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深圳の物価から考えるHardware StartUPの拠点を深圳に構える意味

 4月12日~16日の5日間、チームラボの高須@tksさんの引率の元、中国の製造業の中心地として知られる深圳へ、HardwareSturtUPを支える深圳のメイカーズエコシステムの見学旅行に行ってきました。

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第4回 ニコ技深圳観察会 2016年04月 感想まとめ

ニコ技深圳観察会2016春togetter

 そもそもメイカーズって何?SONYやBOSEなどのメーカーと何が違うの?とか深圳ってどこ?という方は、高須さんがメイカ―ムーブメントの始まりから最新の状況までを、愛を込めて(ご本人はひたすら”勢いで”と言ってましたが)まとめた力著、メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。をご一読ください。教科書的な本からしっかり読みたい場合はクリスアンダーソンのMAKERS - The New Industrial Revolutionとかからなのかな。

 かなり乱暴にまとめてしまうと、私が思うに、メイカームブメントが起きてきたのは2つの側面があると思う。

 ・デジタルファブリケーションの発展

 1つは3Dプリンタやレーザーカッターに代表されるパーソナルファブリケーションの発展(=安く手に入る)と、ムーアの法則の導き通り、ArduinoやRasbery Piに代表されるSingle Board Computer(SBC=めちゃめちゃちっちゃいパソコン)が軽量化されかつ廉価で手に入りやすくなっていること。その結果普通の個人でもD.I.Y感覚で、欲しい”モノ”が作れる、少なくとも作れるのではと期待できるようになって、すべての人がメイカーつまり創作者になろうと思えばなれる可能性があること。

・モノのIoT化、サービス化

 もう1つの側面はもっとお金儲けよりの話。スマホ、wifi網、クラウドの普及により、通信可能な小さなチップをありとあらゆるモノにつけてネットに連携させてとりあえずデータ蓄積しちゃおうぜ、ネットのサービスと繋げてソフトウェアが提供する体験込みで製品の価値にしちゃおうぜというIoT化が爆速で進むこと。その結果モノづくりが精緻な作りこみと秘密がたくさんつまった組み込みチップ(組込みマイコン)が直接処理する世界から、ハードウェア側はデザインは大事だけど、単純な作りこみで事済んで、難しい処理はクラウドかスマホでやろうぜとなり、製作自体は簡単になっていくこと。(例えば、ガラケーとタブレットを比べた場合、折りたたみガラケーの方が複雑で作るのはめちゃめちゃ難しいらしい。)こうした世界では、精緻なモノを大量に作るという資本力を伴うモノ作り力がなくても、ハードとソフトを組み合わせたユニークなユーザー体験を素早くアップグレードして提供できるところがビジネスの勝者になると考えられること。

 購買者の好みも多種多様になってKickstarterのようなクラウドファンディングで製造費用調達できるし、プロモーションもSNSでうまくやればそれほどお金かけなくても知ってもらうことはできるようになっている。とすると、もしかして、デジタルファブリケーションの発展により、こういうモノが欲しいと形にできる人のアイディアが優れていて、それが、量産できれば、他の多くの人にとっても欲しいモノで大ヒット商品を生み出す可能性があるかも!?メイカーから次の大成功企業が生まれたら儲かるじゃん、そう夢見てメイカーに飛び込む人もいるし、そういう人たちを支援・投資する人も多く出てきた。これがメイカ―ムーブメントを支えてる経済的な動機だと私は思う。


■本題:深圳ってどうよ?お金から見た深圳

 中国におけるモノ作りで、今回のツアーに行く前に思っていたことは、だんだん高くなっているらしいけど、まだまだ人件費安いから安くモノが作れるんだよね、で、最近は秋葉原みたいな電子工作の部品がめっちゃあつまる華強北(ファーチャンペイ)というおもしろい場所があるんだよね、といったありきたりな印象でした。

 で、実際に深圳に工場をもって活動している方にお話をお聞きしたところ、 (以下1元はざっくり20元計算)

「工場ではたらく現場の作業の方は、最低賃金で雇用したとして、残業などいれて、手取りで3,000から3,500元(6万円~7万円)、その他日本ほど社会保障費はかからない」

 ふむふむ働いている人は地方から出稼ぎに来た20代前後の若い人多いから、スキルは日本だと工場勤務のパートさんみたいな感じかな。一番安くても日本だと15万円~18万円くらいかな。やっぱりまだ深圳の人件費は安いんだな。半分以下か。

「ただし、必ず寮と食事補助別途有りです」

ふぁ!?

「マネージャークラスは15,000元(30万円)ただし住宅補助は無しでOK」

「ソフトウェアエンジニアは8,000元~12,000元位(16万円~24万円)」

 あれ、決して日本と比べて安くないよね。たぶんこれ一般的な給与だから、良い人採用しようと思ったらもっとかかるだろうし。

「日本人が住むような単身向けの賃貸マンションは家具付きで3,000元~4,000元(6万円~8万円)、ただし買おうと思ったら1億円でも買えません」

えっと、福岡の天神でワンルーム6万円もあれば相当いい部屋住めるね。うん。

「オフィスや工場の家賃は工業地区で、1平米30元(1坪100元≒2,000円)」

「商業地区の福田だと1平米600元(1坪2,000元≒40,000円)」

ぎゃ!!前に天神の駅前のオフィス調べた時共益費コミの坪単価13,000円位で相当いいオフィス借りれたし、東京のミッドタウンや虎の門ヒルズでも、たぶん30,000円~40,000円位だよね。

「(参加者の方から)そういえば華強北(ファーチャンペイ)の最新のビルの最上階近くは1平米900元(1坪3,000元≒60,000円)て言われたね」

高い!いや高いって!

 日本に帰国してから、香港の大学で調査員をしているJETROの方から、各国への進出投資コストの比較ができるサイトを教えて頂きました。

2014年末のデータが多いようですが、サンフランシスコ、深圳、東京、福岡の投資コストを比較してみましたのでご興味があればリンク先を見てみて下さい。JETROのデータを見ても、数字は違いますが、人件費は深圳は今回教えて頂いた実感より安いものの、オフィス家賃はすでに深圳は日本より高い。

 名目賃金上昇率が毎年9%~6%くらいあるので、もし中国経済が引き続き成長していくならば、5年で今の1.5倍、10年で2倍の賃金。

「すでに深圳は安いからという理由で製造拠点を設ける地域ではない」

今回の説明に最後に、そうおっしゃっていたのがとても印象的でした。


■Hardware StartUPの拠点を深圳に構える意味

 深圳の製造コストは高い。では、なぜ深圳にHardware StartUPが集まるのか?

 高須さんはメイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。の中で、この理由を”エコシステム”によるものだとズバっと回答をだしてくれています。深圳は、もともと香港に近く経済特区としていち早く発展し治安もよい、また製造業群が形成されていて、モノを製造するために必要な設備、部品が必要な数だけこの地域だけですぐに手に入ること。そういった地合いの上に、メイカ―ムーブメントが世界に広まるなかで、深圳の特性に注目してHardware専門のファンド・起業支援(シードアクセラレーター)が設立され、政府の強力な支援が起こり次々とStartUP向けのファブリックスペースが展開されていき、一発当ててやろうという野心的なメイカーが引き寄せられ起業するというように、人もモノも金も情報も深圳に集まってきていることを教えてくれています。

 今回の深圳ツアーは、シードアクセラレーター・StarutUP・工場・政府支援のファブリックスペース・少数部品の仕入、または、商品の販売スペースとしての華強北マーケットと、まさにメーカーズのエコシステムをめぐる旅でした。そして、私がこの旅で感じた深圳の魅力はとにかくスピードが速いことです。

 本当は細かく規制があるのかもしれませんが、傍から見る限りでは、安全性や著作権など、モノを作る、販売することに関連する規制が緩やかであること。その結果として企画する、作る、売る、改善する、のサイクルがとても早い。さらに山塞(シャンザイ≒海賊版、イミテーション、コピー)への社会的な許容が高い(?)ため、このサイクルが1社だけではなく街全体で競争しながら行われている。たとえ最初が模倣であったとしても、1つずつ改良と独自機能を加えていったとしたら、10回目に出る製品は、オリジナルよりも数段優れていてオリジナルとは全く別のモノになっている可能性が高い。華強北には、もはや山塞とは呼べないような独創的な商品が並んでおり、日刊でこれらの製品を紹介する専門誌・WEBサイトまであります。

参考→深圳今日快递


 エンジンや一眼レフのレンズなど非常に高度な技術の集約が求められる製品と違い、IoT時代の軽量な製品はハードに求められる要求が少なく、ソフトウェアサービスも含めた総合的な体験の提供が重視されること。また、そもそもIoT製品は出てきたばかりで、どれだけ早回しで失敗も成功も含めて実際の市場で経験値を積むことができるかが大切であること。そうした意味で、深圳にHardware SturtUPが拠点を置く意義はとても高いと感じました。

 そして、最後に、「深圳で働く人で鬱になる人はいない(周りではみたことないという意味)」、平日猛烈に働いて金曜日の夜はクラブやバーでサイコロゲームをしながら一気飲みをして陽気に朝まで騒ぐ多くの人で繁盛する繁華街、こういう街の空気を吸うと、なんだか負けてられないなと元気が出てきますね。

"楽天家たちは、そのような時代人としての体質で、前をのみ見つめながらあるく。のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつけて坂をのぼってゆくであろう"(坂の上の雲より)

 なんつって。

2016/04/25 記


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