【ぶんぶくちゃいな】方方日記その後:「忌まわしい記憶」と文革世代

「『ロックダウン下の灯火』作家方方の武漢日記」でご紹介した、武漢市在住の作家、方方さんの「武漢日記」がその後、ちょっとした騒ぎに発展している。

ことの始まりは、60日間続いた日記が3月24日に最終回を迎えて、その10日後に米国のアマゾンで英語版のオンライン予約販売が始まったこと。実際の販売開始は6月だという。これはデジタルならともかく紙書籍も含めた出版スケジュールからすると驚くべき速さである。わたしが実際に方方さんに近い人から得た情報によると、ちょうど彼女の別の作品を英語化していた翻訳者さんがリアルタイムで日記を読み、「まずこちらを出すべき!」とすぐに翻訳を開始したらしい。また、別の香港の出版関係者の話では、3月の時点ですでに英語版のほか、日本語版、スペイン語版、フランス語版の版権が売却されていたという。

前代未聞の長期的な都市封鎖において方方さんの日記は日々、発表を待ちかねる百万単位の人たちにさまざまな感情のうねりを引き起こし、自粛生活を強いられていた全国の人たちにとってほぼ唯一といえる共通の話題にまでなったのだから、この注目度は決して不思議ではない。

ただ、その後世界中でロックダウンや自粛生活が「日常」になってしまい、それぞれの都市でそれぞれの「封鎖日記」が刻まれているはずで、方方さんの日記がどれほど商業的価値をもつのだろうかと思ったりもする。とはいえ、これはこれで一つの大事な記録として残すべきであり、そういう意味での価値は疑う余地はない。

しかし、英語版発売の情報が中国に流れると、事態は誰も予想していなかった方向に向かい始めた。バッシングである。

あれよあれよ、と見ているうちになんと、4月末にそのバッシングの炎がなんとわたしが今年の2月に上梓したばかりの翻訳書『上課記 中国離島大学の人生講義』の原作者、王小ニ(「ニ」は「女」偏に「尼」)さんへ飛び火した。それを見ていて、こりゃわたしも眺めているだけじゃいかんじゃないか、と感じ始めた。

まずは、その直近の出来事からお話ししたい。

●掘り起こされた過去の「つぶやき」

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