【特別寄稿】森田真功 ヤンキー・マンガと「今」
今朝のメルマガは、森田真功さんのヤンキーマンガ論をお届けします。ヤンキーマンガの全盛期は平成初頭であり、近年は再評価やリバイバルが盛んですが、最近の漫画誌では新世代のヒット作も次々と登場しています。令和のヤンキーマンガは何を更新しようとしているのか、『東京卍リベンジャーズ』『六道の悪女たち』『鬼門街』といったタイトルから考えます。
平成と重なり合うヤンキー・マンガの歴史
ヤンキー・マンガの「今」の話をしたいと思う。「今」とは、もちろん、2019年の「今」を指しているのであって、つまり、令和元年となった「今」現在のことにほかならない。ヤンキー・マンガというと、おそらくは昭和のイメージが強い。昭和のイメージで語られる機会が少なくはない。それは俗にヤンキーと呼ばれる不良文化のスタイルが80年代に一般化し、広く定着したためである。しかし、誤解されがちではあるのだけれど、ヤンキー・マンガを代表するような作品の多くは、実は昭和よりも平成として区分される時代に親しまれ、人気を博していったのだ。
先駆的な『湘南爆走族』(1982年〜1987年)や『BE-BOP-HIGHSCHOOL』(1983〜2003年)を別にすれば、たとえば『ゴリラーマン』(1988〜1993年)や『ろくでなしBLUES』(1988年〜1997年)『BAD BOYS』(1988年〜1994年)や『今日から俺は!!』(1988年〜1997年)『カメレオン』(1990年〜2000年)や『湘南純愛組!』(1990年〜1996年)「クローズ』(1990年〜1998年)や『疾風伝説 特攻の拓』(1991〜1997年)『ウダウダやってるヒマはねェ!』(1992年〜1996年)など、ヒット作の登場が80年代の後半から90年代の前半に集中していることは、ヤンキー・マンガのムーヴメントがあくまでも90年代に属していたことの証左になるのではないか。80年代は、確かに昭和に含まれる。と同時に、平成元年が1989年の西暦と一致している点を踏まえるなら、昭和の終期と平成の始期とを80年代は兼ねていたことになる。それ以降の90年代は正しく平成というERA(時代)のなかに置かれるべきものであろう。
ヤンキー・マンガは、昭和の終わりに勃興し、日本的なサブ・カルチャーの一角を為すほどの支持を得た。その支持は平成の間中ずっと続き、およそ30年経った令和の現在もまだ支持され続けているというのが、ここでの前提である。当然、いちジャンルの歴史において停滞や不調がないわけではなかった。が、2007年の『クローズZERO』をはじめ、いくつものヤンキー・マンガが実写化、メディア・ミックスされるたびに話題を呼んだ。2019年に実写化が成功した『今日から俺は!』は記憶に新しいところだと思う。ある意味、それらは過去のヒット作がリヴァイヴァルしたにすぎない。リヴァイヴァルに適した需要が世間にあったともいえる。他方、現在進行形で連載されている作品には、そうしたリヴァイヴァルとは必ずしも合致しえない魅力が見つけられる。それこそがここでの本題なのだった。
2010年代のヤンキー・マンガには二つの潮流があった。『湘南純愛組!』と舞台を同じくする『SHONANセブン』(2014年〜)や『カメレオン』の登場人物をカムバックさせた『くろアゲハ』(2014年〜)などに代表される続編もの。そして、実在している人間の若かりし日を描いた『デメキン』(2010年〜)や『OUT』(2012年〜)『ドルフィン』(2015年〜)などに代表される自伝ものが、2010年代の前半にヤンキー・マンガのシーンでは大きく目立っていたのだ。それらも過去のとある時代を参照しているという点で、リヴァイヴァルの領域に入るのかもしれない。しかしながら、このような傾向とも以下に挙げていく作品は異なっている。
トレンドと融合した『東京卍リベンジャーズ』
さしあたり、三つの作品を取り上げるつもりでいる。まず挙げたいのは『新宿スワン』(2005年〜2013年)を手がけた和久井健の『東京卍リベンジャーズ』(2017年〜)である。『東京卍リベンジャーズ』に触れる上で看過できないのは、タイムリープの仕掛けだ。タイムリープ、ループ、リプレイなどのアイディアを通じ、物語の中に周回の要素をもたらすというのは、近年のフィクションにとっては凝っておらず、むしろスタンダードな作法であろう。ドラマ、映画、小説、マンガ、いずれの媒体に関わらずなのだが、厳密にはSFのジャンルとは見られない作品にあってさえ、時間の行き来を繰り返すことで、何らかの帰着を得るパターンのものは珍しくない。タイムリープの能力を手に入れた主人公が、近い将来に亡くなる初恋の女性を救うため、過去に戻り、彼女が死に至る原因を突き止めようとする。これが『東京卍リベンジャーズ』のあらすじになるのだけれど、率直にいって、ありがちなパターンと受け取ることができてしまう。安直さがある。反面、そこに不良とされる人間のテーマを落とし込むことで、一つの特徴が生まれているのも確かなのであった。
▲『東京卍リベンジャーズ』
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