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人工関節の問題点 〜摩擦の観点より〜

人工関節は股関節や膝関節や肩関節が本来の機能を果たせなくなった時に代替品として体内に埋め込むものです。ですが、この人工関節には大きな問題があります。それは摩擦係数です。摩擦係数が大きいと当然の事ながら関節面で摩擦が生じます。その結果、摩擦粉が発生するのですがこれがなかなか厄介です。なぜかというと、摩擦粉をマクロファージが貪食し、さらに炎症性サイトカインという炎症を促進させる物質を分泌するのです。通常の外傷などであれば、炎症は自然免疫を活性化させ治癒を促進させます。しかし、人工関節の摩擦粉は次々に発生するので慢性的な炎症が起こってしまいます。そして、マクロファージと破骨細胞(骨を吸収する細胞)は近縁の細胞という事もあり、マクロファージの破骨細胞への分化が促進されていきます。その結果、人工股関節周辺の骨吸収が進んでしまい痛みの発生や運動の制限につながる可能性があります。なので人工股関節は一生涯使えるわけではなく、寿命はおよそ10年と言われています(もちろん部位や患者さんによって差があります)。

人工股関節の摩擦係数は0.05以上なのでかなり改善されてはいますが、生体関節は0.005~0.01と約10倍のひらきがあるのが現状です。なぜこのような差が生まれるかというと生体関節は流動潤滑、つまり関節間に流体が存在するため非常に小さい摩擦係数を実現しているからです。

参考文献:Qizhi Chen & George Thouas,「Biomaterials A Basic Introduction」,CRC Press,(2014).

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