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伏線探偵

「この経験を活かして、、」

と言っている人を見ると、どこで使うんやろな。と思ってしまう時がある。いや、その経験、どこへの伏線になっていつ回収するんだろうと。てかそもそも目標と関係ある経験してなくない?と。


僕の通っていた小学校は全学年1クラスしかなかった。

それも20人くらいで1クラスだったので、卒業式では一人一人卒業証書をもらった後に、保護者の方を向き、自分の将来を語るという場面が設けられていた。

当時はそれが普通だと思っていたが、普通にやったら尺がショートしてしまうからこその演出だと気がついたのは中学校に上がってからだった。

「僕の夢は、介護士になることです。なので、色々な人に寄り添える人になりたいです。」とか「私の夢は歌手になることです。私の歌でたくさんの人が楽しい気持ちになって欲しいです。」とか。

それを1学年上の人たちがやっているのを見た僕は、「いや、これ俺もやんのかぁ」と思ったことを覚えている。

そんな中で、5人くらい「小学校での経験を活かして中学校でも頑張りたいです。」と言う人がいた。

「僕は宇宙飛行士になりたいです。」「僕は世界中を旅したいです。」と言う枕詞の後に、教師が「こう言えばかっこいいんじゃない?」と黒板に書いたであろう言葉をそのままつけた人が多いなという感想を持った。

小学校で、宇宙飛行士と世界放浪に活かせる経験あったのか?NASAの出張授業とか電波少年の再放送をみんなで見たとかあったのか?という疑問だらけだった。


そんなこんなで自分の時はなんかクサイこと言ってお母さんが恥ずかしがっていたことも覚えている。

「僕はなぜ?ということをたくさん見つけて、一つ一つ考えられるようになりたいです。そして、世の中の謎をたくさん解き明かしたいです。」

今考えても気持ち悪い。当時は探偵学園Qの影響モロに受けてたな。




"伏線回収"というのは、思っていないところでやってくる。この経験があったから。じゃなくて、あの経験、ここでつながるのか!の方が圧倒的に多いように思う。


まだ大学生でアルバイトをしていた頃、遅番に必ず19時からしか入らない先輩がいた。

僕より四つ年上で、毎日工場で働いた後にバイト先に来て、ラストまでやってから、また朝に工場へ行くというトンデモスケジュールをこなす先輩は、「俺、お金がどうしても今すぐにいるんだよね。」が口癖の、とても優しい人で僕は結構話しかけることが多かった。

唯一嫌なところを挙げるとすれば、毎日バイト先の食堂に入ってくるときに、ケータイをマナーモードにしていないので、メッセージを打つカタカタという音が、食堂に響き渡り、めちゃくちゃうるさいことくらいだ。

「先輩、そのLINEを打つ音めちゃうるさいです。」

「あ、ごめん。でもこれLINEじゃないんだよ。」

「あ、そうなんすね」

「カカオトークなんだよね。」

「あーなるほど。」

…カカオトーク?今時、カカオトークを使ってる奴なんているんか?あれって出たての時から蔑まれてなかったか?変な人やん。この人、変な人やん。

先輩はその日からマナーモードにしてくれたので、特に不満を感じずに過ごしていた。


「先輩、この後ラーメン行きましょうよ」

「いやー明日も5時起きだし、俺、お金がどうしても今すぐいるんだよね」

「残念、また行きましょ」


その後、先輩と3ヶ月くらい仕事をしていると、どうやら子どもが2人いるということもわかった。子供を育てるということは、相当お金がいることなんだなぁと感じて、結婚が怖くなったことを覚えている。

「先輩、子ども2人もいるとお金結構かかるんすね。」

「え?あーそうだろうね。」

何で他人事みたいな感じなんだ?この人。


僕の中になぜが溢れてくる。

「僕はなぜ?ということをたくさん見つけて、一つ一つ考えられるようになりたいです。そして、世の中の謎をたくさん解き明かしたいです。」

小学生の僕がそう言っている。あの時の経験、ここに繋がるのか?


「先輩、子どもいますよね?」

「いるよ。2人。」

「何でさっき他人事みたいな言い方してたんですか?」

「あ、俺、離婚してるの。」

地雷踏んでしまった。やらかした。終わった終わった。小学生の僕と大学生の僕は心の中で土下座をかましている。

「ごめんなさい、変なこと聞いて。」

「全然いいよ、知らなかったんだ、じゃあ俺が前の奥さんの妹と今付き合ってることも知らないんだね。」


…小学校の舞台上の僕がまた顔をあげる。

「え、前の奥さんの妹さんと今付き合ってるんですか?」

「うん。俺、元々工場長の娘と結婚して、同じ家に住んでたからさ、そこに嫁の妹もいたんだよ。まぁ、一緒に暮らしてるうちに妹と付き合い始めて、今の奥さんに慰謝料払ってる途中なの。」

怒涛の展開はまだ続く。

「慰謝料が払い終わるまで、妹と連絡とるなって言われてさ、妹は、いま親からケータイ解約されてるんだよ。」

すごい話だ。そんな漫画みたいな話あるんだ。



だから、どうしても今すぐお金必要なのか!!!

すごい速度で展開される事実に震えたのは初めてだった。伏線回収とはこういうことか。

「え?じゃあ、妹さんとは連絡今取ってないんですか?」

「ううん、取ってるよ。ケータイを俺が買って使わせてる。バレたら終わりだけどね。」

「いやそれケータイ使ってるところ見られて、履歴見られたら一発アウトじゃないですか。」







「カカオトーク!!!!!!!!」

思わず叫んでしまった僕はこう続けた。

「LINEならすぐに履歴見られるけど、まさか今時カカオトーク使ってるなんて思わないから、確認されないと。そういうことですか?」

「すごい観察力だね。」


こんな伏線回収は初めて見た。まさかあのカカオトークが伏線になるとは。

その2ヶ月後、先輩は無事慰謝料を払い終わり、バイト先を辞めて妹さんと仲良く2人で暮らしているらしい。



こんなところで繋がるのかという経験は、これからもたくさんあると思う。だからこそ人生は面白いと思える人でありたいと心から思った。

そして、小学校の時の舞台の上でクサイ言葉を放った経験を活かせる場所があったことを誇りに思う。



ん?少し、謎が小さくないか?








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