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京都学生演劇祭2019 観劇レビュー Aブロック(09/17 17時回 観劇)

*観劇された人向けの文章です。

*参加団体の皆様の今後の作品制作の一助になればと思うので、レビュー自体は超どストレートになります。

*演劇祭アンケートに「MVPは?」という項目があったので、それもこちらに記載します。





①また明日。「夕暮れとさよなら」 MVP:なし

メガネ君とさわやかイメケンと小動物系女子の、センチメンタルグラフィティーなお話。

この話の肝は途中3回挟まる、行き違ったり喧嘩したりするシーン。最初はさわやかイケメンと小動物系女子。次にメガネと女子。そして最後にメガネとイケメン。

この3つのシーンは、かなりグッと、お客さんが息を呑んでしまうように作られている。俳優陣それぞれが、脚本演出の意図を組んで、なんとも言えないモラトリアムの狭間を生きる学生たちの心情を表現していた。

僕も10年前はこんなのあったなぁ〜…、なんて遠い目をしながら観ていました。


ただ、一発目のイケメンと女子のシーン。僕、アレがどうしても符に落ちなくて…。

いや勿論アレがなければドラマが起きないから、必要だとは思う。

でも、女子は今でもイケメンのこと好きなわけでしょ?で、イケメンは別に彼女がいるわけでしょ?で、それはそれとして三人でこれからも仲良くやっていこうぜ☆って思ってるわけでしょ?その上ででも、完全に落としにきてる人が用意するレベルのプレゼントを「就職祝いだよ」とか、気がありそうな感じで言って渡したわけでしょ?

おいメガネ君!!君がそれにツッコミを入れる役割だろ!その本棚に並んでる銀魂から、君は何を学んだんだ!そんな都合の良い男なんてクソだろ!!

なんでメガネが女子に怒ってしまったことだけ、咎められて、イケメンがプレゼントあげたことには劇中でお咎め無しなんだ!そっちの方がよっぽど仲をグチャグチャにする可能性あるだろ!!お前ら三人、いつかやってくる離れ離れになる日まで、仲良くやっていこうぜ☆って思ってんだろ?!

やりたいこととやってることと矛盾してるだろアイツ!!つーか、普通にサイテーじゃん。


そんなのやらかしといて一切触れられることなく、これからも仲良くやっていこうぜ、とはいかないだろ…。



作品を面白くするあたっての、正しさの違いというのは確かにある。

つまり、「なぜそうしないのかと言われても、そうしなかったからとしか言いようがなかったり、尺の都合です」というのだったとしても、まあなるほど、とはなる。一応。

ただ、一方で、そういった気になる点を気にしないでいられる「推進力」が、作品になければ、そうも言っていられない。

今作は、序盤から、俳優陣の台詞回しが全体的に上ずっていたり、呼吸が噛み合っていなかったり、導入シーンがあまり導入として面白いポイントがない。なので、世界観にのめり込めなかった。

ちなみにここで言う面白いポイントというのは、インスタントやギャグ的な面白さという意味ではなく、「これから先の展開に期待させる何か」ということ。

なので、センチメンタルになっていく三人の心情には一定の理解は示せるものの、共感したり感動はできない。


そして最後に、演技も美術も音響もあそこまで「具象」に特化していたのにも関わらず、照明だけが、キャラクターの感情に呼応するかのように、重いシーンの手前で何のキッカケも無しに少し暗くなるのは「抽象」なので、違和感でしかなかった。

和食食べに行って、店舗の内装も、店員さんの制服も和風なのに、メニューだけ全部英語で書かれているような感じ。いや、写真載ってるからまあ何が食べられるのかは分かるけどっっっ!!!

総じて、重いシーン以外の詰めが甘い、そこのシーンをやりたいだけ、という印象だった。



②劇団トム「岡田世界一周の旅」MVP:岡田くん

世界一周旅行のブログを、ただひたすら、めちゃめちゃハードな筋トレをしながら読み上げるだけの作品。
筋トレは基本ほぼ休みなし。信じられないくらいハード。

しかし、『だけ』だったからこそ、彼の心や肉体が、かくも美しく昇華されていったのだ。これは完全に、岡田くんの美しさを、隅から隅まで楽しむための作品だったと言っても良いだろう。

共演者の渡邉くんの何とも言えない抜け感も、単調なブログを盛り上げていたし、石田くん葛川さんはも機能的だったと言える。


惜しむらくは二点。
岡田くんの能力が頭3つくらい抜けていたこと。渡邉くんや石田くんが更に洗練されていれば(もちろん二人の抜け感は残したまま)、もっと高まっていたのでは?

もう一つは、演劇祭で上演したこと。
演劇祭内では特に音響照明の制約があるので、まだこの作品のポテンシャルを発揮しきっていないのではないか、という疑問を感じた。
特に音響は、パーカッションという選択肢は悪くないものの、弱いし、照明はベタ明かりの一点張り。

ちゃんと自主公演ですれば、選択肢も増えたのだろうなという印象。正直序盤から中盤までは若干単調だったから、その点も解消できる可能性はバンバン感じる。

集客的な意味では演劇祭でやるのは魅力的やし、45分を勝ちに来た人達の作り方だとは思うけど、んー。


とはいえ、素晴らしい躍動、美しさだった。洗練させたものはそれだけ美しい。




③ユニットめうつり「わすれもの」MVP:なし

賞を取れるくらい実力のある、美術サークルの人達は、マルマンのスケッチブックのたかが1ページに習作を、展覧会には出さない。

そしてそれをもらって喜んでいた割に、ファイルに挟むこともなくカバンに放り込むことはしない。


僕が美大出身だからそういうことに目が行きやすいというのは認めますが、それでもそういったディテールの積み重ねが作品に説得力を与えていく。

要は、また明日。さんと同じ様に、描きたいシーン以外は全て説得力が無いという作品だった。

そもそもシゲくんが主人公なのか悪玉さんが主人公なのかも途中まで分かりにくく、中盤くらいからようやく悪玉さんが主人公だと分かっても、結局彼女が『何か』があって葛藤を抱えているのは分かるものの、その『何か』が全く分からない。

最後の方に、彼女がどうしても人と相容れないのは、実は彼女の過去、トラウマが原因だと分かるわけだが、いや、そういう回想シーンを冒頭とかに思わせぶりに入れておいておけば良かったんじゃないの?

見せたいこと、言いたいことを全てセリフで説明するだけして、最後は楽しく花火で過去の痛みと決別…、ってそれを見せられたお客さんは面白いと思うかどうかという客観性が一切無い。

シゲくんは本来もっと面白いのを個人的に知っているし、悪玉さんも魅力的な演技ができる人だというのが伝わってきただけに、それ以外全てのレベルが最低限に達していないのが辛かった。


作品を作る上で、アウトプットも大事ですが、インプットも同じだけ大事です。演劇や映画などに限らず、多くの芸術作品に触れて、審美眼を高めることをお勧めします。

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