【ぶんぶくちゃいな】経済と人口問題、中央銀行は「文系亡国論」を説く?

中国の中央銀行にあたる中国人民銀行がSNSの公式アカウントを通じて4月14日に発表した、「我が国人口動態への認識と対応策について」(以下、「人口動態レポート」)というワーキングペーパーがちょっとした議論を巻き起こしている。

ワーキングペーパーとは、専門家が学術の世界ではなく一般に公開する指針表明のものといえるだろうか。読者が学者ではなく、社会一般の人たちという前提なので、あまり小難しい原理や学術的な引用を元にテーマを論じるよりも、読む人にわかりやすく研究内容を伝える意図を担ったものである。

この人口動態レポートでは、すでに騒がれて久しい中国の人口減少化と社会高齢化問題について、経済的な影響を述べ、その原因を分析し、人口拡大のための手段を提案している。

我が国の人口動態はすでに逆転状況に入っており、目に見えない爆発点が近づきつつあることを認識すべきである。人口のボーナスは当時は良きものであったが、その後その負債分を返済しなければならないことを認識すべきである。人口慣性の巨大な逆行力、そして動態変化後の人口減少のスピードが我われの想像以上であることを認識すべきである。人口はゆっくりとした量的変化ではあるものの、加速化、不可逆的な特徴を持つことを認識すべきである。教育とテクノロジーの進歩は人口減少の影響を補うには十分でないことを認識すべきである。

こうして、いっぱい「認識すべきである」と言われても、この分野はもともと政府の政策によってがんじがらめにされてきたのが中国である。一般公開されているものの、結局読むべきは政権関係者であり、しかしここにある内容は政権関係者なら当にわかっているだろうから、やっぱり庶民向けに公開されたものなんだろう。

日本も高齢化社会と言われ、老人人口が全人口に占める割合が世界トップ(高齢社会ランキングはこちら)となって久しいものの、日本ではこれほど危機感を漂わせた言説はほとんど聞かれない。すでに「世界一の高齢化社会」と言われているのにも関わらず、だ。

前傾の高齢社会ランキングを見ると、2019年度において中国は64位に位置しており、高齢化率は11.47%と、トップの日本の28%に比べて大きな開きがある(日本は「高齢化」の上に「超」がつくくらい別格だ)。

中国の人口政策はというと、ご存知の通り1979年から俗に「一人っ子政策」と呼ばれる人口抑制策が進められ、厳しい徹底策が講じられた。そのあまりのやり方は西洋社会で人権問題として取り上げられた一方で、国内では政策に応じて子供を1人しか持たなかったのに、成長した子供が不慮の事故や病気で亡くなるなどの悲劇に見舞われた家庭も少なくない。

だが一方で政府は、2010年になって「人口ボーナス」が頂点に達したとき、いわゆる「一人っ子世代」の第一世代が子育て期に入ったところで危機感をいだき始めた。

というのも、一人っ子の結婚で引き続き子供を1人に制限すれば、この先人口はますます先細るだけだと。一方で医療事情の改善で寿命が伸びており、長生きをする老人が以前に比べて増えていることも。つまり、「少子化高齢化」だが、中国の場合前者は政策によって厳しい制約の結果というのが、日本などの高齢化社会と違う点だ。

そしてかつての強制的な少子化はそのまま、成長した一人っ子世代の絶対的な人数減になり、つまり今後は経済及び社会を支える労働人口が減っていくことを意味していた。

そこで慌てて、まず一人っ子同士の結婚において二人目出産を許し、それでは追いつかないと気づくと、一人っ子政策自体を廃し、公然と二人目出産を奨励し始めた。

しかし、とき既に遅しだった。

●子供が減っていく――中国の焦り

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