空母遼寧の御用撮影師と裏の意味

■空母の実戦化を急ぐ中国
 中国は第二次世界大戦後からアメリカを敵視しており、原子力潜水艦の実戦化に邁進した。この段階では、人民解放軍海軍の活動は原子力潜水艦を主力とした戦争が前提だった。水上艦は脇役であり質と量は劣るものばかりだった。

 中国は大陸国家であり陸軍国家。このため資金の多くが人民解放軍陸軍に投入され、人民解放軍海軍の水上艦艇は後回しにされていた。人民解放軍の戦力はアメリカ軍と比べると劣るのが現実。この現実から、人民解放軍海軍の原子力潜水艦でアメリカ軍基地への攻撃と来航するアメリカ海軍の戦力を消耗させ、上陸したアメリカ軍を人民解放軍の量で潰す構想だった。

 だが中国の急速な成長は政治だけではなく軍事にも影響を与える。1990年代後半からのインターネットの普及はグローバル・スタンダードを生み出した。これが安い人件費が武器となり、中国は世界の工場へ変貌した。

 中国は資金を得て軍事を近代化させた。それだけはなく、アメリカ海軍に勝利すべく空母を強引に獲得する。能動的な戦略から能動的な戦略への変更は、空母の実戦化を加速させるには十分だった。だが、その空母の実戦化は未だに遅れている。

■訓練艦としての役目
 人民解放軍海軍は空母「遼寧」を運用している。元はソ連海軍で設計されたアドミラル・クズネツォフ級航空母艦ヴァリャーグの未完成艦で、ウクライナから中国が購入した。

ウクライナはスクラップとしてマカオの創律集団旅遊娯楽公司に売却し、1998年の時は表向き海上カジノとして使用する予定だった。これは偽装だったことは直ぐに明らかになるが、中国は空母として完成させた。

 2012年9月25日、001型航空母艦「遼寧」と発表された。遼寧は中国の国産ではないが、設計・運用を学ぶための実験や訓練艦としての役目を持っていると思われる。初めて空母を作るにも経験も無いし運用しての経験も無い。ならば未完成艦でも獲得すれば設計を学ぶことは可能。

 遼寧に問題が有るのは事実だが、運用のトラブルをフィードバックすれば次の国産空母に反映できる。この意味で遼寧は国産空母の礎であり、訓練艦としての役割を持っている。だが遼寧の運用は容易ではなかった。2012年から遼寧は運用開始されているが、2022年になっても実戦に使えるだけの運用レベルに到達していない。基本的に配備されて10年で一人前になるが、遼寧の運用は艦隊として運用するレベルに到達していないのが現状だ。

■反発する中国
 中国は威信をかけて遼寧を宣伝したが、実際は戦力として使うことは出来なかった。遼寧用の艦載機と訓練を行ったが、10年経過しても空母を中心とした空母打撃群を運用できていない。

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 海上自衛隊は遼寧を常に監視していることは知られている。実際に中国は、海上自衛隊を「遼寧の御用撮影師」として嫌っている。だが海上自衛隊が撮影できることは、“砲撃で撃沈できる距離まで到達できる”ことを意味している。

 結論から言えば、海上自衛隊は何度も遼寧を撃沈している。本来ならば、遼寧を守る水上艦・潜水艦が外国海軍の接近を妨害する。空母は単独で行動するのではなく、空母を守る水上艦・潜水艦で空母打撃群を編成し空母を守るのが基本。

机上の空論
「戦闘における個艦の戦闘能力が不可欠の要素と見なす」

現実
「現実の戦闘では艦艇運動の良否が不可欠の要素となる」

 空母を中心とした艦隊陣形で空母打撃群を運用するのだから、艦隊陣形を維持することが戦闘の要になる。しかも接近する敵海軍やミサイルを排除するのだから、平時に仮想敵国の艦艇に接近されたら練度が明らかになる。

 中国が反発した理由は、“人民解放軍海軍の練度が低いことを宣伝された”からだ。それを隠す目的で遼寧の御用撮影師と発言している。何故なら、中国は遼寧の発着艦を映像として宣伝しているから撮影されることは問題ではない。遼寧を撮影できる距離まで接近されることは撃沈できることを意味しているから、接近を妨害できない現実に苦しんでいる。

■練度の低さ
 兵器を購入して10年で一人前になるのが基本だが、遼寧を中心とした空母打撃群は未だに一人前ではない。本来ならば、現段階で水上艦・潜水艦をセットにした運用が一人前になっているはず。現実は艦隊陣形すら到達できていない。これは練度の低さであり運用ノウハウを蓄積できていない証になる。

 今の兵士・下士官・士官が次の主役になる。だから10年経過すれば問題点を見つけて改善する。これが運用ノウハウとして蓄積されるのだが、人民解放軍(陸海空)では問題点を見つけて改善する運用ノウハウが軽視されている様に感じる。これこそが人民解放軍(陸海空)の致命的な問題であり超えられない壁になっている。

 さらに人民解放軍海軍で致命的なのは、沖縄の基地が活動を妨害していることだ。人民解放軍海軍が海外で活動しても、沖縄の基地が日米共同で人民解放軍海軍の補給線を遮断する。さらに人民解放軍海軍の長期活動はできず練度向上を阻害している。

■軽視すべきではない
 人民解放軍海軍の練度が低いことは明らかだが軽視すべきではない。太平洋での戦闘は困難でも南シナ海では数で日米に対抗できる。さらに人民解放軍海軍が機雷を南シナ海に敷設すれば海上交通路を遮断可能。これは練度が低くても実行可能だから、南シナ海で活動されることが危険なのだ。

 皮肉なことに高額な空母打撃群よりも安い機雷の方が日米には驚異。これでは資金を投入した空母の面子丸潰れ。だから遼寧を強引に実戦化しようとしているが、うまく進行していない。ならば中国は、面子優先で空母打撃群の訓練を強化するだろう。だがその時、練度の低さを宣伝するのも事実だ。

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