ガルシア=マルケス中短篇傑作選
本が好きなら、いつか読んでみたい作家がいるものだろう。自分にとって、ガルシア=マルケスはその一人だった。
ガブリエル・ガルシア=マルケスは、コロンビアの作家で、1982年にノーベル文学賞を受賞している。1960年代にラテンアメリカ文学が注目され、その主たる作品として知られるのが『百年の孤独』(1967)となる。
本書は、ガルシア=マルケスの中短編を集めたアンソロジー。収録作は概ね年代順に以下の10作品。
「大佐に手紙は来ない」(1961)
「火曜日のシエスタ」(1962)
「ついにその日が」(1962)
「この町に泥棒はいない」(1962)
「バルタサルの奇跡の午後」(1962)
「巨大な翼をもつひどく年老いた男」(1968)
「この世で一番美しい水死者」(1968)
「純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語」(1972)
「聖女」(1981)
「光は水に似る」(1978)
wiki等の紹介では「魔術的リアリズムの旗手」などとされているが、初期の作品は、魔術・・・というよりはリアル。そんな印象を受けた。空気の熱さや日差しを感じ、情景が浮かび上がるような読書感。描かれるシーンから何を感じ取るかは人それぞれだろう。
初期の作品においては、作中の男たちが不幸に見舞われつつもどこか楽観的で軽はずみだ。そして、女たちは現実を知りつつ、なぜかそこを離れない。愛と言えば愛だし、寄る辺のない生活の所以ともいえる。男女の関係の複雑さのようなものを感じてもいいし、庶民の生活の難しさのような、持って行き場のないものを感じてもよさそうだ。背景に描かれる、同じく多くは貧しいと思われる人々がどこかユーモラスなのも味わい深い。
1967年よりあとの作品には、そのリアリズムに神話的な要素が加わる。生活のやるせなさの中に、何か美しさのようなものを見出す事が出来る後半の作品には、唸るしかないような良さがある。
ひと通り読んだ後には、もう一度作品を読みたくなるような丁寧な解説がついており、始めてガルシア=マルケスの作品に触れた自分としては、最初にこのアンソロジーを手に取って良かったと思えるものだった。
最近、短編集を沢山読んでいる気がする。オチのあるショート・ショートのようなものではなく、いったい何の話だったんだろうと、どこか心に引っ掛かるような作品が最近は楽しい。重厚な物語を求めると物足りなさを感じるかも知れないが、印象的な短編で描かれる情景や感情のようなものは、繰り返し咀嚼することで様々に余韻を味わうことが出来て、また違った良さがある。
『百年の孤独』がどういった作品なのか、また楽しみが増えた。いつになるかはわからないが、読んでみようと思う。