【インタビュー】坂本崇博「〈仕組み〉に乗っかり〈仕方〉を変える」前編(PLANETSアーカイブス)
今朝のPLANETSアーカイブスは、老舗の文具・オフィス家具メーカー・コクヨの社員として、企業や自治体・学校などに「働き方改革」をコンサルティングしている坂本崇博さんのインタビューです。なぜ、一企業の社員が「働き方改革」に取り組むことになったのか。前編では、入社2年目にして新たな営業手法にチャレンジし、自身の残業時間を削減しながら営業成績もアップさせたという、坂本さんの「自分の働き方改革」についてお話を伺いしました。(構成:鈴木靖子)
【告知】
坂本崇博さんが、2月18日(月)に開催されるオンラインサロン・PLANETS CLUBの第12回定例会で、ゲストとして登壇されます。イベントチケットはこちらで販売中。PLANETS CLUB会員以外のお客様も購入可能です。ご参加お待ちしております!
自分の働き方を改革した理由
宇野 坂本さんは、所属されているコクヨ社内における働き方改革をはじめ、数多くの企業の「働き方改革」のコンサルティングを手がけられているわけですが、その「働き方改革」をはじめるきっかけがものすごくユニークだと思います。 まずはいち営業マンだったご自身の「働き方」を改革して、そのノウハウを応用して「働き方改革」のコンサルをするようになった、という経緯について改めてお伺いしたいのですが……。
坂本 私がコクヨに入社したのは2001年です。コクヨを選んだ理由は、出身である関西から離れたくない、そして誰もが知っている会社で働くことで家族を安心させたいという点でした。そこで本社が大阪にあって、祖母と母が知っていそうな会社を中心にエントリーしていきました。しかも、「ご縁」を大事にしたいので、自分の生活で何か「恩」がある会社に入ると決めていた。そういう意味では、あまり「何をするか」については深い考えがない、「どの会社に入るか」というよくありがちな「就職」ではなく「就社」を目指している就活生でしたね。 まず面接に行ったのは東大阪の某食品メーカーでしたが、就活を始めたばかりの時期だったこともあって、面接では「就活性らしいきれいごと」ばかり並べてしまい、自分の想いや本音を何も話せずに落ちました。それで半分やさぐれて「この際、言いたいこと全部言おう」と心に決めました。そして、次に受けたのがコクヨだったんです。コクヨには「ロングランデスク」からキャンパスノート、さらには就活の履歴書までお世話になっていましたから、恩返しにはもってこいですし。そして当日、グループディスカッション形式だったのですが、何しろやさぐれているものですから、本音丸出しで好き放題に喋りまくって(笑)、「私 対 残りのメンバー」という構図が出来上がって、でも最後にまとめの発表を求められたときに私がすっと手を挙げて、さっきまで敵対していた他の人たちの意見をまとめて「今回の議論の結論はこうです!」と述べてドヤ顔してたら、その日のうちに連絡があり「内定」と言ってもらえて。これでますますコクヨに「恩」を感じるようになって、「コクヨで何か新しいことをやってコクヨの次なる成長に貢献してやろう」という気持ちになったんです。 当時のコクヨは、新たにオフィス通販事業をいくつか立ち上げていたタイミングでした。私の最初の仕事はそこでの営業でした。文具・オフィス家具のコクヨとしては、これまでのお客様からのリピートも多く、そのジャンルでのブランドも確立されていましたが、通販、つまりお客様にとっては「購買システム」をご提案して導入いただくという新しい事業ですので、営業のメインは新規開拓になります。そうすると、効率的にお客様にリーチし、価値を訴求しなければならない。そこでひらめいたのが「会いに行く営業」から「来てもらう営業」への働き方改革です。新規開拓の場合、いかに多くのお客様にリーチして価値訴求できるかが営業にとって勝負になるので、営業は必死に会う数を増やそうとしますが、1日に会えてもせいぜい4〜5人です。もちろん一度お会いするだけでは話は進みませんので、検討の俎上にあがるまで何度も通うことになります。すると、日中の時間は「お客様にお会いするための外出」に全て使ってしまい、事務処理や見積もり作業、ミーティングは残業時間でやることが普通になるわけです。この働き方を皆横並びでやっている以上、残業は減りませんし、他社との価値(生産高)の差は「活動量」の差ということになってしまい、生産性で差別化ができていないと感じていました。なにより、家の面倒も見られないし、撮り溜めている大好きなアニメも観られません(笑)。そこで、「逆にお客様に来ていただくことができたら、倍の人と会えるようになるんじゃないか?」と、セミナー形式でお客さまに来てもらうという営業スタイルを始めてみたんです。
宇野 そのセミナーはどういう内容だったんですか?
坂本 当時のお客様は、会社の消耗品を購入する総務部や購買部の方だったんですが、消耗品というのは品種は多いし頻繁に補充が必要になるので、とりまとめ発注や経費実績管理などの手間が大変なんです。そこで会社として発注先や価格を一元管理できて、実績もデータ化できる購買システムを導入して、ユーザーが各自で発注する仕組みにすれば、大幅な時間短縮と厳密な購買管理の両立ができる。そういった説明を、消耗品購買業務改革セミナーといった形で提案させていただきました。購買業務の働き方改革です。
宇野 自分の働き方改革を行うことで、定時に帰れるように仕事をハックしたんですね。 それで営業成績は上がったんですか?
坂本 上がりました。時間も効率化できて、フレックスを活用して16時頃に帰ったりとか。朝のうちに漫画を読みふけってから出社したりもしていました。『最終兵器彼女』を号泣しながら一気に読んだ後で営業に行って、お客様から「何泣いてんの?」って言われたり(笑)。もちろん勉強もしました。セミナーでのプレゼン手法とかロジカルシンキングとか、大学のときもっと勉強しておけばよかったと後悔しながら。仕事に関する勉強をするなら仕事時間に会社が負担してやるべきだという方もいるかもれませんが、私にとっては余暇です。
私のポリシーは、人とは違ったやり方をすることです。 たとえば、新入社員だった15年前に、個人のパソコンを会社に持ち込んで業務をしようとしました。今流行しつつあるBYOD(Bring your own device)ですね。もちろん怒られましたけど(笑)。じゃあPCの性能あげてくれと交渉材料にしました。
宇野 15年前の時点でBYODは、かなり早いですね。
坂本 あとは駅前や公園でプレゼンの練習をしたりもしましたね。ギターもって歌うのではなく、スーツ着てプレゼンするんです。TEDみたい。一応、足元に空き缶をおいて(笑)実はもともとはプレゼンは大の苦手で、人前に立つと震えが止まらない人間だったのですが、数をこなす中で、次第に余裕もでてきて、人に受けるプレゼンとはどういうものかを考えながら演じるようになっていきました。 ちょっと集団からはぐれたことをやって、それで空いた時間を、自分の好きなことに使うのが大好きだったんです。 と、いうかたちで「自分の営業活動の働き方改革」をやったわけですが、私個人の動機はというと、単に早く家に帰りたかったんです。家に帰って好きなアニメを見たかった。また、中二病なもので、誰もやっていない方法で何かをやって、「変わり者扱いをされる」ことが好きなんですね。小学生のころは毎日通学路を変えて探検しながら、たまに道に迷って遅刻したり、怪我もしていないのに腕に包帯巻いてみたり、黒歴史も豊富です(笑)。
宇野 そういった自由なスタイルで仕事をすることに対して、同僚や上司からの反発はなかったんですか?
坂本 何よりありがたいことに、当時は入社して2年目でしたが、上司や先輩に「これをやりたい」と言うと「やってみれば?」という人たちだったんですよね。ある意味放任主義というか、営業も数回背中を見せてあとは「一人で行ってこい」みたいな。だから、自分なりのやり方がやりやすかった。逆に上司がメンターのような形で常に側にいたら、「こうやるんだよ」と教えられてその通りにやっていたでしょうし、新しいやり方を試すヒマがなかったと思います。そして、最初はセミナーを開催しても、なかなか人が来てくれませんでしたが、何人かの先輩営業が「これは面白い」と一緒にお客さんを呼んでくれて、だんだん大きくなっていきました。
ビジネスモデルの提案から働き方改革の事業へ
宇野 そこから、どうやって働き方改革のコンサル事業が生まれたのでしょうか?
坂本 その後、大阪本社から東京の新規事業開発の部署に異動になりました。そこで企画して立上げたのが「ナレッジワークサポートサービス」というサービスです。これは、私自身の資料づくりへのこだわりがベースにあります。プレゼン資料や提案書の質は受注率を直接的に左右します。そのため、考え抜いて作り上げたノウハウを持っていたんですが、そのノウハウをお客様にご提供しようと思いついたんです。まずは私自身がコンサルとして、勝てる提案書作りを請け負ったりアドバイスすることをはじめ、さらにそのノウハウをマニュアル化していきました。そしてそのマニュアルをベースに人を育成し、私自身ではなく、コンシェルジュと呼ばれるメンバーがお客様のオフィスに常駐して資料作成をサポートするアウトソーシングサービスに展開していきます。これはウケましたね。社内にスタッフが常駐して、資料作成の他、いろんなことを請け負う・サポートするというビジネスで、今ではコクヨアンドパートナーズという会社になって、他にも色んなアウトソーシングメニューを拡充して、企業の残業削減や業務品質向上にお力添えができています。
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