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車いすからベッドへの旅

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毎日、天井を見つめている。ベッドで横になっていると、ぼくの六畳の部屋半分と、ヘルパーさんが仮眠する隣の四畳半三分の一ほどしか視界には入らない。 かぎりなく狭い世界の中で、なにを考…
運営しているクリエイター

#高橋源一郎

わたしとあなたとわたしたち

 「どんなふうに介護されると、ラクなんですか?」  ぼくは当事者という看板を背負わされて…

犬小屋にて

 ふたりとも、ずいぶん酔っぱらっていた。 住宅街のこじんまりとした焼肉屋で、好物の塩タン…

たったひとつ

 原稿一枚(四百字)で十分な小ネタを書こうとしたら、ぼくの各マガジンの投稿本数が目に入っ…

それぞれの気持ち

 めったに入らないヘルパーさんだった。 昨日は気持ちが乗らなくて、直接ぼくのかかわらない…

てるてるぼうず

 太陽の位置を確かめながら、電動車いすのバッテリーの残量を示すランプにときどき目をやりな…

ひょうたんとクモ

 たったいま、ひとつ決めた。  来年、初蝶とすれ違うころ、台所側の軒先にひょうたんを植え…

ご苦労さまです

 週末になると、彼は施設へ面会にやってきた。  話したいことがいっぱいありそうな顔をして、ぼくのベッドのそばまでやってきた。  最近、読んだ本のこと、出逢ったばかりの唄のこと、職場の学校の子どもたちのこと、仲のいい同僚たちのこと…。    「井上くん、コレ知ってるかぁ」  こんなふうに、いつも彼は話しだした。  考えごとをしていても、唄に聴き入っていても、テレビを観ていても、別に気遣いをするわけでもなく、言葉は自然にぼくの心へ拡がっていった。  彼が訪ねてきてもお客さん対応を

包みこむ

 「友だち」を幅広く捉えれば、暮らしをサポートするヘルパーさんたちから立話(ぼくは電動車…

タイムリミット(続編)

 腰の時限爆弾を抱えながら迷わなければ徒歩二十分のニトリまで、寝たままで取り組む執筆用の…

タイムリミット

 真夜中から明け方にかけての豪雨がうそのように上がって、いつもの訪問入浴の人たちが帰った…

見送る

 介護技術の向上をめざしてストイックな方向へ走りはじめたYくんは、わが家でも彼の代名詞だ…

アイコンタクト

 いつものように、時間どおりに、訪問入浴の人たちがやってきた。 今日のチーム編成は、息子…

副産物

 ほんの三分ほど前、noteへ投稿する小ネタと出遭った。 それでは、忘れないうちに。  …

ゾーン

 書きたいことがいっぱいあって、ストーリーが組み立てられていて、頭から言葉があふれ出しそうになる。  そんな束の間がある。  けれど、あくまでも束の間でしかなくて、一時間もすればいつもの澱んだ空気が張りつめたり、想いと言葉がかみ合わなかったりといったぼくにとってのありふれた一進一退がくり返される。  「ゾーンに入る」というヤツだろうか。  ぼくの場合には、一日の流れの中で訪れたり、ぼくの言葉を聴き取り、入力するヘルパーさんとの相性によって現れたり、気持ち的にしんどいヘルパ