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君といた夏

またまたMOAMiさん楽曲の二次創作です。
何本も申し訳ありません🙇‍♂️

前回は少し捻り過ぎたかなと反省して今回の内容はストレートに。
でも主人公である女性の話では無く、彼女が想う男性の話。
普通に女性目線の物語を書けよw

私の勝手で不出来な創作物ですので楽曲著作者のMOAMiさんにご迷惑が掛からない事を願います🙏

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家からバイクで15分も走れば海に出る。
中学の頃は仲間と自転車でよく来てた砂浜。
苗字でしか呼び合えないキミの背中をずっと見ていたくてボクの自転車はいつも1番後ろを走っていた。

自販機横にバイクを停める。
この自販機も新しい物に替わり、コインが無くてもカードや携帯で買えるようになっている。

当時のボクは財布を持たずにポケットに直でコインを突っ込んでいた。
コーラを買ったボクにキミがふざけて
「私もコーラ、飲みたいな」
「悪いけどもうお金無いよ」
「ウソつけ!飛んでみろ、音したら強制オゴリだかんな」
その場でジャンプしたボクのポケットからはチャリンと小銭の触れ合う音。
ニヤつくキミ。
そしてボクもニヤつきながらポケットに手を入れその手を広げて見せる。
手の平にはコーラを買えるだけの残りは無かった。
金欠のボクを呆れるように見るキミ。
でもすぐに少しイタズラっぽい微笑みに変えた途端にボクのコーラを奪い取りひと口だけ飲んで突き返してきた。

僕は電子決済の無機質な音を聞いてコーラを取り出す。
誰にもひと口飲まれたりしない僕だけのコーラを片手に防波堤の階段を上がる。
防波堤を超えると砂浜が広がっていて季節外れの砂浜には誰もいない。

タバコなんて吸うずっと以前のボクの肺の中はいつだって新鮮な空気で満たされていて、その肺の中にキミの香りが少しでも多く入るように(そして慎重に気付かれないように)いつも深呼吸していた。

キミの香りは何もキミの周りだけで感じるという訳ではなかった。
キミが学校から帰った後のまるで置いてけぼりを食らった犬のような簡素な机からも、これ以上に無い程に整然と並んだロッカーのひとつからも、キミの最寄り駅の改札口からも、キミに関連する物や場所からいつでもキミの香りを探し出せた。
キミの住むマンションの前を遠回りして通った塾の帰り道。
ひと駅歩いてからキミの住む町から乗っていた単線の電車。
いつだって神様が偶然という糸をちょっとだけ引っ張ってくれるのを期待していた。

当時ボクとキミは背の高さがあまり変わらなかった。
でも2cm早くボクはキミより早く夕陽を見つけて君にそれを伝える。
キミの夕陽を見る目はいつも輝いていた。

遠足の写真が張り出された廊下。
たくさんの生徒が自分の写っている写真を念入りに用心深く見ていた中で、ボクは自分が写っている写真を探すのではなく、キミが写っている写真の後ろで自分が結構な確率で写り込んでいるのを誰かにバレやしないかと肝を冷やしていたんだ。

軽いすり傷を水道で洗っただけで放っておいたら怒られた事もあった。
「バイ菌入っちゃうでしょ」
少しだけ恐い顔で可愛いポーチから出した絆創膏を傷口に貼ってくれたキミ。
嬉しかったけど、それよりもキャラクターの絵が描いてる絆創膏が少し恥ずかしかった。

下校時にはよく互いのカバンを蹴り合っていた。
深い意味も造作もない遊びのひとつ。
いつものようにカバンを蹴っただけなのにキミは泣き出して怒って先に帰ってしまった。
その日はボクの誕生日だったのだけど、後からキミの女友達に聞いた話では、ボクへのプレゼントが入っていたらしい。
蹴られて箱が潰れてしまったプレゼントは渡されてないままだ。

ある日キミは図書室にボクを連れて行き自分の好きな本を教えてくれた。
サリンジャーやサン・テグジュペリなんかの読んだ事が無い作品達。
ボクも自分が好きな探偵小説を勧めたけど残念ながらキミの趣味ではなかったらしい。

文学少女のキミは数学が苦手だった。
数学好きなボクは週に3回キミに数学を教える。
放課後の短く永遠に感じる15分。
解けない問題を前にしたキミの表情はとっておきのシャッターチャンス。
キミだけをフレームに入れたプリントアウト出来ない蒼い宝物。

そして最後の勉強会が終わった時にキミは黙ってボクの手を引いて誰もいない音楽室に連れて行ってくれた。
そこで自分の夢をボクだけに打ち明けてくれた後、キミはピアノを弾きながら自作の歌を歌ってくれた。

キミは卒業後志望校だった女子高に通いだした。
見慣れない制服のキミをボクはバスの窓からたった1度だけ見かけた事がある。
それが心の中にあるアルバムの最後のページ。

この砂浜でコーラを飲むとたくさんの記憶が甦る。
もう慣れた。
いつもの事だ。
あの頃より少し長くなったこの腕を精一杯伸ばしてももう届かない何よりキラキラと光っている思い出達。
ふたりの思い出とは言い難い僕のひとりよがりな思い出達。

大人になった君は夢を追って町を出たと聞いた。
僕はまだ燻ったままこの町に取り残されている。

僕はずっとこの町で足踏みばかりして、

君は夢を抱いて遠い街でピアノを弾いている。

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あなたを想うその気持ちが
今もまだ消えなくて。
前を向いて、走っているのに
どうしても振り返ってしまう。

離れない 2人は離れない
ずっとそばにいるって言った言葉も。
忘れられたら いいのにね
どんな瞬間さえ忘れられなくて

君が言った言葉ひとつの
意味さえもまだわからないのに
私はどこにいるかなんて
君がそばにいた日々の中
今もまだ消えずにいるよ

夢を追いかける苦しみを
あの時はまだ何も知らずにいたから
どんな大それた言葉も言えたんだ。

いつも自分が嫌いだよ。
何もできずにいたもんだからさ。
そうあなただけが唯一の
私の自慢だった

離れないで心の中で
叫んでみても声に出せず
今も立ち止まったままで
夢も今は中途半端に
いつの日も君だけ輝いていた

君が言った言葉ひとつの
意味さえもまだわからないのに
私はどこにいるかなんて
君がそばにいた夏のこと
今もまだ消せずにいるよ・・・

今もまだ消せずにいるよ。

https://moastore.thebase.in/


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