【ぶんぶくちゃいな】それぞれの「深夜食堂」

このところ、香港や中国から次々と知り合いが日本に遊びにやってきて、一人暮らしのわたしは日本語をしゃべるより中国語をしゃべっている時間のほうが長いかも?と思う日が増えた。

彼らはみな、自分たちで予定を組み、宿泊先もすべて手配して、やってくる直前に「行くよー!」と連絡してくる。ほとんどの人が2回め、3回め以降なので、言葉ができなくても手慣れたものだ。事前の調査も綿密で、よく調べてるなぁ、と思うほどだ。もちろん、手にしたスマホが大事な情報源であることは間違いないのだが。

2013年の今頃、まだ日本では前年に起きた反日デモの影響で中国に対して戦々恐々としていた頃、社員旅行に日本を訪れた中国人に集まってもらい、彼らが目にした日本を記事にしたことがある。結果、この記事はこれまでわたしが書いてきた中でも1、2位を争う大反響を引き起こした。

この記事「社員旅行で眺めた日本」に参加した「モンさん」もつい最近東京にやってきた。彼は2回めの東京だが、昨年結婚したばかりの奥さんに見せてやりたくて…と笑った。

彼らはAirbnbで借りた高円寺のマンションに滞在し、9日間をのんびりと過ごしたようだ。こうした民泊は街の中心部から離れてはいるが、住宅そばのマンションや一般の住宅を見て回ることで生活の違いに触れることができる。モンさん夫婦も滞在中に近くの小学校で撮った草野球の写真をアップしていた。一戸建ての家のデザインを眺めて、美術史の先生である奥さんと一緒にいろいろ研究をしながら街歩きを楽しんだようだ。

そんな中国や香港からやってくる彼らに「日本の今」を教えてもらうことも多い。4年前の記事と同じように彼らは我われが見慣れた風景を、言葉にして解説してくれる。それはときに我われにとってはものすごい情報量で、ぼんやりと東京で暮らしているわたしは恥ずかしいほどに気づいていなかったことに気付かされるのだ。

イベントや観光情報だけではなく、食べ物にもうんちくを傾ける人がいる。そしてモンさん夫婦もそうだったが、裏通りの小さな店で日本人に混じってメニューも読めないままとにかく「食べてきた!」と楽しそうだった。なかなか見上げたサバイバル精神だが、そんな人たちのうちかなりの人たちが「『深夜食堂』を観たから…」と口にするようになった。

日本のカルチャーというとまずアニメだと思うだろうが、日本に個人旅行でやってくるような都会暮らしの中産階級中国人には、すでに「深夜食堂」のような渋いドラマがバイブルのようになっていて、彼らはそれを頼りに都会の喧騒の裏側にある「情感たっぷりな」日本を体験したいと思い始めている。残念ながらそういう店のほとんどが中国語どころか英語のメニューすらないが、敢えて異次元のような体験をすることを楽しんでいる。

●裏道の味わいに惹きつけられた中国人たち

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