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2024.01.13-14 はまかるエンゲキヴ 第5期成果発表公演「混沌ハムレット」 覚書


前置き

関係者各位に向けての文章が多めになります。ご観劇いただいた方には、ああなるほど、と思っていただける部分もあるやも。

基本情報

はまかるエンゲキヴ第5期成果発表公演
「混沌ハムレット」

2024年1月13-14日(Wキャスト/全4ステージ)
at.長浜文化芸術会館

原作:ウィリアム・シェイクスピア
演出・構成:脇田友(スピカ)
演出助手:酒井優美
舞台監督:筑田明心
照明:山本五六
音響:中村有里
衣装:井口真帆
宣伝美術:ひゆ–
制作:井口真帆/筑田明心/安藤こず恵/日向花愛/北澤あさこ
出演者写真撮影:脇田友
稽古場記録撮影:西川史朗
技術協力:磯﨑真一

出演:住友快吏 河地恵佳 橋本空 宮本有利 本庄紫朱希 いろは 伊藤匠海 大谷佑真 青木雅浩 岸田志緒理 甲佐菜穗子 新谷晃生 辰巳佳穂中沢玲美子 東航平 古川智葉 宮部素直(順不同)

※敬称略

https://hamacul.or.jp/event/2023/1498/


終えた今、思うことを掻き出しておく

いきさつ

2021年の暮れか、2022年の頭ぐらいに、長浜文化芸術ユース会議「はまかるNEXT」、および、NPOはまかるの井口真帆さんから、「『はまかるエンゲキヴ』の講師を依頼したい」という連絡をいただく。

京都の演劇人になら、「ビギナーズユニット」「アクターズラボ」と言うとピンと来るかもしれない。「約一年かけて、講師とともに作品を作って、その過程でスキルアップしましょう」という企画。ざっくり。

長浜の演劇人口はかなり少ない(と思う)。高校の演劇部はあるし、市民合唱団なんかもあるけど、「劇団」というのはほぼ無い。僕が知る限りだと劇団プラネットカンパニーさんとfuricoさんくらいだ。
なので、演劇を見ること自体稀な人が殆どだろう。

そういった環境の中で、ユース会議さん、NPOはまかるさんの活動の肝は、長浜での文化芸術の振興、および人材の育成、輩出にある。

それらを踏まえ、僕に来た依頼には、
①人材の育成
②既存人材との協働
③長浜で観ることの出来ない、面白い作品を制作

この3点を押さえてほしいと明記されていた。

この3点全てに同じだけ力をかけることは出来ないと思ったから、①:②:③=2:3:5くらいの割合で頑張ることにした。

結局のところ、面白いと思ってもらえないと、どれだけ頑張っても続かないだろうと思ったから。


「全員マクベス」(2022)

となるとやはり、面白い脚本を用意するというのは必須条件だ。
しかし、こういった企画は公募型なので、最終的な出演者の人数というのは、初回稽古まで分からない。
かといって、オリジナル脚本を書けない=既存の脚本を探さなきゃいけない僕にとっては、初回稽古まで人数が分からないというのは、かなり厳しい。

だがここで、何人だろうが関係ない演出プランと、それを許容してくれる脚本、構成を思いつく。

「マクベス」だ。

あらすじは端折るが、彼の心が段々と蝕まれていく部分にだけフォーカスを当てて、それを全員で表現することが出来れば、何人いようが関係ない。多ければ多いなりの、少ないなら少ないなりの表現方法があるだろう。

その思惑は、関係者各位の多大なる協力もあって、かなり上手くいったと思う。
6人での上演だったが、6人が1人になったり、2人なったり、6人になったり、7人になったり、人でないものになったり。

公演としても、集客以外は大成功だった。

集客に関しては、
①出演者が少ない
②会場が辺鄙

という点がボトルネックになっていた。


僕としてはこの、①をどうにかしたかった。


営業 

全員マクベスが年末に終わり、忘年会にて、営業先を探していることをとある人に相談すると、近くの学生劇団の方を紹介してもらえた。
結局のところ、出演者を増やすためには、我々はこういうことをやっているんだと言って回るしかない。

営業したいことを明け透けに話し、WSを実施させてもらう。

WSの反応も上々。とはいえ、良くて1〜2人くらいが興味持って来てくれたらと思っていたが、同劇団からは4人。
更に、各地からも噂を聞きつけやって来てくれた方々も多く、結果、去年6名だったのが17名の大繁盛である。

仮に17名が1人10人のお客さんを呼んでくれるだけで、170名。全員マクベスの集客が、たしか80名ほどだったので、約2倍である。
これで集客については、可能性の芽が出て来た。

しかし、別の課題が浮かび上がる。
募集は約12名と謳っていたことだ。


仲間を増やすということ/流れと妙案

17名も集まるのは、正直、予想以上で、予定していた脚本の人数と合わなくなってしまった。

2年目はハムレットに取り組む予定をしていた。
ハムレットは、脚色にもよるが、大体10〜14名程度で取り組むことができると踏んでいた。
更に、調整や演出次第では少なくなる分にはまだ可能性がある。
しかし、想定以上に増えるのは、これはどうしようもない。役を勝手に増やすわけにはいかない。

しかし、6→17というのは尋常ではない飛躍の仕方だ。応募書類を見る限り、全員マクベスを観て興味を持ってくれた人もいたので、流れがきていると感じた。
この流れを無駄には出来ない。
ピンチをチャンスに変えるんだと強く思った。

そして、なんとか捻り出したのが、8:8+固定1のダブルキャストだ。

ダブルキャストははまかるにとっても初の挑戦ではあったし、以下の効果が期待できた。
①チーム間での演技のフィードバック。相互作用。
②各人が持つ責任の量が増える=経験値の増大。
③大人数による演出表現。
④単純な集客数の向上。
⑤1日で両チームを観れることでのセット券の導入。

①は、今回、本番まで残り2〜3週間の頃に強く表れ始めたし、②も、役者だけで無くスタッフ陣も、もちろん僕自身も考えることが二次関数的に増えていった。
これらは、私達全員の、創作の筋肉を鍛え上げる結果となった。

また、③は、「長浜では観れない〜」に狙いをつけられるし、④⑤はお客さんにとっても、公演にとって興味を持ってもらえるポイントが増えている。
コンテンツとして、観劇前から魅力的に見えるということだ。

もちろんデメリットもあった。
まず、稽古場が狭い。10人部屋に約20人がギュウギュウになりながら稽古をするのは、酸素濃度的にもミザンスを決めるのにも辛いものがあった。
また、17人というのは僕にとって過去最大で、各人につけた演出、段取りを全て把握し切るのは至難の業であったし、最終的に、全ては覚えられなかった。というか、割と序盤で覚えるのは諦めると宣言していた。
全て自分で覚えておいてくれと。

しかし、ピンチをチャンスに変えるとはよく言ったもので、17人が集まったことで出来たことがたくさんあった。


「混沌ハムレット」(2024)

今作を制作するにあたって、大事にしていたことがある。
ようやくこの項まで来たわけだが、ざっと掻き出していく。まさしく頭の中から掻き出していく。掻き出さないと、新しいことが入らないし、過去と現在と未来がごちゃ混ぜになる。
なので、書き出して掻き出す。
思いついたままに書くので、順番も何もない。

①話の構成自体は分かりやすくすること
②17人をフルに活かすこと
③稽古場では自らよく笑うこと
④17人の組み合わせは、シナジーを重視する
⑤見立て演出をふんだんに使う
⑥舞台に立っている時間をなるべく長くする(=ほぼハケない)こと
⑦空間の流れは、横だけじゃ無く縦と奥行きもあること
⑧役者陣のリズムを揃えること(=ドキドキホットケーキ)
⑨調子の上下の波があることを、良い意味で信じてる、グイッと引き上げられるような流れを作ること
⑩なるべくしてそうなるということ
11.狂乱疾走ハムレットの創作と、混沌ハムレットの創作。2つのシナジーも意識すること
12.育成をあまり意識しすぎないこと
13.自分の声の出力によって場に与える影響を、今まで以上に意識し、調整すること
14.大局を見て、一つ一つを地道にクリアすること(木を見て森を見ずにならないよう)
15.音=物語をどう紡ぐかは、かなりの部分で役者陣に託し、画=お客さんからどう見えるかに意識を多めに分散させること
16.後半は、とにかく練度を高めるのに注力すること
17.焦らず、機を作り、信じて待つこと


この1週間で忘れたこともある。ここにあるのが全てではないし、実際に稽古場で喋った内容の1割にも満たないだろう。

①シェイクスピア、古典ってだけでも敬遠されるのに、フル尺4時間とか無理だし、ハムレットにフォーカスを当てるならここは無くても物語としては通るだろう、というところはバサバサカット。フォーティンブラスは、彼がいるからこそ世界が広がるし、ハムレットの心境にも深みが出るんは分かってたけど、泣く泣くカット。

②それが出来ない限り、ダブルキャストにした意味がなくなってしまう。
それぞれの特徴や特性という意味でもそうだし、亡霊などのアンサンブルシーンでも。

③別に作り笑いという話ではなく、本当に面白い、ファニー、インタラスティだと感じて笑っている。
笑った方が現場の空気も変わるし、自分自身の心の柔軟性も上がる。よく笑いよく発言し、よく見てよく聞く。

④特にキャスティングにおいては、イメージの強度もあるが、高め合う関係になりそうかどうか。仲良くなれるか。可能性を感じられるか。
AとBのペアでもそうだし、例えばハムレット×ホレイショーの様な同チーム内でのバディとかもそう。どちらもなるべくカチッとハマる方向性を考えた。

⑤長浜で見れない芝居、という点と、僕自身が得意とする演出方法。見立ては、演劇の真骨頂の一つだ。

⑥舞台上に60分立っている役と、5分立っている役では、前者の方が得られる経験値は多いだろう。それが4ステージもあれば220分もの経験値の差が生まれる。前作「全員マクベス」において、全員が最初から最後まで一切ハケないという演出をした以上、今回もその経験値を得られることに期待されていただろう。

⑦美術や芝居、音もそうだが、特に光でそれを意識することが多い。

⑧学生時代に教わったゲームを、十数年経っても取り入れている。一年弱もあれば、みんな上手くなるもんだ。リズムを合わせるのが苦じゃ無くなっている。リズムを合わせる=息を合わせるということだから、陰ながら効果はあったことだろう。

⑨作り手としての経験が浅いと、調子の波は簡単に揺らぐし、その振れ幅も大きい。しかし、統率する側が如何に導くかによって、ある程度調整は可能だ。演劇にも士気というものはある。

⑩禅問答のような話かも。
コンタクトインプロを習っていた時、感覚として掴んだことがある。

11.夏に上演した狂乱疾走ハムレットを観てもらうことで、お客さんにも混沌ハムレットを期待してもらえるし、役者陣にも、言葉では無く作品によって様々なことを伝えられる。また、僕と磯崎さんも、多くの責任を抱えて立つことを自覚して捜索に臨んだ。

12.なにせ稽古時間が少ない。懇切丁寧に解説したいし、技術は共有したい。演出も、細かくフィードバックを受けて話し合いたい。けど、そんな時間はなかった。なので、出来うる限り最善を尽くす為に、作品が面白くなっていくことにだけ振り切っていた。
お客さんに面白かったと思ってもらえる舞台を作る、質の高い拍手を受ける、という経験が彼らに返ってくると信じて。

13.稽古場では、僕はその立場・権力によって人を動かし、話を聞かせることができる。しかし、それではいけない。
聞きたくなる様な状況を作るように心がけた。その為にまずは、自分が今、どのような音量、高低、メリハリ、緩急、タメ、息づかい、テンションに調整して発言すべきかに、常に頭をフル稼働させていた。
声は、一番速く遠くまで届いてくれるし、すぐに自分の耳にも返ってくる。素早いフィードバックのサイクルによって、コミュニケーションの質を高めること。

14.課題は膨大。しかし焦らない。焦ればより一層、不安を波及させるだけだから。

15.ホールでの稽古はたった一度だけ。場当たりもまともに出来ないタイムテーブルだったため、画への意識は高めておかねば、ゲネで痛い目を見ることは必定。というか、ちょっと見た。ギリギリまで調整続けて良かった。

16.僕が1人ずつに何かを伝えるのも大事だが、17人がそれぞれに何か気づく方が大事だし、効率が良い。気づくまでの時間が少しかかるかもだし、客観的意見が欲しいものもあるだろうから、それはする。しかし、自分で気づけたものの方が、身体への浸透スピードは圧倒的に早いだろう。なので、とにかく通す。結局、段取りがついてから本番までの間で、抜き稽古はほとんどしなかった。

17.週1、各2時間の稽古だけで、ポンと上手くなれたら苦労しない。しかし、そこは信じる。最後にはグンと昇ってくれるだろうと信じる。
もちろん、機会は用意する。0から1は演出の仕事だし、ディレクションする側として、筋道も用意する。聞かれれば答える。
ある程度決まった後、そこから先は役者個人の仕事の領域として、託した。結果、皆、期待を遥か超えていった。


今、次を思う

新しいことに挑戦するたびに、今まで培って来たものとどういうシナジーを生み出して、高くジャンプできるかを考える。
そういうポジティブさが、僕のみならず、座組全体に波及していたかなと、手前味噌ながら思う。

1ステ目は、喉のつぶれや、緊張なんかもあったが、それ以降は覚醒につぐ覚醒で、本番をやればやるほど良くなっていった。
ずっと見ていたかった。どこまで行けるか知りたかった。

とはいえ、始まれば終わる。

終わってしまえば、その感傷にただ浸るだけになってしまう。
そんなのはつまらない。

混沌ハムレットは、大成功といって良いだろう。
座組一同からのフィードバックからも分かる通り、人材育成=レベルアップは起きたし、長浜の文化芸術にも刺激は与えられたと思う。
磯崎さん曰く、8年前に蒔いた種が芽吹いて来ている。

この芽を更に大きくするには、波に乗らなければいけない。
波を活かさなければいけない。
更に、面白いものを作るんだ。

次はもっともっと。

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