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「テクノコント」という演芸を発表する

2018年5月25日(金)~26日(土)、渋谷のユーロライブという会場で「テクノコント」という演芸を発表する。私は作家として(あと珍しくちょっとだけ演者として)呼んでいただき、チームに参加している。

このライブの発案者は、開発ユニット・AR三兄弟の川田十夢氏。彼が「テクノコントをやりたい」と口にしているのを初めて聞いたのは、たしか一年も前のことだった。その時は「テクノコント…?ユーロビートの曲に乗せて、コントを上演するのか…?なぜ…?」と頭に疑問符が咲き乱れるだけだったが、時間をかけて話を詳しく聞いているうちに、ようやく十夢氏の言わんとする趣旨が理解できた。「テクノコント」=「テクノロジーを駆使したコント」。すなわちこれは、AR(拡張現実)技術を主とした、日々進化するテクノロジーの一端を使ってコントを上演しよう、という試みである。

「音響」と「照明」と「小道具」。これが舞台でコントを表出しようとする際の、基本的にして前提的な三大ツールだ。コントの作り手たちは「あなたは音響と照明と小道具を自由に使うことができます。さて、どうしますか?」という題目を自らに課しながら、世界を創造している。ところが今回は、この既存の題目に「テクノロジー」という新たなツールを加えてみたらどうなるのか、という実験なのである。大前提そのものが変わった時、自ずと導かれる答えも変わる。「うそ…?こんなことまでコントでできちゃうの?」「やだ…!そんなことまで可能だなんて、アタシ考えたこともなかった…!」打ち合わせを重ねるたびに、そんな色めきの声が飛び交った。
テクノロジーが、コントの不可能を可能にする。テクノロジーが、演芸の新たな地平を切り開いてしまう。ワクワクする。

「テクノ落語」というものも、今回のライブ内で発表される。

落語というのは、難易度の高い演芸だ。演者は一枚の座布団の上に座り、高い技術でもって「喋り」と「扇子」と「手ぬぐい」だけを操り、宇宙を可視化させなければならない。古くより伝わる、人力の拡張現実。
しかし、その座布団の上に突如として「テクノロジー」が加わったら。もしかしたら落語の難度の高い壁を、今までとは違うアプローチで乗り越えることができるのではないか。そしてそれは、そのまま未来の演芸の姿をチュートリアルすることになるのではないか。演者とテクノロジー、それぞれの経験値の一騎打ち。そんな挑戦である。

未来の演芸の姿をチュートリアル、と書いたが、「テクノコント」とはまさに“未来の演芸の手引書”のようなものだと私は勝手に思っている。ただのコントライブでもなく、現代テクノロジーの見本市というわけでもない。「テクノコント」というチュートリアルによって、百年先の演芸の姿を可視化させる。そういう心意気に溢れたライブだ。

真剣にテクノロジーと向き合い、真剣にテクノロジーを無駄使いしている我々を、ぜひ高覧いただきたい。お客さんと一緒に、未来に少しだけ加担できることを、当日楽しみにしている。会場に「希望」のようなものが見え隠れしたらいいな、と思っている。

「テクノコント」稽古の休憩中。チームメンバーであるラブレターズの塚本さんが、高校生時代にこんなグループ名でアカペラの活動をしていたことが発覚した。

「SHALA☆ッコロ」。
稽古場が一斉にざわざわした。青春特有のセンスが、露骨すぎるほどに丸出しとなっているネーミングである。「☆」の誰も得しない輝きも最高だし、そこから「ッコロ」に展開する若さゆえの貪欲な姿勢も見逃せない。英字、記号、カタカナが一畳半の空間に自信満々でひしめきあっている。そこに溢れている「未来には希望しか抱いていません」という強烈なメッセージに、おもわず眩暈を起こしそうになる。

「SHALA☆ッコロ」だったころの塚本青年に恥ずかしくない未来の姿を「テクノコント」で描こうと、一同心に決めた、ある日の稽古場であった。

みなさま、是非。

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※追記

無事に『テクノコント』、本番上演を終えることができました。ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。ナタリーのレポートや、川田さんの上演後記も是非。


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