣立ちの練習をするヒナたちの声が聴こえる。
ここ1ヶ月以上毎日、親鳥と一緒に飛ぶ練習をしていて、随分と遠くまで行くようになった。
きっと間もなく本当に巣立ってしまうんだろう。
私の、29歳と1ヶ月と27日目の、暑い夏の日も始まる。
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