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昔の恋のエピソード④【夢】

日曜日の午前、
唐揚げでも作って食べようと
近所のスーパーで鶏もも肉を
買って寮に戻った。
寮には調理場は無くて、会社の食堂
にある小さな給湯室を調理場として
利用していた。
鶏肉に下味をつけていたら
食堂の方からから足音がした。
まいだった。
お互い目が合ったとき
自然と笑みがこぼれた。
僕はもう完全にまいに恋をしていた。
僕はまいに唐揚げのレシピを
教えながら作り、揚げたての唐揚げを
味見をしたまいは
「美味しいです。」
と言ってくれた。
狭い空間でふたりきりの時間。
若いふたりだけどその時は
きっと夫婦生活ってこんな
感じなのかなって思わせて
くれる時間だった。
もし結婚したらまいは僕のこと
なんて呼ぶのかな?
先輩?まさかな…
思えばまいからは
あまり僕に対してこうして
ほしいとか何かをしたいという
声を聞いた記憶が無い。
記憶が薄れているだけなのかも
しれないが、まいは口数が少なかった。
あまり感情を出して話すこともなく
とてももの静かな女の子だった。

僕は高校を卒業してから
自動車学校に通い始めた。
いよいよ僕の夢がスタートした。
かっこいい車に乗りたい!!
みんなが乗っているような車じゃ
なくて若い奴らが手を出さない
ような車に乗りたい。
そしてまいと付き合うように
なってからはその夢に
助手席にまいを乗せて
いろんな場所に行きたいという
希望も追加していた。
車の運転は得意だった。
小学生の頃から父親と一緒に
軽自動車を日曜日の早朝に
河原に行っては運転して
遊んでいたからだ。
しかし交通ルールを覚えるのは
思いのほか苦手だった。
それでも早く車の免許が欲しくて
僕は休みの日も勉強に励んでいた。
夢を叶えるために。
仕事が終わったらすぐ自動車学校
に行っていた。
会社から最寄りの駅近くに
自動車学校のバスが到着する。
いつも帰りは21時を過ぎていた。
定時制高校に通っていたから
苦にはならなかったが
それでも焦りはあった。
学科がなかなか頭に入らない。
自動車学校に通い始めたころは
いつも終業時にまいのミシンの
横を通って軽く手を振り
まいも笑顔で応えてくれていた。
しかし焦りが出始めた頃には
まいとのコミュニケーションも
忘れてしまっていた。
免許証を取得した頃、
世間はすでに花見シーズンが終わり
桜の木の花びらは散っていた。
その頃から、
まいは僕を避けるようになった。

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