ヨルシカ「盗作」全曲レビュー⑧花人局
7.花人局
「失ったばかり」の歌。日は確実に暮れてきています。
アルバムトレーラーを聴いて、一番気になっていました。ラジオでsuisさんは「ヨルシカらしい曲」と仰ってましたが・・・どうだろう?フルで聴くと、むしろヨルシカっぽくないように感じました。
JPopのよくある「切ない別れの歌」の路線に沿った、良い意味で王道の曲というか。ですから、「ヨルシカあんまピンと来ないんだよな~」って人にもウケそうな気がします。
生活感溢れる歌詞のところで、n-bunaさんから「化粧水」という語彙が出てきたと思うとキュンとしますが、それは置いといて、めちゃくちゃ切ない内容ですね。
「昨日の夜のこと」について、1番から2番、3番(?)へいくにつれ、「少しも覚えてない」→「そこまで覚えてない」→「本当は少し覚えてる」に変わっていきます。記憶が段々はっきりしてきているんですね。
この曲は盗作男の妻の曲だそうで、妻はいなくなってしまったようです。けれど男はその喪失を受け入れられず、妻がいたという記憶ごと消去してしまった。だから、
「部屋に誰がいたんだろう?」
という状態になってしまっているわけです。「二日酔いが残る頭」から、昨夜は相当飲んで過ごしたことが分かるので、喪失の辛さを紛らわせようとしていたのか、などと想像が広がりますね。
部屋の中には、いなくなった人の温もりがまだ残っている。そして確かにそれが冷めていく。反対に、忘れようとした記憶は鮮明になっていく。
ここにこの曲の切なさがあると思います。
加えて、「妻」に「美人局」のイメージが重ねられてしまっていること。全て忘れようとするくらい辛いわけですから、盗作男は妻を大切に思っていたんでしょうか。だとしたら、そんな妻との思い出全てが、
美人局を疑う、そんな気もしないでいる
という、「疑ってない」の皮を被った疑いで上書きされてしまっているのが悲しいですね。妻は絶対に美人局なんかではなかった筈なのに。
けれど、曲の終わりの方で盗作男は
貴方のいない街を生きる
と言えていますから、今後喪失を受け入れられるような兆しはあります。
盗作男は、これから時間をかけて少しずつ妻のいない暮らしに慣れていってしまうのでしょうが、それと同時に、ちゃんと妻との記憶を取り戻していってほしいです。それが、妻がいたという証を残すためにできることなんじゃないでしょうか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?