【インタビュー】本多重人 空をつなぐことで見えて来る社会とは?
今日のメルマガは、株式会社OpenSky代表の本多重人さんのインタビューをお届けします。個人や企業が航空機を自由に使えるようになる産業、通称GA(general aviation)に取り組まれている本多さん。日本の空路を「開く」ことで可能になる未来についてお伺いしました。(取材:石堂実花・宇野常寛 構成:鈴木靖子)
ジブリの見すぎでパイロットに……?
――本多さんは僕(宇野)がモデレーターを務めた東京都のイベント「ミライのワクワクトークセッション」で登壇されて、そしてその事業の話が面白くてこうして改めてインタビューをお願いしているわけですが、まずは、本多さんご自身の活動からお伺いできますか。
本多 私は今、株式会社OpenSkyというスタートアップの経営をしております。もともとは私の個人的な活動からスタートしたんですが、「誰でも空を自由に使えるようにする」ことをビジョンに掲げ、そんな世界を目指しています。
――もともとはパイロットで、曲技飛行をされていたんですよね。空に興味を持ち、パイロットを目指した理由は何だったんですか。
本多 それはですね、幼稚園くらいのときから飛びたかったんですよ。なぜかはよくわからないんですが、多分、ジブリの見すぎ(笑)。『紅の豚』、『風の谷のナウシカ』、『天空の城ラピュタ』あたりですね。
――まだ、ちゃんと空を飛んでいた頃の宮崎駿ですね。
本多 あとは『マクロス』とかの影響ですね。
――『マクロスF』とかですか? 『超時空要塞マクロス』は本多さんの世代じゃないような気もしますが……?
本多 いえ、一番最初の『超時空要塞マクロス』をビデオとかで観たんです。それで、「飛びたい!」って。あと、小さいときから流線型の形になぜか惹かれて。空とは関係ないんですが、動物だとイルカが好きでした。この感性がどこからきたのかはわからないですけど。
――ただのパイロットではなく、曲技飛行を目指されたのはどうしてですか?
本多 同じ場所へ同じ経路を使って同じように飛ぶということに、興味をそそられなかったんです。中学生のとき、自由に飛べる仕事はないか探していて、ネットでスカイスポーツの曲技飛行を見つけたんです。でも、どうやったらその世界に入れるかわからなくて。悶々としながら、とりあえず地元の航空工学科のある東北大学に進学しました。
――大学時代にグライダーの免許を取得し、18歳のときにアリゾナでパイロット免許を取ったわけですよね。そして、曲技飛行で世界の競技会に参加するまでになった。優勝経験もありますよね。
▲大学時代の本多さん
本多 僕が優勝したのは全仏選手権です。海外の選手も参加しますが、曲技飛行というと実質的にフランスが世界一なんですよ。
――ジェラート職人がイタリアで優勝するみたいなことですね。日本では曲技飛行の競技人口はそれほど多くはないですよね。
本多 多くないですね。曲技飛行は専用機が必要で、その専用機も日本には数えるほどしかありません。しかも個人の持ち物なので、基本的には他の人には貸さない。だから、海外に行くしかないんです。私も大学に行きながら、年に何回か海外に行って練習して大会に出て、日本に帰ってお金を貯めて、また海外で散財する……という感じでした。
――それは、学生でも集められる金額なんですか?
本多 可能ですよ。僕は年間、200万円から300万円くらい使ってました。それを6年程やったので……計算したくはないですけど。
あと、曲技飛行は基本的に最初は二人、教官(インストラクター)と同乗で練習して、ある程度うまくなったら一人で飛んで、それを地上からコーチングしてもらうんです。そのコーチをできる人が日本にはいない。うまくなるためには、やっぱり海外で練習するしかないんです。
――専用機がない、教官がいないなど、日本には足りないものが多そうですね。ほかに、海外と日本の違いはありますか?
本多 曲技飛行についてはそのくらいですが、もっと大きな航空産業自体の話をすると、ギャップとして感じたのは、日本人は空を特別視しすぎているということ。海外ではパイロットの免許を持っている方もたくさんいるし、車と同じような感覚で使っています。たとえば僕と同じ日にフライトスクールに入ったおばちゃんは、子育てが終わって時間ができたから、免許を取りにきたんだそうです。
――そのおばちゃんは、飛行機をどのように使うんでしょうか?
本多 車と同じです。通勤に使ったり、家族や友達を乗せてランチに行くとか。距離にして500キロくらい、東京〜京都間くらいは飛行機で移動するのも普通です。EUや北米、南米では日常的に空を使いますし、南アフリカやオーストラリア、ニュージーランドもすごいですよ。
日本の空はブルーオーシャン
ーーでは、OpenSkyの事業の概要について教えていただけますか。
本多 私たちがやっているのは、小型機からビジネスジェットくらいまでの飛行機やヘリを個人や企業が自由に使う産業です。これはゼネラル・アビエーション(General Aviation)、略してGAと言うんですが、まだまだアジアでは未成熟なんです。
今後、エアラインもGAも、間違いなく空の中心はアジアにシフトします。その中で、日本というのは特にユニークなマーケットなんですよ。GDPも大きいし、人口も多い。メルカトル図法の世界地図の特性から、「アメリカやヨーロッパと比較して国土が狭いから無理なんじゃないか?」と思われがちですが、実は日本の国土ってけっこう広いんです。それに富裕層の数も多い。GAが発展する土壌と条件が完全に揃っているのに、まだ使っていない唯一の先進国なんです。
さらにいい条件が、日本の航空法の中身がスカスカなこと。大きな航空会社しか想定されてないので、GA産業についての法律がほぼ白紙なんです。つまり、海外よりもっといい法律を作っていける可能性がある。日本の空はすごいブルーオーシャン。先進国の中で唯一のフロンティアです。海外と同水準のサービスを提供すれば、少なくとも海外先進国と同じ水準までは伸びると見ています。
ーーそんな状況だとは、まったく知りませんでした……! 具体的には、これからどんなサービスを提供していくのでしょうか?
本多 事業の内容は大きく3つ。ひとつがホンダジェットをはじめとした、ビジネスジェットの運航サポート事業。これは完全に富裕層向けです。
ふたつ目はプロペラ機や小さい小型機の貸出事業。こちらはパイロットの教育をメインに、一般の方向けにも貸出す予定です。
そして、簡易飛行場の設置です。日本はとにかく交通インフラが弱い。空港は少ないし、定期便のための施設ばかり。特に関東圏って、非常に空が使いづらいんです。東京にアクセスするのにGAが自由に使える飛行場は実質ゼロ。こんなにアクセスの悪い大都市、国際都市はなかなかありません。なので、関東圏、千葉県と神奈川の2か所に新しい飛行場を作りたいと考えています。
――OpenSkyさんがやられているような「空の移動」を広げる事業で、先行しているサービスには、例えばどんなものがありますか?
本多 私が注目しているのが、ビジネスジェットの運行では老舗のNetJets Inc.という会社です。ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway Inc.)の傘下に入っている企業なんですが、ここが始めたビジネスモデルがとても革新的なんです。
それは何かというと、航空機1機を最小単位16分割で販売するんです。航空機を利用したい人は航空機を利用したい日数にあわせてシェアを購入して、同じように2機目、3機目も分割して販売する。その一部分を買うと、他の飛行機も全部使えるという契約です。
飛行機って、整備や故障でダウンすることが多く、1機だけだと使えない日っていうのがどうしてもでてきます。複数台を所有して管理し、すべて使えるとなると利用者の利便性があがるし、イニシャルコストも安くなる。このプログラムも日本で提供したいと考えています。
――つまり、Uberみたいなシェアリング・プラットフォームのようなものでしょうか。
本多 そうですね。これが面白いのは、運送事業ではないということなんです。運送事業にしてしまうと制約が多く、コストも高くなる。でも、このプログラムはあくまで買った個人がオーナーであって、運行の責任もオーナーにある。ただし、そのぶん利便性が高い。コストも抑えられて、使えるシーンが増えるんです。私たちも運送事業の会社になるわけではなくて、航空機とパイロットの準備、手配、維持管理など面倒で難しいことをオーナーの代わりに行う、あくまでマネージメントの会社なんです。
言うなれば、20世紀型の規制産業としての運輸行政の外側をハッキングしようという試みなわけですね。日本でこうした事業を展開するにあたり、足りないものは何ですか?
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