見出し画像

(紙の)遅いインターネット計画

2021年は紙の雑誌を再起動しようと思っている。雑誌の名前は、もう僕の中では決まっていて、「(紙の)遅いインターネット」にするつもりだ。
もちろん、紙にしたらもはやインターネットでもなんでもなくて、つまりこれは冗談をふくんだタイトルなのだけど、この雑誌のことを発表するとそれが冗談である可能性を少しも考えずに、宇野が「(紙の)遅いインターネット」とかバカなことを言っているとものすごく気持ちよさそうに批難する人が出てくるのだと思う。そして当然その種のバカのこと気にする必要もないのだけど、いまのインターネットがすっかり蛆虫やシロアリがたくさん湧いてくる場所になってしまっていて、それはもっと大きな経済のしくみとか、僕たち人類と情報技術との付き合い方の問題で、それはきちんと考えて、態度表明のようなものをしたいなと僕は考えている。だから僕が「遅い」インターネットだとか言いはじめたのはそのためだ。そして、実際にメディアをあたらしく立ち上げたり、ワークショップの真似事をはじめたりとか、いろいろもがいているのだけど、この数ヶ月ある考えが頭から離れなくなった。

それは「本当に価値のあるものは、〈みんな〉がシェアしているものにはない」状態を意図的につくるしかないのではないか、という考えだ。この誰もが情報発信の能力があり、そして誰もが多かれ少なかれなるべくたくさんの人に自分のメッセージに反応してもらうことで承認や金銭を獲得しようとしているいま、〈みんな〉がシェアしているもの以外に言及するインセンティブはどんどん目減りしている。だからこそ、この状況が「つまらない」と思う人たちが集まって積極的にこの閉じた相互評価のネットワークから離脱する運動をはじめるべきじゃないかと考えているのだ。

もちろん、インターネットそのものを否定する必要はない(僕たちはその付き合い方を考え直せばいい。たとえば「遅く」接することからはじめてもいい)し、たとえインターネットから離脱したとしてもたどり着いたその先が、ボスの嫌いな人を取り巻きが中傷してご機嫌をとるような昭和のノリが全開の「飲み会」だったらまったく意味はない。そこに、SNSの延長のような人間関係しか存在しない場所があっても意味がない。そこにあるものは、人間関係「ではない」もの(事物)でなければいけないのだ。

だから僕はいま「(紙の)遅いインターネット」というものを考えはじめている。それは一切シェアされない雑誌だ。ワンクリックでは買えない、手間をかけてさがしたり取り寄せたりしないと手に入らない雑誌だ。その代わり、検索しても絶対に出会えないものに溢れた雑誌だ。正直、ちょっとハードルを自分で上げすぎていないかな、と思う。しかしやってみないことには未来にそれが実現することもない。

……つい、眉間にシワが寄った書き方になってしまったけれど、これからはそうじゃなくて、楽しくやれたらと思う。眉間にシワを寄せて憤りを表明することと、それを冷笑して自分を賢く見せること。このふたつの気持ちよさに夢中になっている人がちょっと多すぎて、いまの世の中は随分窮屈になっているように僕には思えるからだ。もちろん、楽しそうに、自分のペースでやっている人が目につくと足を引っ張りたくなる人も、残念だけれどすごく多い。だから僕もいろいろ足を引っ張られると思う。なので、もし僕らの試みに興味を持ってくれる人がいたらその分応援してくれると、なんというか、すごく嬉しい。

画像1

▲これは僕がスマートフォンでつくった表紙のイメージ画像。シンプルだけど、存在感が合って、手触りやめくり心地にこだわった冊子にできないかと考えている。紙にはあまり詳しくないので、これを機会に勉強したい。

※ ※ ※

【最近の活動と今後の予定】

「遅いインターネット」のウェブマガジンは2020年2月にリニューアル予定です。見た目も変わって、あたらしい記事もたくさん増える予定。お楽しみに。最近は、こんな記事を公開しています。


(遅いインターネット会議)
おもに火曜日の夜に有楽町SAAIで開いているトークイベントです(YouTubeやニコニコ動画でも配信しています)。政治からサブカルチャーまで、ビジネスからアートまで、いろいろな分野の人に来てもらって、じっくり腰を据えて議論しています。

イベントの一覧と、今後の予定はこのページにまとまっています。


(これからのPLANETSCLUB)
PLANETSCLUBは僕らが進める「遅いインターネット計画」の原資です。この収入があるために、閲覧数を一切気にせず、いま本当に必要なこと、面白いと思えることを発信することができています。僕たちの企てに賛同してくれる人がいたら、サポートをよろしくお願いします!

入会すると僕の「発信する」ノウハウを「すべて」共有する「PLANETSSchool」の受講をはじめ、たくさんのオンラインイベントに参加することができます。
PLANETSの発行するメールマガジンの閲覧、月3回の「遅いインターネット会議」の視聴も可能になるので、テキストと動画のサブスクリプションとしてものすごくお得です。




僕と僕のメディア「PLANETS」は読者のみなさんの直接的なサポートで支えられています。このノートもそのうちの一つです。面白かったなと思ってくれた分だけサポートしてもらえるとより長く、続けられるしそれ以上にちゃんと読者に届いているんだなと思えて、なんというかやる気がでます。