【ぶんぶくちゃいな】2020年の「五四運動」記念日

5月4日。

たぶん、今でも日本の歴史教科書は教えているはずだ。1919年のこの日、「五四運動」が起こった。1915年に日本が中国(当時は中華民国)に突きつけた「対華21か条要求」を発端に、日本をはじめとする列強による国土の分割に反発が高まり、抗日及び対帝国主義運動が北京大学で始まった日である。

そして上海でも魯迅や陳独秀、胡適など文人が論を張ったこともあって、中国では「五四青年節」と呼ばれて青年の愛国精神を喚起させる記念日として位置づけられ、中国の歴史においては、日本の明治維新に近い「原点」のように扱われている。(もちろん、明治維新は若者だけのものではないし、政治体制の変化からすれば辛亥革命あるいは中華人民共和国の建国などが文字通りの「維新」だが、大きな時代意識の変革をもたらしたという意味では五四運動のほうがより近いとわたしは思う。)

昨年はそれからちょうど100周年だった。だが、秋に建国(1949年)70周年を控えていたせいか、意外なことに大きな五四運動の記念式典も行われなかった。その一方で、文壇や思想界とは別に、抗議活動を経て中国の近代を切り開いたその記憶を政権が薄めようとしているのではないかと思えるフシもないわけではない。

そこに今年はちょっとした話題が飛び出した。きっかけは、5月3日夜の中央電視台の7時のニュースCM枠で流れた、動画配信サイト「bilibili」(「ビリビリ」、中国では「B站」と略される)の企業CM「後浪」だった。その完全版はこちらで見ることができる。

タイトルの「後浪」とは、中国では「後ろの浪が前の浪を推す」という表現で使われる。多くの場合、「前浪」は年長の者を、そして「後浪」は若者を指し、そうやって後から後から波(浪)が押し寄せて前進が続く様子をいう。五四青年節に後浪とくれば、それが青年に向けられたメッセージであることは間違いない。

この動画をきっかけにさまざまな議論が噴出した。今回はそこから中国社会の青年たちに向けられた「視野」を拾ってみたい。

●「わたしの心は羨ましさでいっぱい」

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