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無言

実家に帰省した。私の実家には基本父しかいないので、帰省をすると、父娘の二人暮らしが始まる。

父と娘ってそんなに話すことがない。適当に仕事の話などをしたら、父はふんふんと話を聞いてくれる。そして、ある程度話したら各自部屋で好きなことをしている。

だがそんな頻繁に帰る訳でもないので、何日かいると、どこか出掛けようか、なんて話にもなる。昼食を外食することになった。どこに行きたいか聞いたら、「お父さん松の家に行きたい。」とのこと。

私はそこで初めて松の家を知ったが、テレビでも取り上げられるような、有名とんかつチェーンらしい。しかも値段が安くて、ロースカツ定食がなんと590円。破格だ。それなりにおいしそうではあるが、たまの外食にしてはあまりにも地味ではないか。でも父は、テレビで見ておいしそうだったから、と車を出した。

お店は線路沿いの大きな道にある。車がたくさん止められて、「松の屋」と大きく書かれた看板が目を惹いた。自動ドアを通ったら、食券を買う。あきらかに常連そうなおじさんが次から次へくるので、急いで注文した。

店内は思いのほか綺麗だった。太陽光がたくさん入る大きな窓で、綺麗に拭かれた明るい木調の丸テーブルがいくつも並んでいる。席をとり、食券の番号が呼ばれるまで、静かに座って待った。「意外と綺麗やん。」「せやな。」一言二言話し、席にはられた創業ものがたりなどを読む。そして手持ち無沙汰になって、水を二人分くむなどする。

番号をアナウンスする機械音が店内に響き、私と父はいそいそと席を立った。父はロースカツ定食、私は味噌ささみカツ定食だ。デパートのレストラン街にあるような高いとんかつ屋さんのように、銀の網の上、丁寧にカツがならべられている。ちょっと期待値が上がってきた。

「いただきます。」
あつあつのささみカツを一口ほおばる。ザクッ。ギュッツ。揚げたてのサクサクの衣と、弾力があってジューシーなささみ。そこに味噌だれが絡まって、すごーくシンプルだけど、すごくおいしい。文字通り、パクパク食べた。
「うまい!!!」思わず言うと、「ウタがうまいっていうなんて、珍しいな」と、父も嬉しそうであった。
父のロースカツと一きれずつ交換したが、これもまたおいしい。
あっという間に平らげてしまった。

食べ終わったら、あっさり席を立つ。定員の「ありがとうございました~」を背に、自動ドアをくぐると、ぐわっと包み込まれるようなな暑さ、晴天だった。
「はあ、おなかいっぱいやわ」
父の運転する車に乗る。
そういえば子どものころもこんな風に近くのチェーン店に連れて行ってもらったなあ。
昼ご飯を食べることだけが目的の外出。ちょっとした達成感がある。

年の割に若い父だが、全く若くはない父。
もうちょっと大事にしてあげないとね。

#最近行ってよかった店

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