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【読書感想文】蒼井ブルー『ピースフル権化』を読んで

 この本は「いい曲」だ。

 蒼井ブルーの本を買ったのは『ピースフル権化』が初めてだ。何冊も本を出していることを以前から知ってはいたけれど、”恋する若い女性が読むべきもの”だと、勝手にレッテル貼りをして、遠ざけてしまっていた。

 『ピースフル権化』は、これまでに発売されている彼の書籍のように、綺麗なモデルさんや、女子受けしそうな可愛いイラストがカバーを飾っているわけではない。どちらかと言えば地味な装丁だ。しかし、そのことがむしろ「これはきっと、彼(蒼井ブルー)にとって特別な本なのだろう。」と僕に思わせた。

 僕はちょうどその頃、個人的に人生最大のピンチと言える、厄介な問題に立ち向かっている最中で、読むなら今だぞ、と呼ばれたような気がした。
 
 ページを開いてみると、仕事や恋に向き合うひとりの男の姿が、丁寧な言葉選びで綴られている。普通の枠組みに当てはめようとするならば、日記風のエッセイ、ということになるのだろう。しかし、僕は『長めの歌詞』だと思って、歌を聴くように読み進めていった。そして冒頭の「いい曲だ。」という感想に至る。

 たとえるなら、Mr.Childrenの『雨のち晴れ』や、岡村靖幸『カルアミルク』、スガシカオ(kokua)の『Progress』のような。不器用だけれど、ひたむきな男のストーリー。

 表現というのは不思議なもので、俳句のような短い言葉に想いを凝縮することが得意な人もいれば、長編小説を書くことに向いている人もいる。きちんとしたビジネス文書を作るのはからっきしでも、美しいラブソングを書ける人もいる。ダンスする指先ひとつで人の心を動かせる人もいれば、ギターの音色に感情を載せられる人もいる。舞台は様々だ。

 蒼井ブルーにとってはこの『ピースフル権化』のような書籍の中、あるいはツイッターの140字、そしてカメラのファインダーの中が、”ステージ”なのだ。そんな、新しい形のアーティストなのだと思う。

 本の内容に戻ろう。最も印象に残ったのは、産経新聞朝刊の『朝の詩』という、読者投稿の詩が掲載される欄に、当時小学生だった彼の詩が載ったというエピソード。(詩人の新川和江さんが選者で、僕もそのコーナーが好きだった。毎日欠かさず読んでいたので、きっと蒼井少年の詩も読んでいるはずだ。)
 プロの詩人に選ばれたことが、彼の小さな誇りとなって、現在の言葉を扱う仕事に繋がっているという。誰もがそんな小さな成功体験の積み重ねの先に、今を生きている。僕にもそんな原体験が確かにある。忘れていたけれど。

 そんな気づきがたくさん、この本には満ちている。僕が「いい曲だ」と思う歌には、聴くたびに新しい発見が満ちているのと同じように。

 僕のように「蒼井ブルーの本は若い女の子のもの」と勝手なレッテル貼りをしないで、誰でも、気になった曲を再生するような気持ちで、この本に触れてみればいいと思う。(もちろん若い女の子が読んでもいい。)

 少なくとも僕はこの本を読んで、勇気をもらった。ありがとう、蒼井ブルー。

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