【ぶんぶくちゃいな】絶望の中国東北:奪われ、奪い合う人たち

先週、インターネットに投稿されたこんな写真が話題をさらった。

明らかに素人写真とわかるブレた写真だが、同時にそのブレから撮影者の驚きが伝わってくる。この写真のおかげで「冰花男孩」(「冰花」は氷の結晶のこと)と呼ばれるようになった少年の髪、そして眉毛をまっ白に染めているのは、霜だった。

この少年は雲南省魯甸県転山小学校3年生の王福満くん。なんと、毎日片道1時間半かけて学校に通ってくるそうだが、この日は寒さで髪の毛や眉毛の水分が霜柱になってしまった。後ろのクラスメートたちが大笑いしているのを見ると、さすがに同地でも珍しいことらしい。それでも彼は、「いつもなら4〜5枚服を着るけれど、この日は暖かかったから2枚で出かけたんだ」と語ったという。

王くんが暮らす魯甸県は中央政府貧困県に指定しており、同県を包括する昭通市(注:中国では「県」は「市」の下にある行政区画)では113万人あまりの貧困人口がおり、そのうち小学生が13.87万人含まれている。そして、その数は同市の小学生総数の47%近くを占めているそうだ。

中国では、王くんのように長距離の道のりを歩いて学校まで通う子どもたちは少なくない。中国教育部(教育省)は2000年に44万校あった農村部の小学校を統合して2012年に15.5万校まで減らした。教育部はその目的をはっきりと「資源の浪費解消だ」と公言している。

統合が進んだ結果、2008年の調査によると、全国8県77農村地区で学校までの距離が遠くなった小学生は58.86%、そして増えた道のりは平均9.19キロとなった。これは平均だから、もっと遠くなった子どももいるわけだ。王くんが暮らす雲南省昭通市でも、市下943村の35%は小学校までの距離が5キロを超えている。

2013年の国家統計によると、都市と農村の学校1000校のうち、7.2万人の農村学生が通学に費やす交通費は合併前より年間平均で390元(約6740円)増えて、839元(約14500円)となった。そのうち、学生1万人の家庭にとって、この交通費は年間収入の10%に相当するという。

中国政府は1990年代に貧困地区に549億元(当時のレートで約6300億円)を投じて16000校を超える小学校を建設したが、この統廃合を経て現在ではわずか30%の学校が利用されているだけだという。さらに2013年に審計署(統計署)が行った調査によると、廃校になった学校の建物のうち半数が打ち捨てられた状態で放置されているそうだ。

中国のこういう数字はもう想像を絶する。顔も知らな人たちが、いまだに我われの常識を超えた環境で暮らしていることを知らされるばかりだ。

中国のネットで「冰花男孩」のような写真がシェアされて話題になるのは、都会で暮らす人たちが、自分の故郷だったり親戚だったり、あるいは仕事で出向く先だったりと、こうした地域がまだまだ自分とつながったところに存在することを常に意識しているからだ。

以前も書いたことがあるが、某西洋先進国の大使館で働く30代の友人は北京から父親が待っている故郷に帰るのに40時間くらいかかると言っていた。優秀だった彼はラッキーにも北京の大学に入学できてその村を離れることが出来たが、里帰りすると今でも変わらない村にいつもため息をついている。

しもやけだらけの手をした「冰花男孩」に驚いた人たちからは王くんの暮らす地域に30万元(約520万円)ほどの募金が届いたという。だが、王くんに渡されたのはわずか500元(約8600円)だったとメディアが報道したことで、現地の福利局が叩かれている。

貧しい農村に暮らす少年にぽんと500万円相当のお金をぽんと渡すことが良いことなのかどうか、これもまた悩ましい問題である。ちなみに王くんの父親は、「労さずして大金を手に入れることができると息子に覚えさせたくない」とメディアに対して語ったとされる。

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