【読んでみましたアジア本】「そうくるかっ」最後の最後で思わず叫んだ一冊:陳浩基・著/玉田誠・訳『世界を売った男』

2017年に出版された『13・67』で、日本ミステリーファンの投票によって海外ミステリー作品1位に選ばれた、香港人ミステリ作家の陳浩基さんの作品として、2012年に最初に日本に紹介されたのがこの『世界を売った男』。昨年11月に文庫になって再登場したので、手に取りやすくなった。

帯には「香港に鬼才、出現」とある。確かに『13・67』はなんの基礎知識なく読んでも、衝撃的だった。香港という土地にミステリがあること、あの香港をミステリの舞台に仕上げたこと、さらには一章一章時代を遡る短編が、実は香港の大事な歴史の節目を追いかけていたこと、そしてストーリーはその歴史的大事件とはほぼ関係なく淡々と遡っていくこと、そして最後の最後にぴらっと現れる一本の伏線…

かなり分厚い本ながら、一挙に読み進めていく面白さがあった。加えて言うなら、昨年末に急逝された翻訳担当の天野健太郎さんのすばらしい日本語センスと、翻訳のこだわりで、日本で発表された中華圏文学として間違いなく、歴史に残る地位を築いたのが『13・67』だった。

昨年11月にファンが主催して香港で行われた陳浩基さんとの集いに、偶然わたしも現地にいたので参加したところ、わざわざ日本からその集いのためにかけつけた熱心なファンもいて、彼の『13.67』が香港つながりで陳浩基ファンになったわたしとは、まったく違う世界を日本で広げつつあることを痛感した。そこでは完全に香港的なものにこだわるわたしのほうが、ミステリ大好き、小説大好きな人たちの中で浮いた存在だった。意外に、香港に住んでいる日本人のほうが読んでないみたいで、これもまた不思議だった。なんでだろ?

まぁ、陳浩基さんといえば、わたしも昨年のインタビュー(「【ぶんぶくちゃいな】香港は現代のカサブランカなんですよ」)のときにじっくり堪能させてもらったが、とにかくおしゃべり大好きで、サービス精神の旺盛な人。小説の中の香港がいかに生み出されたのか、自身の体験も加えてそれは丁寧にお話ししてくれた。

マジ、彼の本を刊行する出版社さん、彼の出版記念講演は「中華圏のミステリとは」なんてかたっ苦しい話じゃなくて、彼の目に映る現地社会の話を話してもらったら、もうそれだけがエキゾチックなミステリの世界。ますますお客さんたちがウキウキすることうけあいですよ。ぜひやっていただきたい。

●オーソドックスなミステリーと思いきや…

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