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ヒップホップの誕生が、衝撃的だった…。

個人的に、ヒップホップがアツい。
ほんの数週間前までほとんどノーマークだったし、今も音楽としてめちゃくちゃ好きかというとそれも違う。でも自分にとって、衝撃的な存在すぎた。おかげで隙あらば、音楽と映画と書籍を手に取っている。(苦笑)

これはヒップホップが生まれたNY、ブロンクスの当時の一枚。
戦場かと疑う瓦礫の山が続くこの景色は、1970ー1980年代、つまり今からたった4、50年くらい前らしい。NYが一番荒れていた時代で、高速道路の建設のために黒人や有色人種だけが取り残されたのがブロンクスという街だ。

画像引用元:http://www.johnfekner.com/old/southBronx/index.html

当時のブロンクスの火災件数は、年間1万件を超える年もあったそうだ。1975年のある日には、3時間で40件の放火があったという数字は、異常すぎてちょっと自分の想像力が追いつかない。
そこまで火事が起きていたのは何故か。
それは家賃を支払ってもらうよりも、ギャングに放火を依頼した方が保険金で稼げるからだった。しかもNY市はブロンクスを見放し、消防団を撤退したり、福祉や支援を次々と打ち切っていった。そんな希望のカケラも見えない事実から、この街の荒廃具合は伝わるだろう。高すぎる失業率に、ドラックに、重なる暴力に、景色だけでなく人の心は絶望にのまれていたんじゃないか・・・そんな街で、黒人の若者たちが生み出したカルチャー、それがヒップホップだ。

だから冒頭に、音楽としてヒップホップが好きかというと違うと書いたのは、この背景とも繋がる。特に初期の曲は、自分にとっては、力が強すぎてキツい。歌詞に強いメッセージがある曲でなくても、握りしめた力みたいなものがある気がして、ずっとボクシングを観てるみたいな気分になる。

・・・信じがたい状況を初めて知ったことももちろんあるが、自分にとって何故ヒップホップの誕生や存在が、衝撃的すぎたのか。以下、その理由をまとめてみたい!私より詳しい皆さんは、ぜひ議論を上に重ねてくださいませ。


ーカルチャーが、人々を救ったという紛れもない事実。

一番の衝撃は、タイトルの通りだ。私にとっても、小説や映画などのカルチャーは、日々の支えになっているし、特に思春期のこじらせた心はたくさん救ってもらった気がする。(苦笑)
でもヒップホップは、人を救うという次元が違いすぎる。
想像を超える「不」が蔓延していたブロンクスの中で、ギャングたちが暴力や薬をさばくこと以外に夢中になれたのがヒップホップだったとは思うが、Zulu Nationの存在は特に驚愕だった。Zulu Nationの合言葉は、Peace、Unity、Love、Have a Fun。ギャング同士の縄張り争いや憎しみが加速するなかで、ヒップホップを生んだと言われている三大DJの一人であるアフリカ・バンバータが、当時最大勢力だったギャングから転換させた組織だ。Zuluは、音楽の力で、本当にギャングの闘争を終わらせたらしい。聞いたことのない平和の作り方だ・・・と思った。カルチャーはここまで力を持っていたのか教えてくれるし、本当に衝撃的で、感動した。

ー人間のケーパビリティみたいなもの。

個人的にヒップホップの誕生は、ビジョンやフィロソフィーによって組み立てられたものではなく、無計画に暴走していって振り返ったら歴史になっていた、みたいな印象がある。だからそこにはZuluのような奇跡もあれば、無視できない暴力も無数に内在しているだろう。
でも私だって、誰だってグレるだろう環境で、文化が生まれたことそのものが、感銘をうけるものがある。楽器さえないからターンテーブルで音楽をかけたわけだし、もはや「見捨てられた絶望」という材料しかないところから、生まれたこの音楽とカルチャーに人間の底力を感じた。

ーKeeping It Realという精神、媒体じゃなくてそのまま。

そしてヒップホップが面白いと思うのは、ヒップホップが<誰かのため>のものではなく、<自分のため>のものというところだ。
どこかのドキュメンタリで、歌詞について「これは俺たちのリアリティじゃなくて、俺のリアリティだ」と話していたことが象徴的で、代弁者みたいな一歩引いたり、上に立ったりする姿勢がヒップホップは殆どない気がする。絶望的で退屈な人生から、逃げたい、超えたいという<自分のため>が生んだ起点から、最前線に自らが立つという態度が変わっていないところに魅力がある気がする。
小説や映画は、作家が見せたい世界観や価値観を伝えるために、作品という媒体を通じてオリジナルの視点を伝えていくという作業が多い気がするが、ヒップホップは無修正・無補正だなあと思う。


ーこれは大人じゃなくて、若者がつくったもの。

これはオマケみたいなコメント。なんとなく、年を重ねないと為せることは少ないんじゃないかという仮説が、自分のなかに、特に社会人のなかにある気がする。事実、日に日に出来ることは増えている。でも、そういう積み上げとは全く別軸として、むしろ積み上げを超える爆発的な力を見せつけられた気持ちになった。「まだ」とかなんとか変な理由をつけずに、頑張りたいと思った。

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・・と、今私が読んでるのはこの辺です。おすすめの文献を教えてくださいませ!Netflixオリジナルコンテンツがすごくて、さまさまだ・・・(笑)

ー2017『GET DOWN』Baz Luhrmann (Netflix)
ー2016『ヒップホップ・レボリューション』ダービー・ウィーラー(Netflix)
ー2015『Rubble Kings』John Leguizamo (Netflix)
ー2017『ラップは何を映しているのか ——「日本語ラップ」から「トランプ後の世界」』まで大和田 俊之,‎ 磯部 涼,‎ 吉田 雅史(毎日新聞出版)
ー2016『ヒップホップ・ジェネレーション』ジェフ・チャン(リットーミュージック)


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