短編「一切押し付けない父さん」

結婚式披露宴会場。
嫁ぐ娘・美緒から親への感謝の手紙が読み上げが聞こえる。

美緒「……今までたった一人で私を育ててくれたお父さん。本当にありがとうございました。美緒は必ず幸せになります」


涙声。
終わった後、場内からは拍手。

司会者「ではここで、新婦の父・榊原竜太様よりお祝いのお言葉いただきます。本来なら一番美緒さんの晴れ姿を楽しみにされていたと思いますが、現在ご入院されています。そこで、入院先の柏終末医療センターの病室と特別にZOOMでつながっております。では竜太様お言葉お願いします」

モニターに映像が映る。
病室のベッドで半身をおこして画面を凝視する父親・竜太。
髪はボサボサで痩せている。鼻には酸素呼吸器が入り、いかにも末期患者という様子。

竜太「もう写ってんの? 聞こえてます? 大丈夫ですか」
司会「大丈夫です。お父さん、今のお気持ち聞かせてください」
竜太「はい、どうも皆様。美緒の父親の榊原竜太でございます。本当にすいませんね、こんな感じになってしまって、これも身から出た錆、自業自得、深く人生を反省する次第であります。ねっ。あれ、美緒聞いてる?」
美緒「お父さん、聞こえてるよ」
竜太「あっ、美緒おめでとうな、さっきの手紙聞いてたよ。でもね、俺に感謝とかは一切しなくていいから。母娘になったのも何かの偶然。母親に先立たれて俺が美緒を育てたのも小さくて可愛かったからで、哺乳類だったらどんなものでもやることだから、気にする必要は全然ありません!」

会場内変な空気。

司会「……お父様、伺っているところによりますと、いつも工場で早朝から晩遅くまで、美緒を育てるために働いていらっしゃったとか、大変だったでしょうね」
竜太「それもね、家でゴロゴロしててもろくにすることないからやってただけ。他にすることなかったから。そんで生活で余った金が、たまたま学費になっただけ。あくまで俺の都合だから気にしないで、ほんと」
美緒「でも、お父さんが体を壊したのも、私の大学の学費を稼ぐために、健康診断を受ける時間が無かったからでしょ」

娘号泣。

竜太「おい、美緒、そんなこと言うんじゃない」
美緒「だってお父さん、私の事を気遣っていつも自分の事卑下するから」
竜太「美緒、お父さん怒るよ! お前の言ってること全然違うから。分かってないなぁ、やっぱり。今の病気になったのも、入院したのも、あくまで俺の考えのおかげ。俺が健康診断嫌いだから、行かなくてもいい方に掛けた結果。美緒が自分のせいとか考えるのは大きな間違いです。俺の人生の賭けに口を出さないで下さい」
司会「さすが、お父様、独特の愛情表現ですね……」
竜太「ねぇ、そこに集まってる皆さんも思いますよね。自分の行動に誰かのためとか、義理があるからとか、理由つけるのって無理してますよね。そう無理して、誰かに感謝されたいだけなんです。不自然ですよね、だから皆さんも自分のことだけ考えて、自然に気楽に生きてください! あっ、そうそう、俺が死んでも一切気にする必要ないからね。本当にやめてね。死んだ俺のことを考えるより、生きている誰かの心配をした方が絶対得だから。葬式も絶対やめて、むしろなるべくすぐ忘れて! 野球見に行ったり、ゲームしたり他の事に意識集中して、すっと気持ち切り替えて!」
美緒「お父さん!」
竜太「俺もさぁ、妻が亡くなった時にとても悲しかったんだけど、その後で気づいちゃったんだよね、死んだ人の事で思い悩むというのが一番意味ないって。何も変わんないから。考えるだけ時間のムダムダ。引きずるのが一番良くない。だから俺の死体も、燃えないゴミの日に出せばいいからね、えっと生ごみとどっちだ」
司会者「お父様、そんな縁起でもないこと言わないで下さい」
竜太「まぁ違法じゃない範囲で、適当に、一番安上がりな方法で処理して下さい。お願いします。あとね、そうそう、死んでからの葬儀や法事も一切やめてください。無駄だし、意味ないから。死んだらそこで終了。ゼロです。無です。思いも何もありません。霊も魂も存在しません! 今まで俺が生きて来て分かったことです。だから、俺の持ち物とかすぐ全部捨てて。頼んだよ。言いたいことはそれだけ。そうそう、会場の皆さん今日は娘美緒の結婚式にお集まりいただきありがとうございます。ただ今後、皆様と会うことは多分ないと思いますので、この映像が終わったら、皆さんなるべく早く私の事を忘れてくださいね。即忘れて下さい。それが一番だから、そして、最後になったけど、今まで美緒ありがとうね。じゃあね。以上竜太でした。皆さんバイバイ!」
美緒「お父さーん」

満面の笑みで画像を切る竜太。

(END)

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