【ぶんぶくちゃいな】「下水油」はもう古い、中国の最新食品問題

「下水油」事件が大きく取りざたされたきっかけとなったのは、確か中国の「水煮魚」を出すレストランで、一旦客に出した残りの油を再利用しているという書き込みだったと記憶している。

「水煮魚」というのは、実際には水ではなく油で煮た魚料理のこと。四川料理レストランには必須のメニューで、大量の唐辛子や花椒などの調味料が入った、ぐつぐつと煮えたぎる油を、簡単に下味をつけた薄切り魚ともやしなどの野菜を並べた鉢に流し込む。そのぐつぐつと煮えたぎる鉢を厨房からお客のテーブルに出すまでに、魚に火が通り、食べごろになっている。

想像通り見た目はかなりワイルド。海のない四川省で川魚の独特の匂いを消すために発達した調理法なのだと思われる。中国人なら知らぬ者はいないほどの代表的視線料理で、筆者も大好きで人数が集まったときにはよく食べていた。

食べるときはテーブルのみんながそれぞれに自分の箸を油の中に突っ込んで、魚や野菜をさらって食べる。網杓子が添えられている場合もあるが、高級料理ではないのでほとんどが自分の箸を突っ込む。西洋人には鍋物と同じように敬遠されやすい料理だが、中国人はそれを「鍋と同じ、高温殺菌済みだよ」と言って笑っていた。

たびたび一緒に食べに行っていた友人(四川省生まれ)は、運ばれてきた鉢からウェイターが唐辛子をさらうのを見ながら、「残った油や唐辛子は炒め物に使うと美味しいのよ」と言っていた。だから筆者も、それを包んでもらって持って帰るのを習慣にしていた。唐辛子は箸を突っ込む前に全部さらってしまうので、衛生的な問題はない。だが、油は……さすがにもって帰れなかった。

それをレストランの厨房が、あるいはそんなレストランから譲り受けた別の業者が再利用している……という話が流れ、そこから「一旦捨てて固まった油をさらって再利用しているケース」が摘発されたのだった。

報道にはさすがにびっくりしたが、当時の中国の社会事情からして「ありえないことではない」と思った。もちろん、決して中国の食用油のすべてが下水油と関係しているわけではなかった一方で、あの社会にはとにかく何らかのビジネスチャンスを見つけて少しでもお金を稼ぐしかない人たちが確実にいた。「衛生」とか「正しさ」とか、あるいは道徳心の前に、「生きていく」ための手段を探し求めている人たちがいた。そしてその現実を、中国人の多くが知っていた。

もちろん、それが精製工場や販売などの一大産業リンクとなり、そうとは知らない低収入家庭やレストランの厨房で使われていたとなると、大問題である。そうなるまでになぜ監督管理ができなかったのか? 多くの人たちが疑問をもった事件だった。

騒ぎをきっかけに当時の下水油事件は取り締まりが行われ、今では耳にすることはなくなり、多くの人たちの記憶から遠ざかってしまった。下水油と呼ばれる「商品」がなくなってしまったのかどうかはわからない。ただ、一般の人たちの生活からはそれが話題にされることはなくなってしまったのである。

そして、今回の事件が起きた。


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