見出し画像

『空野雲行があやしい』 #創作大賞2022

【プロローグ】

世界中で膨大なデータが生まれ続けている。
毎日、毎秒、今まさにこの瞬間も。

それはまるで夏の積乱雲のように、目を離した隙にみるみる大きくなり、いつの間にか姿を消している。

例えば、統計や研究結果、資産などの数値データ。
あるいは名前や住所、経歴だけにとどまらず趣味嗜好までも含んだ個人情報。

そして文字や音声、動画から作られる、物語・音楽・映像といった「作品」と呼ばれる記録がある。

画像1

何度も見返すデータもあれば、二度と開かれる事の無いファイルもある。
自分にとっては宝物でも、他の誰かから見ればガラクタ同然であったり、その逆のケースも少なくない。

その昔、記録を残すのは石や紙の上でしか出来なかった。
それがいつしかテープとなり、ディスクとなり、チップとなり、科学技術の進化によって媒体はどんどん小さく便利になっていった。

画像2

そして現在、記録媒体はもはやその形を無くし、「クラウド」と呼ばれるインターネット上にデータを管理・保管をするシステムが主流となる。

画像3

ところでクラウドと言えば雲という意味だが、今では空に浮かぶ白い雲にロケットで「雨の種」となる化学物質を打ち込み、人工的に雨を降らせる事もできる。

画像4

天気予報の精度は日進月歩で、これだけ科学技術を進化させてきた人間でも、未だに解明できていない雲がある。

それは「ヤミ雲」と呼ばれる、人間の心の中に広がる黒煙のようなもので、不安や悩みによって作られるストレスの雲だ。

画像5

人は、心にストレスを生み出す度に新規保存し、そのほとんどをフォルダの奥深くに押し込んでは、消去できずに容量不足で苦しんでいる。

これは、そんな「目に見えなくて形の無い、ありとあらゆるデータ」にアクセスできる少年 “空野雲行” の、雲を掴むようなお話。

画像6



ここは、とある座標の上にある町の公園。

画像7

一組の家族が抱えるストレスによって発生した、ヤミ雲群を感知。

画像8


画像9


画像11

いつの間にか迷子になってしまった我が娘を探す母親と父親を見つけた。

画像10

画像12

画像13

画像14


この町中の防犯カメラの映像のほとんどはサーバーに保存されている。
そこから検索すればきっと見つかるハズだ。

画像15

“検索中・・・・”

画像16

“1件ヒットしました”

────見つけた。

画像17

画像18

あの子だ。

画像19

…それにしてもヤミ雲が大き過ぎる。

あんな小さな体なのに。
500MBくらいあるかもしれない。

ならば。

画像20

「こんにちわ、りのちゃん」

画像21

「パパとママが探してるよ。ボクと一緒に行こう」

画像22

画像23

「え、どうして!?」

画像24

…なんてこった…。確かにいきなり現れて驚かせてしまったかもしれない。

「あ、あやしくないよ!ボクは空野雲行っていうんだ!」

画像25

そりゃ疑うに決まってる。自分で「あやしい者じゃない」と言うやつほど信用できないものはない。

「じゃ、じゃあボクがパパとママに連絡するから、ここに来てもらおう!その間一緒に待っていようよ」

画像26

画像27

画像28

GPSでこの場所をスマートフォンに送った。これで来てくれるはず。

「今、こっちに向かってきてるから、あと少しで会えるよ!もう安心だね!」

画像29

…おかしい。ヤミ雲が全然晴れない。
親とはぐれた不安が原因じゃないのか…?

「ねぇりのちゃん、パパとママに会いたくないの?」

画像30

…なるほど。この子を蝕むヤミ雲の正体はこれか。
このまま親と合流できた所で、この子の空はいつまで経っても晴れる事は無いかもしれない。

画像31


「そんな事無い!」


画像32

「そんなこと無いよ、りのちゃん。…だけど、良い事も悪い事も、口にしてしまうとその通りになってしまう事があるんだ。
りのちゃんはパパとママの事好き?」

画像33

画像34

“コピー完了”


画像35

画像36

画像37

画像38

画像39

画像40

画像41

やっぱりこうなったか…。でも大丈夫。りのちゃん、見ててね。

画像42

画像43

“ペースト”

画像44

画像45

──よし、間に合った。

画像46

画像47

画像48

画像49

画像50

画像51

画像52

画像53

“ペースト完了”

画像54

画像55

画像56

画像57

画像58

画像59

画像60

画像61

画像62

画像63

「よかったね、りのちゃん」

画像64


明日も晴れますように。



──この物語は、すべて空想です。──



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?