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「質問する力」を鍛えて学力を伸ばそうっていう話

春先,新しい年度が始まると多数の新しい生徒さんに出会うことになる。そこから受験生として育てていくことになるわけだけど,最初のうちは生徒たちが勝手を分かっていないことも多く,我々もそれに振り回されてしまうことも多い。

非常勤講師は基本的に講義中が拘束時間で,講義が終わると拘束がなくなるので帰宅できる。なので特に生徒の質問やこなしておくべき仕事がなければ我々は帰ってしまうのだが,時々まったく違う時間帯に生徒がやってきて,事務方に「わくさん先生いますかー?」なんて聞いてくることがあるらしい。今日は授業がないからいないよと伝えると,キョトンとした顔をして「先生っていつでもいらっしゃるわけじゃないんですか?」と言う。なるほど,高校の感覚なんだな。まあ,そういう誤解が徐々に解かれる光景は春の定例イベントと言ってよい。

そんな中,絶対に誤解を解いておかなければならない場面が2つある。それは「この問題が分かりません」と「数学の勉強の仕方を教えてください」という質問を生徒が持ってきたときだ。この生徒をそのまま放置すると,まず成功することはない。まあどこかには合格するかもしれないが,その生徒に対してベストの結果を引き出すことはまず不可能だと思う。

なぜなら,その生徒には「質問力」がないということがこの質問ではっきりとわかるからだ。これを読んでいる人が受験生なら,先生に絶対にこの質問をしてはいけないし,教える側の人(バイトで家庭教師始めたばっかりとか)なら間違っても模範解答を書いて見せるようなことをしてはならない。それは顧客に対する背信行為だ。

講師は医者

うちらは医者の一種のようなもので,質問受けは診察だと思っている。もし患者がやってきて「先生,なんか具合が悪いんです」と言われ,それだけで確定診断を出すようならその医者は今すぐ廃業しなければならない。患者に状況を詳しく聞いて,必要な検査を行って,不明なところがあれば紹介状を書いて,正確な診断を出す努力をするはずである。我々もそうで,「この問題が分かりません」という主訴に対して必要なことは「目の前の生徒はこの問題のどこで詰まっているのか」を明確にし,もっとも効果的なアドバイス(=処方箋)を提供することである。となれば,正しい質問はおのずと決まってくるだろう。

この問題が分かりません→???

修正しよう。質問としての得点を添えておく。もとの質問は当然0点である。
「この問題を解いてみてここまでやったけれどこの先ができません」
かなりよくなったがまだ50点。そこまでやろうとした理由があると嬉しい。参考書で類題を探して見よう見まねでやったのか,あるいは何か根拠があったのか。それによりこちらのアドバイス(=処方箋)も異なる。それがあれば満点だ。
「この問題が解けなくて解説を見たらこう書いてあったんですが,どうしてこうやろうと思うのですか」
素晴らしい。満点。こういう思考ができるようになれば学習する下地は完全に整ったと見なせる。
「この問題を解いたんですが模範解答とは違うアプローチをしたので見てください」
これももちろん満点。模範解答より優れた解答に出会うこともしばしばあり,そういうとき私は心の中で小躍りする。

数学の勉強の仕方を教えてください→???

「痩せ方を教えてください」と電話がかかってきたとしたら,まず聞くべきことは「あなたの今の体重は?」だ。
「◯◯大学に行きたいです。どう勉強すればいいですか?」
合格と思われるかもしれないが落第である。10点くらいかな?自分の現状を伝える気がないからだ。中学レベルで止まっている場合もあるし,小学校の算数で止まっているケースも珍しくない。そのこと自体何ら恥じることではないけど,東大行きたいですと言われたらやはり「それは無理です」という答えになってしまう。
「◯◯大学に行きたいです。どの問題集がいいですか?」
上と同じで10点。使うべき問題集は志望校で決めるものではなく,現状の学力に応じて決めなければいけない。考えたら当たり前でしょ,10kgの鉄アレイも持ち上げられない人に100kgのバーベルを渡しても時間の無駄。
「◯◯大学に行きたいです。先日の□□模試ではこんな成績でした,今後何をすればいいですか?」
これなら合格。80点。やはり客観的な資料はほしい。欲を言えば複数。特に数学は一度の試験では力がわかりにくい。
「◯◯大学に行きたいです。先日の□□模試ではこんな成績で,書いた答案はこれです,今後何をすればいいですか?」
素晴らしい。100点。実際に書いた答案にはその人の力が一番反映される。情報としては十分である。

まとめ

質問するときには,「今の自分の状況」を理解して,それを参考情報として伝えるようにしよう。その情報をどう伝えるかを考えるのも大切。それには「国語力」「言葉を操る力」が要求され,やはり言葉を使って考える数学の力を伸ばすことにもつながる。わかりやすいところでは論述答案のクオリティが上がる。

良い質問をする「質問力」を磨きましょう。

良い処方箋を出してもらうためにも。

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