ヨルシカ「盗作」全曲レビュー④春ひさぎ
3.春ひさぎ
「昼鳶」と並んで、このアルバムのダーティな空気感を醸すのに一役買っている曲。
「おくんなまし」「おくれ」「左様な」「言勿れ」「詮の無い」等、郭詞風・文語風の言い回しが個性的な曲です。またまた特設サイトのインタビューでは、n-bunaさんがこの曲のきっかけについて教えてくれてます。
〝そもそも犯罪をテーマにするということを話したときに、suisさんが「売春の曲を作ってよ」と言ったんです。それで「ああ、なるほど」と思って。〟
suisさん、なんちゅう提案を・・・。でもボーカル凄いですよね。勝手にsuisさんのことは「憑依型」みたいに認識させて頂いてますけども、特に
「寝てれば何とかなるし」「囁く声で喘いで」「溺れるほどに欲しい」
のところなんか表現力お化けです。他の人にはそうそうできないと思うこういう歌い方・・・。
個人的にはサビの「左様な 蜻蛉の」のリズムが好きです。あと、同じ「カゲロウ」の音でも、歌詞の中で蜻蛉と陽炎を使い分けてるんですな。こういう細かいこだわり的なの良きです。
以前、「雨とカプチーノ」のMVのコメ欄だったかどこかで、
「Aメロは小雨だったのが、サビに入ると土砂降りになる感じ」
という感想を見かけて、ずっと印象に残っているんですが、「春ひさぎ」も似ています。サビで一気に泥が渦巻くようなイメージ。
「昼鳶」は、泥沼にはまりながらも抜け出そうとしているというか、満たされたいと藻掻いている感じがあったのですが、「春ひさぎ」では完全に泥に囚われて身動きできなくなっている感じがします。投げやりになってるようです。音楽泥棒さんの「盗作によって売れる作品を作る」ことへの罪の意識が麻痺していた時期の歌なのかもしれません。
「春ひさぎ」は売春を比喩として、商売のために音楽を作ることへの皮肉を歌った曲だそうなので、その意味では、彼にとって最も痛い時期の歌とも言えそうです。
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