壮大なワンパターン…五木歌唱。「夜明けのブルース」⑤
〝ほめられない大人の恋〟
五木ひろしさんの「夜明けのブルース」が描くのはそんな恋だ。
切なくて、でもどこか粋(いき)である。
〝命をかけた道ならぬ恋〟ほど深刻に湿っていない。
一方〝みんながほめるような子供っぽい恋〟じゃ、歌にならない。(かえって怖い)
ほしいのはヒリヒリする哀感だ。
この公民館のステージ上で私がどう出せるるか。
前奏が終わり、♫♫…このグラス、飲み干せば帰ると…♫♫
と歌い出した。
声はそこそこ出ている。悪くない。
全身全霊モードで歌い進める。
おっと、しかしこのままでは単調になる。
哀感が降りてこない。
そこで、肩の力をポーンと抜いて全身全霊に、マイナスアルファを加えてみる。
♫♫…夜のしじまに解けえてみようか…♫♫……このあたりでマイナスアルファの粉をパラパラと…。
あとは口から出まかせ。一気に歌い切った。
客席から大きな拍手をいただいた。(期待していた以上の)
どうであれありがたい。
でも「粋な恋」が、描けたか。
無理だったかもしれないなあ。
カラオケには歌い手の人生が映し出される、といいますから…。
◇
https://www.youtube.com/watch?v=3wwHr4vhjZA
「粋」の言い換えをあれこれ調べていたら、「単純美」という語に出会った。
過剰なもの、華美な要素、大げさな部分……をそぎ落とし、
シンプルな幹だけを残すと、「単純美」が浮き上げってくる。
それがつまり「粋」だよと、道がつく。
いいなあ。
ワンパターンの五木歌唱と、私は書いた。
「ワンパターン美」。言い換えると「粋」「単純美」。
シンプルだからこそ聴き手の胸に染みてくる。
壮大な五木ワールドに浸され続ける。
(この項終了)