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【ツボのなかのぼく】第2話『記憶』

「(僕はどうしてここにいるんだろ…)」
子ブタは未だに今の状況が理解できない。
覚えているのは…

僕にはいっぱい兄弟がいるんだ。
いつも人間が食べ物をくれるから
僕たちはそれを取り合いっこしてた。
すごくおいしくてさ、
ついつい食べすぎちゃうんだよね。
あるとき 、その人間が僕たちを
見たことの無い場所に連れてきて
くれたんだ。
いつもいる場所では
ほん少ししか見えなかった
青い色と白く光る暖かいものと
ちょっと灰色っぽい白い
もこもこしたものが
その場所はどこまでも広がっていて
そして僕たちはまた狭い場所に
入れられたけどそれはいつもより
いっぱい見ることができて
僕たちはそれをずっと眺めてた。
その時はなんでかな、体が揺れて
兄弟と何回もぶつかっていたっけ。
でもいつもと違う感じを僕たちは
楽しんでいたんだ。
そのあと体の揺れも止まって
落ち着いたと思ったら
人間たちは僕たちをまた見たことの
無い場所に連れていってくれたんだ。
壁が邪魔でよく見えなかったけど
狭いところを通って
暗いお部屋に入ったんだ。
そのあと…えっと…しばらくしたら
暗いお部屋から眩しいものが
見えたからお顔を出したら
マサルがいたんだ。
マサルは子ブタの話を聞いていた。
そして理解した。
この子は1度死んでいると。
そして、そのお肉が壺に入ったことで
蘇ってきたのだと。
理屈はわからない。
でもそう思うより他に考えが
及ぶはずもない。
子ブタが話す表情は困惑に満ちていた。
自分がこれからどうしていけば
いいのか悩んでいるのか…
マサルは子ブタを壺ごと持ち上げた。
そしてそっと右手で子ブタの頭を
撫でようとしたとき…
その手は子ブタの頭をすり抜けた。
「!!!」
子ブタは自分の体の異変に気づいた。
「僕の頭にマサルの手が刺さってる!!」
子ブタは前足をバタバタさせて
マサルの手を払おうとするが
触れることができないため
払うことができなかった。
「ぼく…どうなっちゃったの?」
子ブタの頬に涙が溜まる。
そんな子ブタを見かねて
マサルは子ブタに語りかけた。
「ぶたちゃん、たぶん君は1度
死んでるんだ。
そしてなぜかわからないけど
君はこの壺の中で生き返ったんだ。
これから、どうする?
とりあえず僕と一緒にいる?」
不安がる子ブタをマサルは
放ってはおけないと思ったのだろう。
「…いいの?一緒にいていいの?」
困惑する子ブタにマサルは
優しい笑顔で頷いた。
ただ、マサルは仕事中だから
まだおうちに連れていくことはできない。
それまでの時間、子ブタをどこに
隠しておこうか…
とりあえずロッカーにしまっておこうと
更衣室のロッカーに向かい、
「ここでしばらく待っててね」
と言ってロッカーの扉の鍵を閉めた。

つづく?

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