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『不自由律』 | 高佐一慈

お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐一慈さんが日常で出会うふとしたおかしみを書き留めていく連載「誰にでもできる簡単なエッセイ」。第6回は、たった一人での生配信ライブ「不自由律」を終えたばかりの高佐さんによる、ライブ開催までの奮闘記です。涙なしには読めません。

高佐一慈 誰にでもできる簡単なエッセイ
第6回『不自由律』

 2020年6月3日水曜日夜19時。下北沢ザ・スズナリという老舗の劇場で「不自由律」なるタイトルのライブを行った。コンセプトは、劇場内にたった一人で生配信ライブを行うというものだ。本番はお客さん無しの無観客ライブな上、スタッフさんもいない、劇場内のドアは解放という三密超回避作戦だ。自宅から劇場へも電車は使わず、車で向かう。
 僕自身、正直ここまでやる必要はないと思っているのだが、この形式が上手くいけば、緊急事態宣言が発令されたとしてもライブを開催し続けられると思った。

 実際、4月中旬はこのくらいの厳戒態勢で臨まないといけない風潮があった。
 そう、このライブは元々4月14日〜19日に開催する予定だったのだ。
 本来この期間に、ザ・ギース単独ライブ「自由律」を行うはずだったのだが、やむなく中止となったため、タイトルを引き継ぐ形で「不自由律」と銘打ち、この無謀なライブを行う計画を立てていた。

 遡ること2ヶ月半前。2020年3月31日。ギース、事務所の社長、マネージャーで話し合い、単独ライブ中止の決定をした。その2週間前あたりから、そうするしかない、それがベストな判断だとは薄々気づいてはいたものの、いざ中止と決定するとそれまでライブに向けて張っていた力がみるみる脱力していった。
 その頃はどの芸人も劇団もアーティストも、ライブの中止を発表していた。
 これはしょうがない状況であるし、いやしょうがないというか、中止にするべきだと自然に思ったし、芸人という職業もといエンタメなんて緊急事態な状況においては何ら必要の無いものなんだなぁと思った。それに「こんな状況だからこそ、ただ自粛するだけじゃなく、何かしら動くことで、エンタメの力を発揮しよう! それをお客さんも望んでいるはずだ!」と、何の疑いもなく、使命感に駆られた熱いエンタメ魂を放出することは、ただのエゴだなとも思ってしまった。こんな時に何も出来ないのがエンタメ界に身を置く者の宿命だ。一番の目的はウイルスを抑え込むことなんだから、勝手に使命感なんて抱くなよ、と。

 しかし。これが1〜2年も続くと話は変わってくる。この状況はワクチンや特効薬が出来るまでのことと、その時の僕は思っていたので、だとしたらウイルスと共存して生きていかないとと思った。家でじっとしているのが一番安全で賢い方法だとは理解した上で、その中で生きていくための手段を講じないといけない。

 4月に入り、どうやって生きていくかを毎日考えた。何度考えても人の命より勝るものはなかった。そして絞り出して出た答えがこのライブだった。
 当初はギースで代替ライブをやろうと思っていたのだが、この状況に関しては人によって温度差がある。その人を取り巻く環境であったり、その人自身の経済状況であったり。もし僕が子供や両親と暮らしていて、1年やり過ごす蓄えもあるのなら、ライブをやろうなどとは考えなかったかもしれない。
 結局、人を巻き込まない形、つまり僕がたった一人で開催するということになった。
 ハープを弾き続けるライブ、石膏でダビデ像を作り続けるライブ。いろんな案を経て、4月14日〜19日の元々の単独ライブの開演時間に合わせて、45分間の無観客ライブを配信する、という結論になった。
 45分間8ステだ。あと10日も無い。
 無我夢中で考えた。
 そして本番まであと1週間というところで、大枠の構成が出来た。配信なので、毎ステ内容を変えなければならないということもあり、構成は一緒で、ネタの中身を全部変えることにした。8ステかけての連続物の演目も用意した。あとは1週間で細かいボケを出すだけ出しまくる作業だ。

 しかし、その日の夜に電話があり、配信という形でも劇場の使用が不可になったという連絡があった。
 残念という気持ち以上に、ホッとしている自分がいた。怖かったのだ。
 また別の形を模索する毎日だった。
 それから緊急事態宣言が発令され、自粛期間が続いた。そして、そろそろ緊急事態宣言が解除されそうという動きになってきた頃だ。

 そこで再びお話が来た。スズナリからだ。6月から劇場を再開するので、もし何かあれば生配信ライブをやりませんか? というお話だった。現在5月中旬。
 世の中では自粛警察のニュースが出始め、ライブや営業を再開しようとしている人への風当たりが強い時期でもあった。
 そこで、一旦ゴミ箱に捨てた「不自由律」を拾いなおし、再構築することにした。
 開催日時は6月3日。1ステ限りの生配信。
 この2ヶ月で生活様式はガラッと変わり、ほとんどの仕事がリモートでの配信や収録に取って代わり、中でもZoomを使っての配信というライブ形式が、全配信ライブのほとんどを占めていた。僕もそのテクノロジーにあやかり、トーク配信をしたり、別の企画配信に参加したりした。Zoomはめちゃくちゃ便利なツールで、なんで今まで知らなかったんだろうというくらい重宝しているのだけれども、このツールはそもそもオンライン会議用アプリとして開発されたものなので、ライブを配信するには、画質が悪かったり会話にタイムラグが生じたりという欠点もある。慣れてくればそれも気にならなくなってくるのだが、やはりストレスなく100%すっきりと見れるかというとそれには及ばない。
 だからこそちょっと忘れかけていたであろう、劇場でお笑いや芝居や音楽を鑑賞するという、あの感覚。あの感覚を感じてもらいつつ、配信という形を生かしたものを提供できたなら。それは今後のライブ生配信の可能性を広げられるかもしれない。それをするのは別に僕じゃなくてもいいのだが、まだ誰も手をつけていないことだったので、やってみようと思った。

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