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“kakkoii”の誕生 -世紀末ボーイズトイ列伝-

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20世紀末に流行した日本の男の子向けおもちゃのデザインから、新しい男性のかっこよさについて考えます。
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#kakkoiiの誕生

勇者シリーズ(7)「勇者警察ジェイデッカー」|池田明季哉(後編)

母なる勇太、父たるレジーナファイヤージェイデッカー誕生は、次のような展開を通じて行われる。 かつてデッカードを倒したチーフテンは、紆余曲折を経て再びブレイブポリスの前に立ちはだかる。もともとは相棒を失ったことを悲しむ心を持っていたチーフテンは、しかし創造主たるビクティムが「強い者が全てを手にする」という「悪の心」を徹底させたことで、片方が片方を殺害し、そのパーツを吸収するかたちで一種の「グレート合体」を果たす。 これに対抗するためにデッカードとデュークもまた合体しようとす

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勇者シリーズ(7)「勇者警察ジェイデッカー」|池田明季哉(中編)

「人間」になっていくロボットたち ダ・ガーンは地球の意志ともいえるような超存在にその人格の根拠を置いていた。しかしジェイデッカーのブレイブポリスは、あくまで超AIという人間が生み出したテクノロジーである。これ自体はマイトガインの勇者特急隊にも存在した設定だったが、それはあくまで旋風寺舞人が所有する旋風寺コンツェルンのテクノロジーのひとつにすぎず、超存在「ではない」意志の根拠として設定されただけで、掘り下げられることはなかった。 しかしジェイデッカーは超AIによって生まれた

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勇者シリーズ(7)「勇者警察ジェイデッカー」|池田明季哉(前編)

反動としての『勇者警察ジェイデッカー』 「高松勇者」の一作目となった『勇者特急マイトガイン』は、「谷田部勇者」が確立した少年とロボットの関係性を大幅に再解釈し、少年のナルシシズムを強化した。結果としてマイトガインはむしろ搭乗型ロボットの美学へと傾くことになった。 こうした美学の変化に、制作側はおそらく自覚的であったと思われる。なぜならそれに続く『勇者特急ジェイデッカー』は、少年とロボットの関係に明確に立ち返っているからだ。 『勇者警察ジェイデッカー』(1994年)は、そ

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勇者シリーズ(4)「太陽の勇者ファイバード」(後編)

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(4)「太陽の勇者ファイバード」(後編)■「武装」するロボットと脱税さて、それではモチーフについても論じていこう。今作において、ファイバードたち宇宙警備隊が身を寄せるのは「天野平和科学研究所」である。これは天野博士(ひろし、という人名であるが、おそらく学術博士でもあるだろう)によって設立された民間の研究所である。宇宙のマイナスエネルギーを観測した天野博士が、その災いから人類を守ることを目的として設立さ

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勇者シリーズ(4)「太陽の勇者ファイバード」(前編)

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(4)「太陽の勇者ファイバード」(前編)前回はエクスカイザーが確立した勇者シリーズの基礎構造について次のように整理した。前身となる『トランスフォーマーV』においてジャン少年とスターセイバーが「子」と「父」の関係であったのに対して、コウタ少年とエクスカイザーは相補的な関係にある。本稿では、「魂を持った乗り物」という想像力の特徴を、その主体の曖昧さ、中間性・相互性に見出してきた。勇者シリーズは、完全に人間

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勇者シリーズ(3)「勇者エクスカイザー」|池田明季哉

池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(3)「勇者エクスカイザー」『トランスフォーマーV』では、ジャン少年という「子供」にとって、スターセイバーという人格を持ったロボットが目指すべき「大人」である、という父子の関係が確立されたことを示した。言い換えれば、これは「未成熟な主体」が「魂を持った乗り物」にアクセスすることによって成熟を試みていく構造の確立でもある。 この『トランスフォーマーV』に続いて制作されたのが、「勇者シリーズ」だ。「勇者

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勇者シリーズ(2)「ぼくらも勇者になれますか」|池田明季哉

【イベント情報】 11月25日(金)19時〜 青山ブックセンター本店(渋谷)にて、宇野常寛が浅生鴨さんと対談します。 題して、“それっぽい「いい話」と、この悪いやつを叩き潰せという怒号にあふれたこの世界を生きるために、「情報」との付き合い方をもう一度考えてみよう”。 浅生さんの新刊『ぼくらは嘘でつながっている。』&宇野の新刊『砂漠と異人たち』の発売記念イベントです。 たくさんの方のご参加をお待ちしています!お申し込みはこちら。 池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末

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勇者シリーズ(1)「勇者が剣を取る前夜、神を超える人」|池田明季哉

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。 前回まで論じてきた、「人間と機械の関係」から独自の想像力を表現してきた「トランスフォーマー」は、1990年以降の「勇者シリーズ」にどのように受け継がれたのか。その足がかりとして独自ローカライズがなされた1980年代末の「トランスフォーマー」シリーズを分析します。 池田明季哉 “kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 勇者シリーズ(1)「勇者が剣を取

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トランスフォーマー(8)「ゴリラが守った時代、ティラノサウルスの描いた夢」(後編)|池田明季哉

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。玩具としての「トランスフォーマー」シリーズのプロダクト展開から、引きつづき時代の意志の変遷を読み解きます。 「トランスフォーマー」の歴史を塗り替える存在として、1990年代後半に登場した「ビーストウォーズ」。ゴリラやティラノサウルスといった動物モチーフがどのような象徴だったかを、アニメーション制作の背景から解き明かします。 (前編はこちら) 池田明季哉 

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トランスフォーマー(8)「ゴリラが守った時代、ティラノサウルスの描いた夢」(前編)|池田明季哉

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。玩具としての「トランスフォーマー」シリーズのプロダクト展開から、引きつづき時代の意志の変遷を読み解きます。 「トランスフォーマー」の歴史を塗り替える存在として、1990年代後半に登場した「ビーストウォーズ」。ゴリラやティラノサウルスといった動物モチーフがどのような象徴だったかを、アニメーション制作の背景から解き明かします。 池田明季哉 “kakkoii”の誕生

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トランスフォーマー(7)自動車の挫折と動物の台頭|池田明季哉

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。玩具としての「トランスフォーマー」シリーズのプロダクト展開から、引きつづき時代の意志の変遷を読み解きます。 自動車などの工業製品がヒーローロボットに変形する点が特徴だった「トランスフォーマー」の歴史を塗り替える存在として、1990年代後半に登場した「ビーストウォーズ」。ゴリラなどの動物から変形するというコンセプトの裏には、どんな精神性が読み取れるのか? 池田明

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トランスフォーマー(6)ロボット、自動車、都市、そして身体|池田明季哉

デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。前回に引きつづき、玩具としての「トランスフォーマー」シリーズのプロダクト展開から読み取れる意志を読み解きます。 アメリカと日本で横断展開された「トランスフォーマー」シリーズでは、同じ仕様の商品であっても、とりわけ「合体」の意味論をめぐって、双方の物語メディアでの解釈が大きく異なります。そこで表面化した、ロボットの「心」と「身体」をめぐる思想の違いとは? 池田明

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序章(前編)「G.I.JOEとスーパーヒーロー──20世紀を戦った偉大な父とその子供たち」 | 池田明季哉

誰もが一緒に遊んで育った「おもちゃ」たち。そのデザインの裏側には、時代が求める「成熟」への願い(あるいは「呪い」が)が潜んでいる……? ボーイズトイの歴史を辿りながら、デザイナー/小説家の池田明季哉さんが“kawaii”ならぬ“kakkoii”の解放を考えていく新連載。初回は「G.I.ジョー」とアメコミヒーローを通して、アメリカが理想とした男性像の変遷を追いかけます。 池田明季哉 | "kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 序章(前編)「G.I.JOEとスーパー

序章(後編)「変身サイボーグ──戦後日本という母から生まれた新たな可能性」 | 池田明季哉

デザイナーの池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。G.I.ジョーが描いた理想の男性性について論じた前回に引き続き、20世紀末に花開いたボーイズトイ文化の原点とも言える変身サイボーグと、そのデザインがもたらしたユニークな身体性について語ります。 池田明季哉 |  "kakkoii"の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝 序章(後編)「変身サイボーグ──戦後日本という母から生まれた新たな可能性」  序章の前編では、20世紀におけるアメリカ的