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「ご当地バーガーを、高知から世界へ」──女性起業家がめざすグローカリゼーション|森本麻紀

中小企業の海外進出を専門の明治大学・奥山雅之准教授とNPO法人ZESDAによるシリーズ連載「グローカルビジネスのすすめ」。地方が海外と直接ビジネスを展開していくための方法論を、さまざまな分野での実践から学ぶ研究会の成果を共有してゆきます。
今回は、高知のご当地グルメ「龍馬バーガー」の仕掛け人・森本麻紀さんが登場。日本国内の「地元ネタ」が通用しないはずの海外でご当地バーガーをブレイクさせた、そのユニークな事例を紹介します。

グローカルビジネスのすすめ
#02 「ご当地バーガーを、高知から世界へ」──女性起業家がめざすグローカリゼーション

 近年、新たな市場を求めて地方の企業が国外市場へ事業展開する動きが活発になっています。日本経済の成熟化もあり、各地域がグローバルな視点で「外から」稼いでいくことは地方創生を果たしていくうえでも重要です。しかし、地方の中小企業が国外市場を正確に捉えて持続可能な事業展開を行うことは、人材の制約、ITスキル、カントリーリスク等、一般的にはまだまだハードルが高いのが現実です。
 本連載では、「地域資源を活用した製品・サービスによってグローバル市場へ展開するビジネス」を「グローカルビジネス」と呼び、地方が海外と直接ビジネスを展開していくための方法論を、さまざまな分野での実践の事例を通じて学ぶ研究会の成果を共有します。
(詳しくは第1回「序論:地方創生の鍵を握るグローカルビジネス」をご参照ください。)

 今回は、高知のご当地グルメとして名の知れた「龍馬バーガー」を生み出した「5019(ゴーイング)PREMIUM FACTORY」の森本麻紀さんにご登壇いただきます。高知のご当地バーガー「龍馬バーガー」が、香港で絶大な人気を誇っています。なぜ香港で高知発のご当地バーガーの味が認められたのか?──地方の名産品や飲食店がグローカルに展開していく際の成功のポイントを探ります。

(明治大学 奥山雅之)

創業までの紆余曲折

 はじめまして、森本麻紀です。「5019」と書いて「ゴーイング」と読む、5019プレミアムファクトリーという、カフェ&バーを中心に事業を展開している会社を経営しています。
 読者のみなさまは、高知を訪れたことはあるでしょうか。高知の良いところといえば、ずばり人と食です。人に関しては実際に行ってみなければ分かりませんが、食に関しては、大手旅行会社の「行ったことがある観光地でおいしかったところはどこ?」というランキングで過去10年間で7回、1位に輝いています。なかなか行く機会がないかもしれませんが、本当に食に恵まれた場所なのです。
 私はその高知県で、高さ20センチぐらいあるご当地ハンバーガーを売りにしたハンバーガー屋を経営しています。坂本龍馬の地元ということで、「龍馬バーガー」と名付けました。高知県の名産である鰹が入っていたり、高知県が生産量日本一を誇るナスとピーマンなど地元の食材を使ったりしています。「高知から世界へ」という話をすると、地元の人ですら「何じゃそりゃ」という風な反応をされることもあり、実際に、現在に至るまでには多くの苦労や方向転換を経験してきました。本稿では、そのような来歴を辿りつつその中で得られた教訓を整理し、これを踏まえてプレイヤーの視点から海外に挑戦するということについて私見を述べようと思います。

 さて、改めて自己紹介をさせていただきますと、私は高知県生まれ、高知県育ちで、高知以外に住んだことはありません。私の両親は、高校を中退して私を産んでくれました。父は、いつも「発想、決断、実行」これを考えながら生きていきなさいと教えてくれました。また母からの教えで、常に笑っていなさいと。歯茎が乾いて、唇がカサカサになるぐらい笑ってなさいと。そのような家庭で育ちました。

 親は非常に厳しくもあり、高校生になっても門限が夕方の4時半。学校が終わったら自転車で急いで帰らなくてはいけないほどでした。そのような事情もあって早く結婚して親から逃れたいなと思い、19歳で結婚し、早くに子供にも恵まれました。まもなく、義父が地元で結構大きな車屋をやっていたこともあり、自動車の損害保険などの勉強をしなさいということで、保険会社に入社をしました。もともと営業が大好きなこともあり、どうせやるならランキングに乗るぐらい頑張ろうと一念発起し、3年間連続で西日本一の営業成績を残すことができました。

 翌年、22歳のとき、高知で大水害がありました。高知市内の半分が2メートルぐらい浸かるほどの大水害で、その際に義父の会社は多額の損失を被りました。これがきっかけで主人のお給料も2年ほど出なくなりました。私は損保会社で稼いでいたので何とか生活できていましたが、生活は苦しくなりました。最終的に義父の会社が倒産を余儀なくされ、24歳にしていきなり、5千万円の借金を背負うことになりました。

 その後たまたま主人の同級生に会った時には、「あれ? 高知にいたの?」って聞かれたこともあります。あまりにも大規模な倒産であったため、逃げていなくなったのだと思われていたようです。息子は小学校1年生でしたが、同級生の女の子から、「おうち貧乏やろ? 大丈夫?」などと言われたらしく、「お母さん、うちはそんなに貧乏なの?」と聞かれました。その時は非常に悔しかったのですが、貧乏上等、家族で仲良くご飯を食べられるなら、貧乏暮らしを楽しんでやろうという意気込みで生活をしていました。

 主人は高校卒業と同時に父の車屋でずっと営業してきた人です。会社はなくなりましたが、それまでに付き合いができていたお客様達が車の仕事をくれていたので、もう一度気を取り直して二人で車屋を始めようということに決まりました。「5019(ゴーイング)」というのは、もともとこの時に立ち上げた車屋の名前です。もう後ろを振り返っても仕方ない、前を向いて行くしかない、という決意からとったものです。

 最初は小さなアパートの一角で始めた車屋でしたが、徐々に従業員を増やすことができるようになり、しばらくすると300坪ほどの比較的大きな土地を借りられることになりました。中古車につきまとうなんとなく悪いイメージを払拭し、クリーンな店にしたい。若い女性でも気軽に来てくれるような店にしたい。このような目標から、新たに借りた土地の一角にあった倉庫を改装して、カフェを併設することにしたのです。

 その際、なにか目玉になるような商品を作ろうという話が持ち上がりました。ゴーイングという強引な当て字の会社名なので、どうせなら強引に具を詰めたハンバーガーを作ろうと思い、最初に「強引具バーガー」というメニューを作りました。それを売り出し始めた頃、ふとあることに気付きました。高知には、ご当地バーガーがなかったのです。そもそもその頃は、ちょうど佐世保バーガーが注目されてきた時期で、ご当地バーガーというものもポピュラーではありませんでした。ならば自分たちで高知のご当地バーガーを作ろうと思い、高知の食材を入れて、シンプルに坂本龍馬の名を冠した「龍馬バーガー」を作りました。身長が高かったと言われる坂本龍馬にちなんで、縦に長くインパクト絶大なバーガーです。
 この取り組みがヒットしました。この目玉メニューの人気に火がつき、ついに高知県のカフェランキングで長い間1位を独占するようになりました。次々と取材をしていただいたり、車屋とカフェという取り合わせの珍しさから、日経新聞に取り上げていただいたりもしました。最近では、全国の人気グルメ番組でも取り上げていただくほど、知名度も上がってきています。

 その後は借金も完済し、2009年に株式会社グラディアという法人を立てました。このグラディアというのは、ゴーイングをラテン語にしたものです。今では5019の看板をこの会社に移し、メイン事業である飲食店の経営を行っています。

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