ピンクのシーツに横たわる
わが家は、朝から大爆笑だった。
来週には、記録的な早さで大阪も梅雨に入るという情報から、毛布みたいな肌触りのシーツを「サッカー生地」に買い替えたかった。
「サッカー生地」は、織り方の工夫でこまかな凹凸があり、肌に引っ付かないし、汗かきのぼくにはピッタリの商品だ。
もうひとつ、助かるポイントがある。それは「凹凸」だ。
最近は、夏といえば「ひんやり」した肌触りの生地が主流になっている。
不随意運動(意思とは関係なく、または正反対に動いてしまう)のあるぼくにとって涼しいのはいいけれど、すべりやすくて落ち着かない。
大手量販店でも見つからず、あきらめかけていた。
その日は、朝から「シュッシュッ」とパソコンを操作できるヘルパーさんだったので、ダメもとでネット通販を調べてもらった。
「あった!あった!」。
サッカー生地のシーツと検索したら、すぐにヒットした。それなら、もっと早く大手量販店から、頭を切りかえればよかった。
ところが、シングルサイズの候補は豊富にそろっていても、セミダブルは一種類しかなく、色もブルーとピンクしかなかった。
その場に居合わせた二人のヘルパーさんは、声をそろえて「そらぁ、ブルーやんなぁ」とこちらを向いた。
だけど、ぼくはピンクにしたかった。
理由はといえば、四季を通して使うつもりだったからだ。室温とは関係なく、冬にブルーは寒々しい。逆に、夏にピンクなら暑苦しくはない。
ヘルパーさんたちは夏にあわせたイメージと、「ええおっさんがピンクはないでぇ~」という感覚だったようだ。
ちょっと二ヤケながら、ぼくが「ピンクがええでぇ~」と応えると、二人がかりの反撃が始まった。
「こっちの方が爽やかやし、恥ずかしくないでぇ」とか、「せめて替えと二枚買うんやったら、一枚はブルーにしたらぁ」などなど・・・、その合間を縫ってぼくはぼくでつべこべと言い返していた。
おたがいにバカバカしいやりとりを楽しみながら・・・。
そこへ訪問入浴のスタッフ三人が、玄関のドアを開けた。
「おはようございます」。その声がかき消されるほどにぎやかだった(もちろん、ぼくもヘルパーさんたちもちゃんとマスクはしていた)。
どんどん盛りあがりそうだったので、相変わらずニヤニヤしながら切り札を出した。
「買うのはオレや!」。
「やられたぁ。そうこられると負けたわぁ」。
年配ヘルパーさんの一言で、爆笑とともに下町劇場の幕は下りた。
それにしても、爆笑とはいえ、それぞれが気遣う一幕だったことに変わりはない。
思いきり、腹を抱えて笑える日常が早く訪れてほしい。
ありふれた一コマ一コマにも、考えさせられる日々がつづく。
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