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米津玄師『REDOUT』 雷のように奏でる音楽を


『REDOUT』とは、
身体の上部に強い力が加わり、
血液が脳に集中することによって
視界が赤く見える現象のことをいう。

このレッドアウト現象と、
MVに出てくる赤い目のうさぎを
掛けているとしたならば、
うさぎは米津さん自身なのだろうか。

なぜならうさぎはその長い耳で、
全方向の音を集めることができるからだ。

チェンソーのエンジン音、女性の笑い声、鳥の鳴き声‥
米津さんはこれまで、
日常生活におけるあらゆる音を曲に組み入れ、
ひとつの音楽として成立させてきた。
音楽家米津玄師は、“うさぎ“の耳を持っていると
言えるかもしれない。


しかしうさぎは、敵から身を守るために全方位に
聴覚を集中させている。
そのため、聴こえてくる世間からの声は、
良いものもあれば悪意に満ちたものもあるだろう。

その声が自身のなかでどんどん肥大化し、
悪魔のような姿で精神を蝕んでいくのかもしれない。

「消えろ 消えろ 消えろ」と願う強い焦燥感。
それは自分の中にいる恐怖心という悪魔に対しての
苛立ちや叫び声に聴こえる。

米津玄師 『REDOUT』より
https://youtu.be/mKYpA1-5NNs?si=pnA9WRcvWIHMbf22


そして「背中に刺ささるヤドリギの枝」。
これは自身の中にいる悪魔に対して“魔除け“という意味
から、自分で刺しているのだろうか。
うさぎのように小さくて弱い自分を
守ってくれることを願い。

それとも、“体に刺さる“という痛みを伴う姿は、、
“世間からの悪意を受け入れる“という
強い精神の表れや覚悟にもとれる。


“音楽家としての自分自身との闘い“
これがこの曲のテーマなのかもしれない。


「輝く夢を見る それは悪夢と目覚めて知る」

音楽家になりたいという夢が実現していけばいくほど、
現実では苦しみが増していく。


「やがて朽ち果てていく全て」
「焦げて真っ黒けのファーストテイク」
「骨になって笑い出すスネーク」
「見失ったままのマクガフィン」
「日毎増していくグロインペイン」

自分の音楽はいつかは消えてなくなる。
些細で、儚くて、くだらないものだという悲観。
見失ってしまった動機。
四六時中あぐらをかきながらギターを弾いた結果
生じる股関節の痛み。
新しく音楽を生み出していく日々に
うんざりしているのかもしれない。

しかしこんな今の自分を、
あの頃の米津少年が知ったらどう感じるだろうか。
「踏み躙られて泣く少年」。



「今すぐ消えろ 消えろ 消えろ 消えろ」


米津さんが守りたいものは、
白くて小さい純粋無垢な、
うさぎのような米津少年なのかもしれない。


「鮮血煌めいて跳ねるスタンウェイ&サンズ」
「頭の中鳴り止まない 砕けたバックビート」


少年を救うのも、自分を駆り立てるのも、
やはり音楽しかないのだ。
ピアノの上を跳ねるうさぎのように
血眼になりながら音楽を創っていくことが、
“自分との闘い“なのかもしれない。

そして最後に。

MV最後に映る彫刻像サモトラケのニケ。

ギリシャ神話の女神ニケは、“勝利の女神“だそうだ。

雪のように真っ白な翼を持つ女神ニケは、
戦場を飛び回り、戦士の運命に寄り添った。
勝者には栄光の祝福を、
そして敗者の臨終の時でさえ、
その栄誉を祝福したという。

この心優しい女神ニケを、
私は勝手に米津さんと重ねて感動しているのだが、

もしかすると米津さんにとっては、
うさぎのように小さくて純粋な米津少年こそが、
いつか自分に勝利を告げてくれる女神ニケ
なのかもしれない。



雷鳴から始まり、雷鳴で終わるMV『REDOUT』。
“雷のように=トナンテ“という音楽用語がある。

“雷のような音楽を奏でろ“

雷鳴は、米津さん自身の音楽に対する、
莫大なエネルギーを表現しているのかもしれない。



「痛覚を開いて今全霊で走って行け
万感の思いでファンファーレまであとジャスト八小節」

この曲は、アルバムの最初に位置する。
それは、これからの音楽家米津玄師としての序曲だ。

私達は米津さんから、
雷鳴のようにものすごいエネルギーの決意表明を
受け取ったのかもしれない。


8月21日発売の『LOSTCORNER』、
心して聴きます。


米津さん、いつもありがとう。


※  「 」内はすべて、米津玄師『REDOUT』の
歌詞を引用しています。