内山壮真の言葉の力

「チーム一人、誰もまだ優勝諦めていないんで。チーム全員でこの後巻き返して、このシーズンも必ず優勝できるよう最後まで頑張るので。また応援よろしくお願いします!」

弱冠二十歳のこの言葉で己の小ささを恥じる。
凛々しいけれどまだあどけなさの残る顔つきの青年は、まっすぐな目で、揺らがない声で、自分の言葉をしっかりと口にした。

彼の名は内山壮真。20歳。背番号33。
本職はキャッチャーだが今季は外野に挑戦し、高校時代は一時ショートも守っていたというから驚きだ。
スワローズファンでなくとも、昨年の日本シリーズで放った起死回生の3ランは印象強いだろう。

そんな彼が高校時代に、出身校こと星稜高校のキャプテンとしてインタビューを受けていたのは知っていた。
けれど何かと理由があって手を付けられず、お恥ずかしながら今更、掲載されている『あの夏の正解』という本を読み始めた。

タイトルに「あの夏」と冠していること、彼が名門のキャプテンだったこと、そして彼がドラフト指名された年が2020年だったこと。
それらでお察しいただけるかと思うが、その年の甲子園が完全に中止となり、それを受けて高校球児たちは何を思うか? と尋ねて回ったノンフィクションである。

まだ彼が初めて出た章まで読み終えたところなので、偉そうに語る資格がないとわかっている。
それでも、昨日のヒーローインタビューを聞いて、筆を取らずにはいられなかった。

彼はとても責任感の強い人であり、小さい頃から大切に育てられたのだとすぐに感じ取れる。
オフショットというか、すわほーカメラなどで長岡秀樹といるときなんかは、年相応の若者にしか見えないが、一度公の場に立った彼は立派な一人の野球人でしかない。

そういう時、決まって彼のコメントは丁寧かつ洗練されており、何より人を引き付ける力を宿している。
言葉選びだろうか、声色だろうか、はたまた伝えるときの眼差しだろうか。
きっといろんなものが彼の言葉を引き立てているのだろう。

冒頭の通り、そんな彼が昨夜応じたヒーローインタビューを聞いた私は己の小ささを恥じた。
というのも今シーズンに関してはほぼほぼ諦めており、中継や現地観戦もするし、もちろん応援するけれど、悪い意味で気楽に観ようと思ってしまっていたのだ。
そんな状況で飛び込んできたのが、冒頭で引用した、彼のヒーローインタビューにおける一節である。

ハッとさせられた。
我々ファンが彼らを信じず、一体誰が信じるというのか。
力強い言葉に目を覚まされた私は、昨晩からどこか妙に意識が覚醒しすぎている。

称賛として聞いてほしいのだが、やはり彼は出来すぎだ。
このまま育っていけば、きっと、球史に名を残すほどの選手になるだろう。
彼がこのまま歩めるよう私たちは応援するし、彼の躍進を信じている。もちろんチームに対してだってそうだ。

だからどうか、秋に「壮真の言う通り、諦めなくてよかった」と涙を流させてほしい。それが私たちが今、一番彼に伝えたい言葉だろう。

余談だが、冒頭のヒーローインタビューはスワローズ公式YouTubeに掲載されている。約2分半、彼の言葉に耳を傾けてみてほしい。
きっと、揺さぶられるものがあるだろうから。


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