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「檀園風俗圖帖」金弘道

本稿は、HASARD特別展 韓国国宝「檀園風俗圖帖」の解説ページです。
作者の金弘道(キム・ホンド)は李氏朝鮮時代後期の宮廷画家。
シンプルな構図にたくさんの情報が詰まった珠玉の名作をご紹介します。

全25作品の展示はこちらからご覧下さい。
https://wam-hasard.com/exhibition-kimhongdo01.html

絵の内容の前に、まずは李氏朝鮮時代の身分制度を見てみましょう。
李朝時代は長く、1392年~1897年と、500年も続いた王朝です。

前期と後期では社会の様子もかなり変化していますが、
社会階層は、大まかに次の4つに分かれていました。

1.両班(ヤンバン)  貴族、支配階級、高級官僚
2.中人(チュンイン) 下級官僚、医師・通訳などの専門職
3.常民(サンミン)  農民・商人・職人などの一般庶民
4.賎民(チョンミン) 奴隷、自由がなく物のように売買される対象

「檀園風俗圖帖」は、この時代の絵画には珍しい、中人・常民など一般庶民の生活の様子を描いた作品で、当時の人の生活を知る貴重な資料となっています。

韓国の歴史ドラマでもお馴染みの「カツ」と呼ばれる黒い帽子がよく出てきます。この帽子は元々は両班がかぶるものでしたが、李朝後期には身分に関係なく使われるようになりました。ご紹介する絵は1700年代後半の李朝後期の作品ですので、労働者を除いて広く使用されていたように見受けられます。

また、男性が扇子で顔を隠す姿も目につきますが、身分の高い人物なのでしょう。両班は人前では、扇で顔を隠すのが礼儀だったようです。

それでは作品を見てみましょう。ここでは、4点をピックアップ致します。
順番はHASARDでの展示順となっています。

2枚目:脱穀

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刈り取った稲を丸太に打ち付け、落ちた籾をかき集めます。
せっせと働く農民たちの後ろで、藁束の上に敷物を敷いて寝転がっているのは地主の両班のようです。靴まで脱いですっかりくつろいだ様子で、農民たちの仕事ぶりを監督しつつ、長いパイプで煙草を吸い、そばにはマッコリまで用意されています。のんきに酒なんか飲んでないでお前も一緒に働け~っ、と思わず言いたくなりますが・・・支配階級と労働者の構図は、古今東西、同じなのでしょうね。働く人々の表情が明るく、威勢の良い笑い声が聞こえてきそうです。

10枚目:洗濯場

10_洗濯場

村の近くの小川で洗濯をする女たち。平らな石の上で衣類を叩き、川の流れできれいにすすぎます。奥の女性は子供連れ。子供はなぜか下半身素っ裸?お母さんは、洗った髪を丁寧に三つ編みにしているところです。
そんな様子を、岩陰からひそかに覗き見る男がひとり・・・膝上まで服をたくし上げて太ももをあらわにした姿は、この時代にはかなり刺激的だったのです。扇子で顔を隠しながら身を乗り出す様子が笑えます。

21枚目:舞童

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韓国の伝統楽器がずらり。上部左から、太鼓(ブク)、両面太鼓(チャンゴ)、日本のひちりきのような縦笛(ピリ)、竹の横笛(テグム)、韓国の胡弓(ヘグム)が奏でる音楽に合わせて舞う子供。

よく見ると、楽士の中で左から3番目の縦笛奏者が、笛を斜めにずらして吹いています。これは、長時間の演奏で口が痛くなり、笛を真っ直ぐ吹けなくなっているからだそう。そう言われると、表情にゆとりがなく、心なしか疲れが滲んでいる様子です。

片や、ヒラヒラと衣装をたなびかせて舞い踊る子供は疲れ知らずで、やはり若さの成せる技でしょうか?
飛び跳ねる子供と楽士の姿は、正に「動」と「静」の対比。舞の躍動感をより印象付け、かつ遠近感を出すために、踊る子供はしっかりとした太い線で描かれ、後ろの演奏者は淡く細い線で、手前の演奏者になるほど次第にはっきりとした線で描き分けられています。

22枚目:シルム、韓国相撲

22_シルム(韓国相撲)

大勢の観衆が円になって、相撲に熱狂中!手前の男が今にも相手を投げ飛ばしそうな勢いで声援にも力が入ります。そんな中、試合には目もくれず、あさっての方を向いている人物がいますね。この人は何者でしょう?? 

正解は飴売りの少年。首から下げている箱に飴を入れて見物人に売っているのです。気になるのはもちろん、勝負の行方より飴の売れ行きでしょうか。

この絵の構図は、上部にたくさんの人物を配置することで賑やかさを引き立てています。
観衆の顔をよく見てみましょう。目も眉も、短い線と点だけで描かれ、極めてシンプルなのに、ひとりひとりの表情がすべて異なっていて、性格の違いまで見通せるほど。脱帽ものの表現力です。


いかがでしたでしょうか?
その他の作品でも、登場人物の動きや表情をしっかり観察して、当時の生活を想像しつつ、いろいろな発見を楽しんでください。

HASARDでの展示はこちらからどうぞ。
https://wam-hasard.com/exhibition-kimhongdo01.html



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