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宇宙と人の意識|国立天文台准教授と語る最新の宇宙科学

第1回ウエイクアップ・フェスのイベントの1つとして、「宇宙と人の意識」が行われました。
今まで何度か、ウエイクアップのイベントにご登壇いただいた、国立天文台准教授の縣先生をお招きして、最新の宇宙科学のお話とともに、それが人間の意識にどう影響を与えているか、について語っていただきました。

※本記事内に登場する人物の所属・役職等は動画撮影当時のものです。

~縣先生のご紹介~

岡本:今日は、「宇宙と人の意識」ということで、国立天文台の縣先生をお招きして進めていきたいと思います。
最初に、縣先生のご紹介をさせてください。国立天文台にお勤めで、科学教育研究や、科学普及活動に力を入れていらっしゃり、国際天文学連合などでもご活躍です。著書も多数おありで、『ヒトはなぜ宇宙に魅かれるのか』という書籍をきっかけに、ウエイクアップでも、今までに何度かご登壇いただいています。

また、本日は、もうお一方、NECアメリカ社長兼CEO池野昌宏さん(マークさん)にもお越しいただく予定でしたが、やむを得ない事情で、ご参加がかなわなくなりました。
池野さんから、ご発言要旨のメモを頂戴しているので、のちほど、対話の中で、可能な限り、池野さんのお考えもご紹介できればと思います。
縣先生、改めまして、よろしくお願いいたします。

縣先生:皆さん、おはようございます。初めての方も多いと思いますが、国立天文台という研究所で、研究活動をしている縣秀彦と申します。
ウエイクアップでは、今まで2回ほど話をさせて頂く機会があり、大変刺激を受けました。お取組みに感謝していますし、とても興味を持っています。

~国立天文台でやっていること~

国立天文台は、英語で、National Astronomical Observatory of Japanといい、その頭文字で、NAOJというロゴになっています。何をやっているかというと、宇宙の謎に挑んでいます。謎に挑むといっても、幅が広いですが、最も古い学問の1つと言われている天文学、天からの文を読み解くという営みは、記録に残っているだけでも、2万年前とか、1万5千年前に、それらしきものが、旧石器時代のラスコーの壁画などに、星座や月の満ち欠けを記録したのではないかというものが残っていますし、よく知られているように、4大文明の発祥とともに、つまり、4千年、5千年前から、人々はなぜか夜空を見上げる、そして宇宙からやってくる文、天からのメッセージを読み解こうとしてきました。
天文台の「台」は、台地ですね、高台、なるべく見晴らしのいいところに立って、空全体が見渡せるところで、天からの文を読み解こうとしてきました。もちろん、全て読み解かれているわけではないのですが、4千年、5千年の積み重ねはさまざまなことを解き明かしている、というのも事実かと思います。

解き明かす手法は、主に、観測と理論です。観測というのは、一番わかりやすいのは、すばる望遠鏡、目に見える可視光線、また赤外線、目には見えませんけど可視光線に近い波長のものをとらえることができる望遠鏡で、口径、直径が8mもある、巨大な1枚の鏡を使って、それこそ宇宙の果てに近いところまで、ずっと遠くまで、暗いものまで見える、ということです。
それから、パラボラアンテナ、皆さんのおうちにあるBSアンテナの巨大なもの。宇宙からの文というのは、目で見えるものだけではなくて、電波もやってきます。私たちのこの周りの環境にも、電波、スマホ・携帯・テレビ・ラジオ、さまざまな電波が飛び交っていますが、目には見えません。宇宙からも電波がやってきていて、我々の目には見えないのですが、巨大なこういうアンテナで、電波を集めています。長野県の野辺山にある電波望遠鏡は、直径が45mもあります。後ろに八ヶ岳が見えますが、45mの巨大な構造物です。
また、太陽観測望遠鏡「ひので」というのを運用していますが、2028年には、「ジャスミン」という違う望遠鏡を打ち上げる準備が進んでいます。こういうものは、なかなかメーカーさんに頼めるものでもないので、自らモノづくりをしています。

モノづくりといえば、コンピュータも作っていまして、今や、理論といっても、紙と鉛筆があれば済むという時代ではないので、高性能の、世界最速クラスのスーパーコンピュータ、ここにあるのは、「アテルイ2」という岩手県奥州市水沢にありますが、こういう専用のスーパーコンピュータや専用の計算機類を駆使して、理論計算、理屈を考える、観測した事実から、物事を推論する、この積み重ねで、宇宙の謎に挑む、という作業をしている、というところです。

1999年に、ハワイ島マウナケア山、4200mの山の頂に、巨大な、すばる望遠鏡が建設されました。この建物を作り上げるだけでも、8年くらいかかっておりまして、この中に、8.2mの口径の、1枚鏡としては世界最大の反射望遠鏡があり、最遠の銀河、または目ではなかなか見ることが出来ない、遠くの星の周りを回っている惑星、系外惑星を直接撮影したり、宇宙にあるダークマターの分布を解明したり、といったさまざまな成果を挙げて、今も現役で活躍しています。

一方、南米のチリという国がありますが、チリも天体観測をするには適した場所でして、標高5000m、そこまでいくと空気が半分しかありませんから、酸欠状態に陥る場所ですが、この5000mの高原地帯に、アメリカ、ヨーロッパ、日本を中心とした東アジアの国々、の3極が協力して、たくさんの電波望遠鏡があります。よく見ると、この電波望遠鏡たちは、動くんです。台座があり、サッカーの試合ではありませんが、シフトをしいて、集まったり離れたりして、同じものを見るんですね。同じ方向を向いて、同じ天体を、1つの望遠鏡として観測する。
この望遠鏡を「アルマ」といい、ラテン語で、「魂」という意味ですが、魂を込めて作った、地上の望遠鏡としては世界最大・世界最高の性能、と予算・人員の国際協力を得て成果を挙げています。今から11年前から、観測が始まっています。たとえば、宇宙の中で、いろんな物質元素がどうやって作られてきたか、とか、惑星や星が生まれる仕組みを調べたり、とかの、さまざまな成果を挙げています。

~ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡で見えるもの~

海外でも、天文学は本当に盛んで、昨年(2021年)11月に宇宙に打ち上げられた、月よりも遠いところに持って行って運用している、「ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡」というのがあります。これは、ハップル宇宙望遠鏡の後継機です。6.5mの口径があり、ハップルが2.4mですから、とても大きいですね。赤外線で、宇宙をとらえます。今年(2022年)の7月から観測結果が次々と発表になって、世の中をあっと驚かせています。さすがのバイデン大統領もびっくりして、ホワイトハウスから、ジェームス・ウェッブ望遠鏡の画像を紹介するくらいです。

一枚、この望遠鏡が撮影した、美しい画像をご覧いただければと思います。いかがでしょうか?下三分の二にあるのは、星雲、星をつくるもととなる水素ガスの塊、しかもそれが濃い部分ですので、次第にこの中から、星々が誕生していきます。太陽のような星も生まれますし、地球のような惑星もこの中から生まれてくるわけですね。上の方には、すでにもうガスがない、つまり星がたくさんできた場所が、このようにあります。星がたくさんありますね、明るい星、暗い星、数えきれないほどの星が、宇宙では今も生まれているということがわかります。

これが、バイデンさんが紹介した、ジェームス・ウェッブ望遠鏡の栄えあるファースト・フライト画像ですが、何がすごいかというと、ここに映っている、周りに光がにじんで六角形のクロスをつくっているのは、太陽と同じような星々、天の川銀河の中にある星なのですが、そのむこうにあるのは、すべて銀河です。こう、渦を巻いている様子とか、分かると思います。この点がすべて、見えるか見えないかの、ちっちゃな赤い点が、かすかに何カ所か見えるかと思いますが、これらは最も遠くの天体、人類が今まで見ることのできなかった最遠の天体たちです。宇宙は138億年前に誕生したことがわかっているのですが、だいたい、135億年前とか、134億年前、つまり宇宙ができてから3~4億年足らずで、すでに巨大な銀河が形成されつつあることがわかりました。
今、どんどん、このジェームス・ウェッブ望遠鏡の観測データを、世界中の天文学者が、われ先にと解析を進めて、一番遠くの天体を見つけて、その記録がどんどん延びていって、どういうタイミングで銀河が生まれたのか、そして星が生まれたのかの手がかりが、次々とえられているところです。

みなさん、不思議に思われるのは、像が歪んでますよね。これは、重力レンズです。
ここに大きな天体があるために、その背景にある銀河が全部歪んで、まるでレンズで物を見たときに少し周辺ゾーンが歪みますよね、そういう重力によるレンズ、アインシュタインが気がついた重力レンズが働いています。このことによって、それぞれの天体の質量やダークマターなどの分布の手がかりになります。

~今、宇宙研究の旬を迎えている~

このように、宇宙は、今、まさに研究の上でも、旬を迎えています。長年、人類は宇宙に果敢に挑んできました。1つはアルテミス計画やゲートウェイ計画。ご存じのように、今、マネキンを3体くらいのせたアルテミスが、月に行っているところですが、2024年には、人が乗って、月にまた半世紀ぶりに行くわけですね。目標としては、2025年には、アメリカの女性宇宙飛行士が、アルテミスは女神ですから女性の宇宙飛行士が、月の南極の周辺を歩くと。また、人類が月を目指し、2030年代には月から火星を目指そうとしています。

なお、日本人も、昨年、JAXAが宇宙飛行士の募集をし、多くの方が応募され、それは理系である必要も、大卒である必要も、運転免許がある必要も全くない、広く誰でもチャレンジできる、そういう募集でありましたけども、今、選考が進んでいます。今回選ばれる宇宙飛行士のみならず、数年おきと言っていますが、順調にいけば、どんどん宇宙飛行士がさらに募集され、日本でも宇宙飛行士になる人が増え、その人たちが実際に月に行く時代が2020年代に起こります。
そして、月の上を歩く、我々に身近な日本人、「あら、岡本直子さんが、月へ行ってきたんだ。月、歩いてどうだった?」みたいな話、「小西さん、どうですか?」なんて話が、もしかしてできるかもしれない時代になります。

みなさんもご存じかもしれませんが、ZOZOの前澤友作さんは、お友だちを連れて、イーロン・マスクさんのスターシップという宇宙船で、宇宙観光に出かけます。来年の予定ですが、延びるかもしれません。月を周回して、月には降りませんが、月の周りを回って周回して、月観光旅行して帰ってくることが決まっています。
このように、人が宇宙に、わりと気軽に行けるという時代を迎えているので、ウエイクアップさんがおっしゃっているように、意識改革というのが必然的に起こるかもしれないし、そういうものを加速する時期なのかもしれません。

~地球外生命体は、近々見つかる?~

今さっきまでお見せしたように、宇宙の解明が加速的に進み、宇宙の謎は深まるばかりということもあるのですが、一番気になることは、地球以外の星で、生命体がそろそろ見つかるだろうというタイミングに、我々は来ました。
知的生命体、地球人以外の宇宙人がいるかどうかというのは、まだわからないですが、多くの人が、いるだろう、と考えています。そして、そういう星を見つけることが、もう一息で可能、という時代を迎えています。

2020年代、2030年代は、かつて生物が海から陸に上がったように、人が大気圏を超えて、宇宙にどんどん進出していくというフェーズになります。そのことがいいことなのかとか、必要のないことかとかは、よく議論すべきことだと思います。ただ、そういうことが可能な時代になったと同時に、宇宙の中で孤独な存在であった、つまり今日現在、地球という星にしか生物は見つかっていないのですが、だからUFOとか宇宙人というのはほとんどがガセネタというか確かな証拠はほとんど見つかっていないのですが、いよいよ本当に宇宙人と文を交わす、天からの文を受け取るだけでなく、人類が我々の外にいる友に文を送る、メッセージを送るような時代にいよいよなるという、とてもワクワクするような時代に、私たちはいるということです。

~Mitakaを使って、宇宙旅行に出発!~

そんな宇宙の解明のために、短い時間ですが、国立天文台の加藤恒彦さんが開発した、Mitakaという無料のソフトウェアを使って、無料の宇宙旅行に行ってみようと思います。

*Mitaka:以下のサイトから、無料でダウンロードできます。
https://4d2u.nao.ac.jp/html/program/mitaka/

ご覧の画面に、今日の星空が映っていますでしょうか。今日、11月30日(2022年)の東京から、夜8時に見える星空です。たとえば、月は半月くらいの月になっています。最近、夜空を見上げると、めちゃ明るい星があるよな、と気がつかれている方もいるかと思いますが、あれは木星ですね。あんな明るいのは、木星か金星くらいしかありません。金星は、これから、11月、12月と、夕方西の空に現れてきます。つい最近までは、明け方、東の空に見えていました。
これは木星、マイナス4等星。土星もまだ見えてますし、多分、東の空に、木星よりはちょっと暗いけど、やはりめちゃくちゃ明るくて赤い星に気づかれると思います。この赤い星が、人類が、月のあとに行こうとしている火星です。

で、この辺が、冬の星々ですよね。オリオン座、おうし座、おうし座のすばる星団とか、ふたご座、こういった星座がすでに東の空に、あたりが暗くなると顔をのぞかせています。その中に火星があり、12月8日には、地球に最も近づきます。近づくということは、明るく見えるし大きく見える、ということですね。
北の空には、北極星があります。北極星の周りを、時間がたつと、星々は、反時計回りに1時間に15度、移動していきますね。これは地球が自転しているからです。自分が動いているのですが、それに気がつかないので、相手方が動いているように見える。北極星は、地球の北極の上空になりますから、北極の周りを星がぐるぐると回るような動きになるわけです。

~宇宙から、地球を見てみる~

さて、夜の日本列島を飛び立ちましたので、今、眼下には夜の地球の様子が浮かび上がってまいります。夜も真っ暗ではありません。人が住んでいて、光を使っています。しかし、この光のほとんどは、無駄な光です。光害、ほとんど無駄に宇宙に光を放出しています。手元を照らせばすむだけなのですが、宇宙に光をどんどん発していることになります。
日本も、たとえば、新幹線の通り道に沿ってずっと光があったりしますけど、興味深いのはお隣の国で、朝鮮半島を見て頂きますと、この東京のように明るい場所がソウル(京城)です。ソウルのすぐ北が北朝鮮ですが、ピョンヤン(平壌)は少し光がありますが、ほとんど光を使っていないということがわかります。街灯が全部下向きになって宇宙に光がもれていないんじゃなくて、実際に電気が供給されていない、ということですね。
中国もいたるところに人が住んでいますが、もっとすごいのはインドでして、インドはそろそろ中国の人口を抜くそうですけども、いたるところに人がいます。そしてその間には、ほとんど人がいない、チベット、ヒマラヤという山岳地帯があることがわかります。
今、人々の目は、(サッカーワールドカップを開催中の)遠くアラビア半島に注がれていると思います。あ、ヨーロッパが見えてきましたね。このように、夜でも人の営みがあることが分かると思います。

昼間の地球に行ってみます。これが、私たちの住む地球です。あ、今、南極大陸、オーストラリアが見えていて、日本を探してみましょう。日本はこの辺にありますね。そして、下に時計の針があります。1日1回転、地球は規則正しく、常に回り続けています。
私たちは、1日という時間をこのように過ごし、そして、地球は太陽の周りを1年かけて回っていますので、1年間で太陽を一周するという公転運動をしています。

~今度は、月に行ってみる~

そして月に行ってみようと思います。この間、皆既月食をご覧になったかとも多いでしょう。そのとき見上げた月と同じ月です。うさぎさんの耳の部分がここ、うさぎさんの顔の部分を、「静かの海」といいます。この「静かの海」のここらへんに、今から53年前、1969年4月20日、アポロ11号のニール・アームストロングとバズ・オルドロリンがここを歩いたのです。
アポロ計画では、6回、月に着陸して、12人の人が月を歩きました。月の黒いところは、「海」と呼ばれていますが、水はありません、空気もありません。黒いところは溶岩によって満たされている、比較的平な地形です。

~火星を見てみると~

こちらは火星です。かつて、火星人がいる、ということが真剣に考えられたわけですが、それは、火星の黒い線が、地球から見ると、まるで黒い運河のように見えたということもあります。この、マリネリス峡谷などを見ると、北アメリカ大陸の幅くらい広がっている巨大な峡谷、大地の裂け目であります。こういった巨大な、地球上ではなかなか見られないような大規模な地形が、数多くみられます。
最も有名な火星の地形の1つが、このオリンポス山という火山です。これは、高さが、2万メートル以上あります。エベレスト3個分に近いですね。同じような火山がいっぱいあります。火山や、深い谷など、いろいろあります。
今、一所懸命、生命探しを、無人ローバーがしていますが、まだ、見つかっていません。ただ、生命がいそうな痕跡は、いくつか見つかっています。が、それはかつて生きていた化石か、もし今生きているとしても、バクテリアかゾウリムシぐらいのレベルの、非常に単純な生き物のはずです。知的生命体が、太陽系の中にいるわけではありません。

~太陽は、ここです~

私たちにエネルギーをもたらしてくれるのは、ほとんど太陽の恵みです。太陽からの光と熱。太陽は水素の塊です。地球を縦に109個並べた大きさです。直径が109倍、重さは33万倍もあります。ほぼ、水素ガスの塊です。こんな巨大な天体なので、中心はとても高温・高圧になりまして、そこでは、水素の核融合反応が常に起こっています。つまり、水素爆弾が常に爆発し続けているわけです。
水素爆弾が爆発していたら、それは巨大なエネルギー、熱や光がくるのは当然ですが、放射線、放射能もいっぱい飛んでくるわけですね。ではなぜ、私たちが、こうして地球に普通にいられるかというと、大気、地球の空気が、放射線が降り注ぐのを防ぐバリアとなっているからですね。それは、太陽活動が盛んな時期のカナダやアイスランドで、オーロラを見るとよくわかります。あのオーロラの光というのが、地球にとびこむ荷電粒子を防いでいる地球のバリアそのものです。

~プラネタリー・ディフェンス~

太陽は、活動が11年周期で、黒点の数が増えたり減ったりしています。太陽で突然スーパーフレアという巨大な表面での爆発が起こって、その放射線が地球に影響を与える可能性は大変危惧されていますし、水星、火星、地球の近くや火星の外側には、たくさんの小惑星がいます。この小惑星は、すでに120万個見つかっていますが、中には、地球にぶつかるものがいくつもあります。
6600万年前に、10km程度、天体としては非常に小さいですね、その小惑星がユカタン半島に落ちて、恐竜をはじめ、当時生きていた生きものの、種でいうと7割くらいの種が絶滅しました。そのとき絶滅しなかったら、人類は、ここにいなかったのかもしれませんが、ただ、恐竜にしたら全く災難な話であります。そのようなことは、これから将来も起こるわけです。
そういうことをどうやったら防げるか、ということを、今、真剣に考えて取り組んでいます。これを、プラネタリー・ディフェンスと呼んでいます。まあ、地球防衛軍ですね。宇宙からやってくる、巨大な石や氷の塊が落ちて、地球の生命が絶滅するのをどう防ぐか、というのも、これから大事な課題になっています。

~太陽系の惑星たち~

小惑星の外側に、最大の惑星である木星、そして土星があります。土星までで、太陽までの10倍くらいですね。
天王星、海王星、冥王星の近くには、たくさんの氷の天体たちがいます。
太陽系は、このような多様な仲間とともに、太陽までの距離の1万倍ほど広がっているものです。

~一番近いお隣の星~

太陽系の外には、星座を作っている星々が広がっています。一番近いお隣の星が、アルファ・ケンタウリ、ここまで、光で4年かかる距離です。光というのは、1年間で9兆5000億km、太陽・地球間の63,000倍も進みます。光が1年進んでもそこには星がなく、4年進んで、ようやくそこに一番近い星が現れる、ということです。
たとえば、1977年に人類が打ち上げたボイジャー1号と2号、1号というのは今地球から最も遠くにいる人工物ですけども、それでも、太陽・地球間の130倍程度です。
ボイジャー1号が、太陽系、先ほどの1万天文単位のところを超えるのには、数千年かかります。ボイジャー1号、2号には、よく知られているように、宇宙人へのメッセージ、ゴールデン・ディスクというのが搭載されていますが、宇宙人が、もしアルファ・ケンタウリにいて、そこにボイジャー1号がついたとしても、それには1万年もかかる話ですから、私たち人類は、百年とか千年とかではなく、数十万年生きるつもりでがんばらないと、実際に、隣の星々の人たちと物々交換ができるようにはならない、ということです。

光でいえば、4年で情報は届きます。アルファ・ケンタウリにいる人たちが、賢くて、「どうも太陽系第3惑星あたりに知的生命体がいるらしい、電波をだしている」ということに気づいたとして、電波というのは、衛星放送で、今ワールドカップやってますから、宇宙に向かっていっぱい電波を飛ばしていて、サッカーの試合とかオリンピックとかの電波が、宇宙にどんどんもれていきます。すると、アルファ・ケンタウリ星人は、「あ、日本惜しかったな、最後、ベルギーに負けちゃったな(4年前のワールドカップで)」というのは、知っているわけですけれども、この間ドイツに勝ったということは、全く知りません。4年しないと、その電波は届かないからです。4年前の紅白歌合戦は見てるけど、去年や今年の紅白歌合戦は、わかりません。

~さらに天の川へ~

そして、ベガというのは「織姫」、25光年先にあり、私たちは25年前の光を見ています。われわれの、この星々の世界というのは、巨大な星の大集団に含まれています。この星の大集団は、銀河系です。銀河系というのは、上から見ると、渦を巻いた形、台風のような形で、直径は10万光年、私たちのいるところは、中心から2万6千光年離れた、この場所です。

地球は、オリオンアームという腕の上です。銀河系中心には、超巨大ブラックホールがあって、その発見で、一昨年、ノーベル物理学賞が授賞されています。ここから見ると、どら焼きの形をしていますね。そして、どら焼きのあんこの部分が、星をつくる素になります。
今、私たちのいる場所は、この赤い丸の中心ですから、ここからどら焼きの中を見てみましょう。数えきれない星々の向こうに、ほぼ横のように、雲のようなものが見えます。これが、天の川ですね。だから、私たち地球から見た天の川は、空を一周回っていて、特に太くて明るいのが、夏のさそり座やいて座の方向で、それが天の川の中心方向であることが分かります。私たちは、天の川のほとりに住んでいるわけです。

~宇宙に広がる銀河の世界~

そして今、大マゼラン、小マゼランが見えてきました。ここは、もう銀河の世界です。星々をたくさん含んでいる、たとえば、銀河系の中には1兆個を超える光っている星があり、惑星も数えきれないほどありますけども、一番近い、お隣の銀河、それは目で見える一番遠い銀河ですが、アンドロメダ銀河です。250万光年離れています。250万年前に出た光が、今晩、皆さんの目に届くわけです。

宇宙は銀河でできています。この点々は、すべて銀河です。M87、ウルトラマンの故郷も、銀河です。この銀河をすべて、研究者の人たちが協力して、距離と場所を測って、地図をつくりました。これが、そうです。これが、宇宙の銀河の分布です。私たちが見ることができる宇宙の姿です。宇宙の一番端は、遠くを見れば見るほど、昔を見ることになりますから、私たちが観測的に見通せる一番遠くは、宇宙の始まり、138億年前に出た光、138億光年先、ということになります。

このMitakaというソフトは、国立天文台の加藤恒彦さんが作って更新をしています。
Windowsのパソコンで、今私がやったのとまったく同じように動かすことができますので、ぜひ、皆さんも、ご自宅で、前澤さんやイーロン・マスクさんに負けないように、楽しんでいただければと思います。

~宇宙船地球号~

はるか、138億光年の旅をしました。あっという間でしたが、私たちの、この愛おしい地球、宇宙をみても今のところこんなきれいな星は見つかっていないのですけれども、第2の地球はあるかどうか、ですね。
宇宙の旅をしてわかることは、地球という私たちの星が故郷である、ということですが、それを実感できるかどうか、ということですね。人類は、地球を故郷と考えられるようになるんでしょうか。
ここに参加されている方は、ほとんどが、日本が自分の故郷、故国だと思われている、自分たちは日本人だと思われていると思いますが、地球人という自覚があるかどうかということですね。東京人だ、関西人だ、秋田県人だとかいうことでは、ほぼ殺し合いはしない。400年前、戦国時代はしてたと思いますが、今はしない。地球上のわれわれの国、国境を越えて、宇宙船地球号として、仲たがい、テロや紛争や戦争をすることが一切ない、ということになるかどうかが、試されている気がします。

今日お話ししたかったことは、この空、宇宙は、皆さんとつながっていることです。なぜ私たちは、物心ついてから夜空を眺めるのでしょうか。それは、宇宙から、何かメッセージが届いていると思っているからに違いありません。私たちは、死んだら宇宙にいく、と思っている人もたくさんいます。つまり、天国にしろ、極楽にしろ、高いところ、空の上の方にあるというイメージがありますよね。
また、われわれは、宇宙から生まれてきたとも言えます。宇宙にある星々の中で、さまざまな元素が合成されて、そこから、私たちの命が始まりました。宇宙は私たちの故郷かもしれないし、私たちがこれから宇宙に進出していく活動の場なのかもしれません。

~Awe(畏敬の念)という感情~

最近、大変興味深い論文を見つけました。2015年に、Journal of Personality and Social Psychology 、心理学の国際誌ですけど、このPiffさんたちが書いた論文のタイトルは、“Awe, the Small Self and Prosocial Behavior”というものです。
この論文で言っていることは、Aweという感情、それは、さっきのきれいな星を見たときとか、宇宙に行って地球を見たとき、または高い山の上に登って360度のパノラマ・ビューを見たとき、またはこの間のワールドカップで浅野選手がゴールした瞬間、すごいな~とかワンダフルという感情よりも強いエモーションが沸き上がってくることがありますね。自分のお子さんが生まれた瞬間とかもそうかもしれません。
そういう強いエモーションは、自分自身が小さな存在である、そしてその小さな存在は、社会に対してつながっている、社会に対してポジティブに寄与しようという心理的効果を生む、ということです。Awe を感じると、人々は、自分を小さく感じ、世界とつながっているということを感じ、そこに対して、手を差し伸べようとします。

WonderやAwe を体験すると、困っている人を助けたいと思うようになり、権利や自尊心を感じなくなる。Aweが、より謙虚で、ナルシストでない自分をつくり、他人に対してより親切な態度を示すようになる。Aweと利他主義の関係について、研究が進んでいる。
畏敬の念、Aweの日本語の訳ですが、Awe、畏敬の念を抱いたあと、人々は感情的に高揚し、寛大になり、違いを受け入れられるようになり、他者とのつながりを感じることができるようになる。また、共感性や勇気、リスクへの耐性が高まり、未知の世界に踏み込むことができる。

宇宙から地球を眺めた宇宙飛行士の内なる驚きの体験を調査したところ、圧倒的に多かったのは、地球の美しさを見て、それを守りたい、と思ったことでした。彼らは、地球が生きていて、壊れやすく、限りなく美しく、無限に貴重であると感じていた。宇宙飛行士が感じたAweによってですよ。
Awe体験によって、免疫反応が強化され、精神的・肉体的な健康につながる。このことは、ごく最近に発表された論文や書籍から、引用しています。

~私たちは、宇宙とつながっている~

つまり、私たちは、宇宙とつながっているのです。そして、私たち80億人の人類は、遺伝子としてつながっているのみならず、文化・文明をクリエイト、イノベートし、それを伝承し伝えあうことで、また、コミュニケーションをとることによって、社会の中で、社会とともに、歩んでいきます。
宇宙、一人ひとりにとっての宇宙、そして世界、人類にとっての宇宙、人類の未来としての宇宙、つまり、かけがえのない星、地球とつながっている生命、社会。

今、人類の抱えている目の前の課題の1つは、SDGsであることは、間違いありません。
ミレニアム・ゴールズが不成功のあと、2015年に、世界中のたくさんの方の意見を集め、議論をし、みんなで創り上げたのが、SDGsです。160を超える課題を整理して、図のようなアイコンで示されています。
これについて、みなさんは、どんな取り組みをされていますか?
私は、国際天文学連合というところで、今、仕事をしているのですが、そこで進めているのは、質の高い教育、ジェンダー平等、平和と公正、そして働き甲斐、産業・エネルギー問題、不平等をなくす取組み、それから気候変動です。
これらのことを、星を見るたび、感じています。星空観光や宇宙旅行というのは、これから大きな産業になります。ご存じのように、観光というのは、きわめてGDPに対する寄与が大きい分野ですので、星を見る旅、宇宙に行く旅行、またカメラやコンピュータといったデバイス開発も重要です。

それから、光害をなくしましょう。全く無駄なエネルギーを人類は使っています。これを減らすことや、基礎科学の分野がみんなで国を超えて協力し合う、これが最も大事な安全保障だと思います。軍事的な安全保障も大切な時期であるのは間違いないですが、それ以上に、平和的な、みんなで同じ方向、同じ夢を実現しようという平和的な外交、平和的な安全保障を目指そうとしています。

~宇宙の中の地球という視点~

今日お話ししたように、SDGsを、少しでも達成に近づけるためには、宇宙飛行士が感じたような、宇宙の中の地球という、ユニバーサルな視点の獲得が重要ではないでしょうか。
私たちは、最近、ようやく、グローバリズムが少しずつ身に着くようなものに変質しつつありますが、グローバルというのは、グローブですから、地球規模ですよね。さらに、宇宙規模、ユニバースが宇宙ですから、ユニバーサリズム、ユニバーサルなさらに大きな視点を、われわれが獲得し身につければ、国と国の争いというのがいかに意味がないかということに、本質的に気づくのではないでしょうか。

1968年12月のクリスマスイブに、初めて、人類は月に行きました。このときは、着陸しないで、月の周りを回って帰ってきましたが、これが月に行った人類の最初です。
ボーマン、ラヴェル、アンダース、3人の宇宙飛行士が、アポロ8号で、クリスマスでみんなが七面鳥を食べている間に、白黒のテレビにライブでこの映像を送りました。地球の姿、月の向こう側、月の地平線から上がってくる地球です。この姿を見た宇宙飛行士のみならず、当時の、それを見た人類は、地球というのはとてもかぼそい、ちっちゃな、そしてみんなが住んでいる共通の場所だ、ということに気づきました。

そして、もっとも有名な地球全体の写真は、ザ・ブルー・マーブルと呼ばれています。最後のアポロ17号が1972年に月から帰還する際に、宇宙飛行士が撮ってくれたこの写真です。最もきれいな、美しい地球の全容として、今も、さまざまな本、教科書に載っています。
これらの、宇宙からの地球を見てのAweの感情は、宇宙飛行士のみならず、多くの人に影響を与えました。たとえば、作詞家の松本隆さんは、松田聖子さんに、「瑠璃色の地球」という楽曲を提供しています。この歌詞にあるように、「ガラスの海の向こうには広がりゆく銀河、地球という船の、誰もが旅人、一つしかない地球・・・」
今日はカラオケではないので歌いませんが、この歌詞にある意味は、アポロの時代になって、地球を宇宙から見られる時代になった、その影響であることは間違いありません。

最も遠くから、私たち自分たちを撮った「自撮り」が、これです。ボイジャー1号が、冥王星の距離、60億km、40天文単位のときに、最後の力を振り絞って振り返って、太陽系の家族全員の写真を撮ります。地球は、わずか1ドット、しかも縦に走っているのは太陽からの光のにじみで、ほんのわずか青い点があります。Pale blue dot、この上に、今現在は、80億人の人類とたくさんの動植物が存在しています。

今日の主題は、2050年代に向けて、と聞いておりますが、目の前のコロナ禍を乗り越え、経済不況を乗り越え、なんとかファースト、国家主義、個人主義の行き過ぎ、または行き過ぎたリアリズムを乗り越えて、近い将来、今日お話ししたSDGsを達成し、さらに地球外生命が見つかり、宇宙人が発見され、コミュニケーションをとる時代に、2050年はなっている可能性があります。つまり、私たちが宇宙人としての自覚を持てる時代が来るのではないでしょうか。

今日お話ししたかったことは、以上です。

山田・小西・岡本:ありがとうございました!

山田:聴いていた皆さんからの、リアクション、♥とアンコールの嵐ですね。

小西:Mitakaの映像も、久しぶりに見せて頂きましたが、すごかったですね。

岡本:Mitakaと、ジェームス・ウェッブ望遠鏡の写真、ほんとに言葉にならないですね。

山田:それこそ、Awe 体験をしてしまった感じですね。余韻が・・・。

岡本:ご質問がいくつか来ていますので、ご紹介しますね。

~ご参加者からの質問です~

<質問1>
「宇宙の謎の解明が、人の意識変化を引き起こすとのことですが、縣先生は、どのような変化が生じる、または必要とお考えでしょうか?」

縣先生:今日お話ししたことは、2009年以降、国際天文学連合というところで議論してきたことです。国際天文学連合というのは、天文学の国際学会ですね。1919年にできたんです。
第一次世界大戦の反省で、当時は、ヨーロッパファースト、他は植民地、みたいな帝国主義の時代でしたよね。第一次世界大戦のあとに人々は、それじゃだめだ、と気づいた。で、グローバリズムの先駆けというのは、その時代にようやく始まるんです。それまでは、ローカルなんです。または、同じ言語が通じるものどうし、という感じで。なので、英国人とドイツ人とフランス人は、仲が悪かった。今みたいに、EUというような時代じゃないんですけど。
そのときに、国際連盟やWHOやIMFとか、いろんな国際的な組織ができていく中で、それぞれの学術団体も、国際学会を作ったわけです。大きな科学全体の組織があって、その中に、物理だ、化学だ、天文学だ、というように作られてきました。

そして、100年経ちましたが、そのうちの8割強の年月は、「天文学者ファースト」だったんですよ。世界中の天文学者が、天文学を進めるためにどうしたらいいか、その環境をつくって自分たちを守る、ユニオンだったわけです。
それが、2009年に、世界天文年という取組みを、国連やユネスコと協力してやって、天文学者は気がついたんですね。もう、Astronomer Firstじゃ、ダメなんだと。
で、我々のやっている活動、宇宙の解明、ということを使って、開発の発展や教育やジェンダー・バランスなどの課題、今でいうSDGs的な課題の解決に役立てよう、ということになりました。Astronomy for Astronomer ではなく、Astronomy for everyone 、あるいは人のみならず、Astronomy for Allというふうに、意識改革が起こりました。

今、特に中心的に力をいれてやっているのは、教育です。教育とは、つまり、次世代、我々の次、またその次の世代に向けて何をするか、何ができるかということを考えています。そのための、世界中の人たちに知ってほしい、天文学のリテラシーを、Big Idea in Astronomyという冊子にまとめました。それは、日本語にも翻訳したので、お読みいただけるのですが、いろんな天文学の話の中で、最も大事なことは、今日お話しした、宇宙から見た地球の視点の獲得、Pale blue dot message と呼んでいますが。要は、グローバリズムとユニバーサリズムを、身体に沁み込ませるというのが、宇宙に行く時代あるいは宇宙にほかの生き物が見つかるかもしれないという時代に生きる我々の意識改革として、最も大事なこと。
なぜかというと、地球という星の、我々の文明というのが、サステナブルなものでなければ、全く2つとも意味がないし、それこそが、Astronomy for All であると考えているからです。

小西:宇宙から見た地球という視点、が大事ということですね。

縣先生:自分のことを知るというときに、深く内省し自己反省し、ついつい丸くなって下を向きがちになるのですが、それで解決したためしは、僕もないです。人生の中で、いろんな悩みがありました。失敗、失恋、いろいろありますよね、仕事上の悩みとか。
他の人を見てとか、先人の本を読んで、とか、いい映画とかいい小説とかいい論説とか、また自然から学ぶこともありますよね。
星を見て学ぶこともいっぱいあるわけです。自分を、他者と同時に見る、ということをしない限りは、解決しないんですね。今、人類が陥っている問題は、そこだと思いますね。
何とかファースト、ということが平然と言われる時代になってしまっているのは、そういうことだと思っています。

<質問2>
「確か、ロシアの宇宙飛行士が地球の写真を撮って、“地球は青かった、素晴らしい世界です”という言葉があったと思うのですが、そのあたりの詳しいことをお教えください」

縣先生:1957年に、ソ連は、スプートニク1号という、今でいう人工衛星を打ち上げました。これは、スプートニク・ショックといって、その後の、いろんな国の科学技術や米ソの冷戦の構造に影響していくわけですが、ソ連が宇宙開発においては先んじて進みました。1961年の春、ユーリー・ガガーリンという人が、生身の人間として初めて宇宙に行って帰ってきました。そのときガガーリンが言った言葉が、「地球は青かった」と日本では翻訳されて、広く流布されました。

でも、正確にいうと、ガガーリンは「地球は青かった」と言ったわけではありません。地球を観察して、海は青みがかっていたとかいろんなことを言っていますが、その一部分をメディアが切り取って拡大して、そういうことになった。
たとえば、ガリレオが「それでも地球は回っている」と言った、なんていうのと同じですね。本当は言っていなかったと思いますが、そういう言葉が非常にわかりやすいので、ラベル化される、という現象の1つです。
地球が青いのは、事実です。実際、日本人の宇宙飛行士で、彼らは地球の周りを回っているので、地球全体が見えるわけではありませんが、宇宙船から見て、あるいは地球に戻られてから、地球は青い星だ、ということは、たとえば若田さんのTwitterとかにも書かれていますから。

<質問3>
「そもそも、宇宙とは何なのでしょうか。縣先生は、宇宙をどのように定義・認識しておられますか?」

縣先生:科学の世界では、138億年前にビッグバンという爆発によって膨張している、私たちの住んでいる場所そのものを、「宇宙」と呼んでいます。これは、英語でいうと、universeといいますね。「宇宙」というのは、中国の言葉からきた言葉で、「宇」は、無限の空間、「宙」は無限の時間を表します。無限の空間と時間のことを「宇宙」と、中国では5000年ほど前に定義しました。そう本に書いてありますね。
一方、universeという言葉は、何を意味しているかというと、uniというのは「単一の」という意味ですが、われわれのいるこの宇宙を、universeといいます。今の宇宙論では、われわれの宇宙とは別の宇宙があって、それは多次元で、multiverseといいます。で、multiverse、たくさんの宇宙の中の、我々が住んでいるこの宇宙が、universeです。ビッグバン宇宙のことです。

<質問4>
「ユニバーサルな統一性と、ローカルまたはナショナルな独自性の対立または分断をあおる、メディアの風潮を、どうお考えでしょうか?」

縣先生:時期的に見ると、貧しい時代とか虐げられている時代とか、食うに困るとか、ほんとに明日敵が攻めてくるかもしれない危機的な環境下になると、国家主義になりますよね。だから、発展していくとか、経済的な維持、富める人だけがさらに富むということではなくて、今日のAweの話のように、お互いに助け合うという、これは本来我々が持っている種のDNAですよね。
だって、ゴリラとかオランウータンなどは、自分たちの家族以外には、得た獲物は分け与えないでしょ。でも、我々はそういう行動をする、ということですから、DNAの中に、公助の精神があるということですよ。それには、自分や家族の分は確保して、その上での余力が必要だということですよね。
それをどう作っていくか、担保していくかが重要だと思っています。

<質問5>
「宇宙のダークマターから、地球や人類はどのように影響を受けていると考えられますか?」

縣先生:まったく受けてません。宇宙って、4つの力がありますよね。重力(引力)は2つの物体の重さを掛けたものに比例して距離に反比例するものです。それから、電磁気の力、原子の中で働く力、まあこれは無視していいくらいの力です。
ダークマターって、銀河と銀河の間のレベルの話なので、われわれの間でそれが影響することは一切ありません。また、ブラックホールについても、考える必要は一切ありません。一番近いブラックホールでも、1千光年も離れていますから、全く気にする必要はありません。

<質問6>
「人は、死んだらどうなりますか?」

縣先生:これは、どこまでお答えすればいいですか?
物質としての活動はなくなるので、体温を維持するとかはできなくなって、冷えた状態になりますから、物質としての循環になりますよね。
精神とか宗教的な意味は、僕はわかりません。でも、宗教も形而学上での話も、極めて重要だとは思っていますが。

岡本:以前、縣先生のお話を聴かれた方が、私たちの肉体もいわば宇宙素材でできていて、私たちも「星の子」だから、肉体がなくなって塵になっても、私たちは宇宙に還っていくんだ、「死んだら、宇宙に還っていくだけなんですね」とコメントされたことがありました。

縣先生:物質としては、私たちは循環する、一時期の1パーツでいて、死んだらまたその骨も還っていくわけですが、動植物だって空気だって土だって、みんなそうじゃないですか。この地球上にあるものも、宇宙にあるものも、みんな同じなんですよ。だから、人間だけがとか、生きものだけが、というような話はまったくない。
もう1つ、子孫を残された場合は、DNAとしてつながっていく、ということはありますけど、まあ、これは自由ですし、強制することでもありません。まあ、DNAについては人間だけではなく、コロナウィルスだってDNAはありますから。特別な、人間にしかできないのは、イノベーション、クリエーションとその伝承、コミュニケーションですよ。

ぼくらは死んでも、ぼくらがしゃべったこと、ぼくらが書き残したこと、ぼくらがだれかに伝えたことは、風のようになってつながっていくわけですよね。それは、自分の生きざまを周りの人たちや子どもたちに、何か背中で示したかもしれません。そして学校で習ったことを、また次の世代に伝えるわけですよね。ルール違反、マナー違反しちゃだめだよ、っていって、またそれを次の世代に伝えるわけですね。
こうやって、伝言ゲームが行われて、文化・文明が保たれ、かつ発展していくというのが、ホモ・サピエンスといわれる我々の、もっとも特徴じゃないですか。他の生物と比べたら、そこが一番の違いだと思っています。

山田:私も、関連質問で、1こだけ。超基本的なんですけど、今、私たちはユニバースにいますよね、ビッグバン宇宙に。ビッグバンからスタートして、物質があるわけですけど、その原子の量、宇宙を満たしている物質の量というのは、変わらないんでしょうか、それとも、拡大しているんでしょうか?

縣先生:宇宙ができて、空間自体は広がっています。その後に、物質ができます。物質とは、陽子とか電子とか中性子とか、こんなものですよね。その総和は、変わりません。だから、宇宙が膨張するにつれて、どんどん希薄になっていきます。
われわれの身体って、40~60兆個の細胞からできています。宇宙は、銀河でできています。われわれは膨張していないので、まあ太っている人もいますが、宇宙みたいに膨張しているわけではないので、細胞はくっついていて、あるパッケージ・形になっています。でも、宇宙は、膨張しているので、いわば細胞と細胞が離れて存在しているというわけです。そして膨張しつづけて、温度が下がって、終わる、というわけです。

山田:たまに、そういうことを感じるというか、考えたりするのですが、要するに、ビッグバンのときにできたクオークとかそういうものの一部が、ずっと変わらないのであれば、ぼくの身体の中には、そのときの残骸というか・・・

縣先生:水素はそうですよ。水とか、飲んでるでしょ。われわれの身体の6割か7割は水分、H2OのうちのHは、そのビッグバンのときの水素をそのまま使っていますので、自分の身体の中のHは、ビッグバンからもらった、ということです。
そして、Oは星の内部からもらったよ、ということになるわけです。

山田:そうすると、実感がわきますね。

岡本:138億年前にできた水素が、今も使われている、ということですね。

山田:いやあ、果てしない質問が続いてしまいますが。

小西:ビッグバンのこの小さな点から、すべてが始まっていて・・・

縣先生:実は、一点からインフレーションが起きて、ある程度の空間、銀河程度の空間から、相転移、いわゆるビッグバンというものは起こります。

~宇宙の意識と意識の進化~

小西:今日のテーマの「人の意識」について言うと、先ほど先生がおっしゃった、イノベーション、クリエーションを起こしてそれを次の世代に伝承していく、それが人類の持つ違いだ、というところを、まず、ここに投げ込んでみたいと思います。

岡本:人類の本質ということですと、今日、残念ながらご欠席になったマーク、池野さんから、「人の本質を認識して、それをより発揮していくことが大事です。人は関係性の生物であり、人間の本質は、善性と相互依存性です」というコメントを頂いています。

縣先生:人間というものが、放っておくと善い行いをするかどうか、というのが肝ですよね。今、そうでないことがたくさん起こっているのはなぜか、ということの、しっかりした分析が求められていると思うんです。

山田:ウエイクアップでは「意識の進化」ということを掲げているのですが、そこからの宇宙の意識、ということにつながって、このプロジェクトになっちゃったんですけど、先ほどのPale blue dotの視点を獲得したら、獲得する前と比べて、意識のレベルというのは確実に変わると思うんですよね。で、先ほど先生がおっしゃったように、外との対比によって自分の存在を知る、という実感は私もあります。
そうすると、Pale blue dotで、ユニバースの中に私たちはいるぞ、という意識を獲得していけば、たとえば、人間のコミュニケーションというのは、どんなふうに変わるでしょうか。これは、まあ、誰も知らない世界かもしれませんが、そんな視点を獲得したあと、私たちはどんなふうにやっていくんでしょうかね?

縣先生:今、山田さんがおっしゃった影響のみではなくて、目の前でも、Society 5.0っていってますよね。今日、私がお話ししたこと以外に、当然、コンピュータ技術とかAIとか、人間が今までやってきたことを肩代わりしてくれるとか、人間ではできなかった細かいことが出来るようになるとか、人間では処理できなかった膨大なデータが処理できるようになるとか、すでにそうなってますよね。
だから産業革命のみならず、IT革命ってすごく大きかったですよね。だから、ぼくら、まさにIT革命の中に住んでますよね。ちょっと前まではスマホはなかったし、インターネットもなかったわけですが、それらがある時代に入って、明らかに生活は変わりました。それは、すでに意識改革が起こっている、ということですね。それが、いい方向か、悪い方向か、というのはわかりませんけど、ある方向に動いているのは事実です。

~民主主義、資本主義の根幹が崩れる時代に~

昨日(襲撃を受けるという)不幸なことがあった宮台(真司)さんなんかもおっしゃっていましたが、我々は民主主義というのを信じて、それが万能のように、つい思い込んで生きてきた20世紀後半から21世紀初頭なのですが、今までやってきた民主主義というのは、昔はそれが理想に近いと思われたときもあったかもしれないけれど、今はずいぶん離れてしまっている。
なぜかというと、誰でも自由に発言できてしまうし、誰かの言っていることが正しいとはとても信じられないという世の中になってしまったので、多分、仕組みの根幹そのものが崩れています。

そして、資本主義もそうですよね。明らかに、資本主義はもう破綻しつつありますよね。じゃ、社会主義や共産主義がいいかというと、共産主義も失敗したし、社会主義もほぼ失敗している。じゃあ、いったいどうするの?っていうことは、結局、変化する世の中に対して人間はどう対応していくか、ということになる。
そうすると、少なくとも、今日お話ししたグローバリズム、ユニバーサリズムというのは、何とかファーストをやめましょう、ということですよね。自分ファーストとか自分の家族ファーストとか会社ファーストや自分の国ファーストではなくて。

でも、これが行き過ぎると、たとえば、オリンピックだって面白くないし、ワールドカップだって面白くない、と言われることがよくある。国同士で、これだけ熱狂して勇気出て、何が悪いんだ?って。お互いに競い合うことは、いいことなんですよ、人間って、そういう生きものだから。お互いに競い合うところに、クリエーションやイノベーションのエネルギーがあるので。
競うのと、やっつけるのとは、違うわけですが、多くの人たちが、今の民主主義で言っているのは、「やっつけることもいいことだ」ということです。それって、明らかにおかしいでしょう、ぼくらのような教育を受けてきた世代からすると。でも、僕らの言っていることの方が、少数派になりつつある状況を見ると、僕らの方が間違っているのかと思ってしまう。
今日のawe とか、ユニバーサリズム、グローバリズムという方向性から見ると、ずいぶん違う方向に、世の中はシフトしている。

~意識のパラダイムシフト~

山田:そのとおりですよね、本当にシフトしているんです。さっきおっしゃったように、科学的な知見で語れることと、精神世界的、形而上学的に、宗教も含めて語る領域というのは分けて語られているんですが、今のお話のように、競い合うのはいいけど、やっつけ合っちゃいけない、殺し合っちゃいけない、という線引きが、私たち人間にとってはすごく曖昧になっているような気がするんです。
精神の中で、なかなかコントロールできない状態にいるんじゃないか、と思うことがあります。それが、先ほどの Pale blue dotとか、ユニバーサルにとか、地球外に知的生命体が見つかったというときには、やっぱり、自分たちはそういうやっつけ合いをする段階から次の段階に行くんだな、というような意識が芽生えるのではないか、という希望を感じるんです。
それは、そういうときが来てみないとわからないことですが、そこには、希望を感じる自分がいるな、っていうのがあり、それが何かを生み出すのかな、と思いました。

縣先生:行き詰まるとパラダイム変換というのを求めるし、時代も、必然的にパラダイムシフトしないともう無理だっていう。帝国主義が変わっていくとか、共産主義の失敗とか、ペレストロイカなどを見ると、変換していかざるを得なかったわけです。そこには、当然、痛みを伴うわけです。
ガリレオやニュートンが言ったように、われわれはそのまま動く方に行っちゃうんですよね、それを突然、違う方向に行くというのは、ものすごいエネルギーと心の痛みが生じるんですね。そこで争いが起こりやすくなる。

そういうものを乗り越えていく上での、1つのパラダイムシフトは、かつて天動説から地動説に行ったように、宇宙の中で我々だけが(生命として)存在してるんじゃないんだよ、ということですね。宇宙は我々のものだ、なんて思っている人、いっぱいいますからね。
しかも大事なことは、長生き出来ないことには、そういう宇宙生命のグループに我々は入れないわけです、地球人というのは。だって、宇宙は広いし、時間経たないとコミュニケーションとれない。今この瞬間に、我々人類と同じような生命体がいたけど滅びた、とかどこかの星の恐竜が滅びたとか、わかんないわけです。

そういう存在は、我々の持っていない、知らない知見を持っているわけです。もうちょっと効率のいいエネルギーの創り出し方とか、産業とか生命に関わる何かとか。そういうことと、昔の人たちが宇宙を見て、神の存在を感じたというのは、科学的ではないけど、なんとなくつながるでしょ。そこには、何か我々を超えた存在がいるに違いない、という、誰が教えたのではなく、何となくそういう感じがわきあがってくる感覚がね。ある意味、それは、勘というやつですけど、当たることもあるし、当たらないこともあるけど、おもしろい話ですね。

小西:それが最近の天文学の発展で、勘が、科学的な知見としても裏付けられるようになった、ということなんでしょうかね。

縣先生:まあ、そういう期待をしてるんですけどね。期待をすることは自由なので、人間というのは、そういう自由が認められている生きものだと思うんですよね。今の時代が、行き過ぎたリアリズム、特に、若い人たちが夢や希望を描きにくい、自分たちのいいたいことを、なかなか言いにくい。
自由闊達な意見を戦わせ、深め合うために切磋琢磨する、そういうことが日常的に行われているような社会構造であれば、多少の不安定性があっても、継続する、長続きしそうなイメージがあるんですよ。
ところが、言論統制をして、何か言うと叱られて、叩かれて、炎上して、仲間外れになって、自殺願望になったり鬱になったり、ということを繰り返している世の中の構造そのものを変えないと、長続きしないんじゃないか。一人ひとりの個性ではなくて、社会の弱さじゃないですか、ということですね。

山田:確かにそうですよね。

縣先生:意識改革って、理想論があって、それにどう近づくかというプロセスをどう考えるかという話だと思うんですけどね。

山田:あのマークさんのコメントの中にも、理性と精神の統合が重要になってくる、ということが最後に書かれていました。理性の力で世界観を作ってここまで来たという認識をみんな持っていると思うんですけど、それに加えて、謙虚な気持ちとかさっきの畏敬、その先に何かあるのかもという、宇宙を見て神がいると思うような精神の力、人間とはその両方を持っていて、可能性の中に拓かれている存在なんだ、という認識を持てることが重要なんじゃないか、とマークさんはコメントされています。
今の先生のお話しをお聴きしていて、私もそうなんじゃないかと思いました。

~宇宙も生命も、謎だらけ~

小西:私も、以前の先生のお話で印象に残っているのが、最近でも転換点があったという話で、太陽系外惑星の発見という。ああ、そうか、この宇宙には地球のような星が、他にもたくさんあるのかもしれない、という、それが今の科学の主流になってきたというのが、すごく印象に残っています。
今日のお話でも、ユニバースは、まあこのユニバース何だけど、他にも宇宙はあるかもしれない。それが、天文学の方でも主流になってきたのではないかと。我々の存在が、すごく相対化されて、全体の中では一部かもしれない。そんな考え方が主流になってきたのかな、というのは、今日のお話をきいていて、感じました。

縣先生:ただ、いろんな科学者の中には、マルチバースっていういろんな宇宙があっていいんだけど、この宇宙というのは、まさしく僕らが存在するためにあるような宇宙という。要は、宇宙の誕生も生命の誕生も、あり得ない確率の話なので、あり得ないようなことが2つも起こるというのは、「あり得ない」の2乗ですから、それは何か意味があると考える人もいるわけです。そこにパラダイム変換の可能性が潜んでいるということも、あるわけですけどね。
深く考えると、わからないことがいっぱいあるし、うまく整合性がつかないこともいっぱい出てきますよね。宇宙の誕生の瞬間にしろ、ブラックホールの中心にしろ、わからない、特異点という言い方をしていますけど、まだ解明されていないですよね。

生命の誕生もそうですよね。今、一所懸命、小惑星リュウグウに行ってサンプル解析したり、アストロバイオロジーという分野がさかんで、生命の起源とか、宇宙にいる「宇宙生命」とかを考えるのが盛んになる時代になりつつありますけど、地球の生命がどこからやってきたのかは、未だにわかっていません。
まだまだ、「未知の大海原の前に我々は呆然として立っている」という、350年前にニュートンが言った言葉が、今でもまったく同じだと思います。

小西:その事実に対する謙虚さとか、畏敬の念を忘れない、ということがすごく大事ですね。

~生の体験が、意識変革を呼び起こす~

縣先生:ちょっと期待しているのは、前澤さんをはじめ一般の人が普通に宇宙に行く時代に去年からなったんですけど、丸い地球を自分の目で見る人に、いろんなタイプの人が増えてくる。立花隆さんみたいに優秀なクリエーターだったら、話を聞いただけで理解できるでしょうが、普通の人は、実感が伴わないと動かないとか、頭の中にそのことが固定されて核となるものになっていかないので。言葉だけ聞いただけで、グローバリズムだって、Pale blue dot messageだって、実感を伴うか、ということなんですね。
僕なんかも、日々新しいことに対面してチャレンジしていると、感じることがある、深まる瞬間がある。だから、深めていくというのは、どんどん体験していくことによるという時代になりつつある、というのは大きな意識変革になっていく可能性がある。
Aweというのは、心理学の分野でも脳科学でも研究が始まってはいるのですが、もうちょっと科学的にやらないとダメで、宇宙から地球を見ることだけがAweではありませんし、おそらくAweだけではすべては解決しません。もっと違う物を複合的にクロスして研究していかないと、今人類が抱えている閉塞感、将来が明るく展望できない状況を乗り越えることにはならない。
宇宙生命とか地球外生命体の発見というのは、1つの要因になるということは期待しているし、信じていますが、それ以外のこともいっぱいあると思います、物事を解決し、前に進めていくためには。

山田:いまおっしゃったことにほんとに同感で、体験とか実感することで、次の発想が生まれたり、感性を跳びぬけていく、「違うのかもしれない」と気づけたりすることって、たくさんあると思うんですよ。
今もこうしてZoomで話していますが、やっぱりバーチャルの世界、これが対面で話すとまた違った相乗効果が起きるんだろうなとか、感じる人は多いと思うんです。実際に宇宙に行く人がたくさんいて、丸い地球を見た人が、1万人の単位で出てきたときには、その方々は実感するわけですよね。実感した人と触れる人もまた増えるわけですね、実感した人の実感をこめた語りに触れられる人がまた増える、ということになると、そこで加速するんじゃないか、と想像がつきます。
今のようには海外旅行に行かなかった時代に、海外を地図で見ていた時代と、行った人から見聞を聞いたときの質感って、全然違うわけですから、それと同じようなことが起きる。そして、相乗効果的に我々の意識が拡大、というか深まっていくような気がしますね。
楽しみだなあ。そう遠くないですもんね、先生のお話をうかがうと。

~日本人は、星空が好き~

縣先生:まだまだ、お金持ちの人や、何千人の中から選ばれたJAXAの宇宙飛行士しかいけないけど、一方、私たちも、きれいな星空、宇宙を地球から見ることはできる。
月から地球を見た宇宙飛行士のAweのレベルを100として、地球の周りをぐるぐる回っている国際宇宙ステーションの若田さんのAweを60としたときに、きれいな星空やオーロラを見て、皆既日食を見て、大彗星を見て、星が雨のように降る流星群を見てという経験は、30くらいはあるかもしれない。
日本人の成人にマーケティング調査しても、1500万人くらいは、そういう経験をしたい、と希望していて、それは、成人の2割くらいです。その人たちが日常的に星空をみるようになると、いろいろ変わりますね。

というのは、プラネタリウムって日本にはいっぱいあって、来年でプラネタリウムができて100周年を迎えるのですが、全国に350~400館あって、そこに行く入館者数は、年間900万人もいるんですよ。こんな国はほかになくて、900万人というのは、サッカーJリーグのJ1の試合でスタジアムに行く観客数全部より多いわけです。プラネタリウムで星空を見る観客が、J1よりも多いということは、そのことによって今の日本の人たちが星や宇宙に興味を持つレベルをぐっと上げたわけです。
こんなにプラネタリウムが多いのは、1980年代以降なのですが、たとえば1986年に来たハレー彗星の頃の一般の人たちの宇宙への関心と、2000年前後のしし座流星群のときの関心と、はやぶさやはやぶさⅡが還ってきている今の日本人の宇宙への興味・関心レベルは、まったく違うわけです。そういうことがみんな、レイヤーで積み重なっていて、さっき言った我々のクリエーション、イノベーションがコミュニケーションによって伝承していくということになっている。

だから、日本人て、わりと草食系なんですよ。先日のオリンピック見ても、日本人て、向社会的な生き物ですよね。それは、そういうことも、多少寄与しているかもしれない。
星空見るとか、宇宙に親しくなるということで、向社会的で、あまり自分中心ではない、他者に対してやさしい気持ちを持てる人たち。
日本人って、もともと寛容な生きものかどうかはよくわからないんですが、もっと寛容な生きものに、われわれ人類は変わっていかないと無理ですよ、というのが今日の私の結論なんです。寛容な生き物にどう変わるか、ということが。
それは意識改革というか、本当に芯から変われるのかどうか。変われなかったら、そんなに長続きはしないのはほぼ明らかでしょう。恐いけど、そう思っています。

岡本:先生は、アストロツーリズムの推進もされていますよね、星空を見よう、という。また、コロンビアの少年ギャング集団がプラネタリウムに行って、変わったというお話もありましたよね。

縣先生:はい、前回、話させて頂きました。ですから、個人としても変わるし、社会としても変わっていく、その1つの要素になりえると思います。将来、次の世代、次の次の世代を考えたときに、どういうつながりを持つかとか、どのくらいがんばるかということだと思うんですね。

~意識が進化すると、ビジネスはどう変わるか~

小西:この意識の拡大というか、進化をしていくための要素として、ビジネスのあり方も大きいんじゃないかと思っています。今日、マークさんは来られなかったのですが、彼の意見としても、もう一回ビジネスのあり方の原点に立ち返らなきゃいけないんじゃないか、ということをおっしゃっています。
ビジネスの結果として利益が上がる、お金がもうかる、というはずなのに、結果が目的になってしまって、お金を儲けるためにビジネスをやるんだ、という方向に行き過ぎたんじゃないか、と。マークさんの言葉だと、もともとビジネスというのは、価値の提供、交換、循環をしていくサステナブルなシステムで、そういう、価値を生み出し続けるのがビジネスじゃなかったのか。それをもう一度やり直す必要があるんじゃないか、そしてそこにヒューマニティの要素を入れないといけないんじゃないか。このヒューマニティというのは、多分、人間のことだけではなく、もっと広く、地球のためのようなところまで含めた、人間の善き心、善性をも含めたビジネスを構築していかなければいけないんじゃないか、というマークさんからのメッセージを頂いています。

岡本:物質的充足から、精神的充足の時代です、と言ってくださっています。

縣先生:その変容は、すでに皆さん感じたり経験したりしておられますよね。特に、1995年以降くらいから、そういうことは顕著に起こっていて、若い人たちは、我々の世代みたいな、ある意味ベクトルがそろったような理想論・幸福論は考えていなくて、もっと幅広い自分の幸せ・社会の幸せを考える時代になりつつあると思います。物質文明だけじゃだめで、精神文明が大事だとか、ブータンの人たちの幸福度の高さが注目されたりとかね。
経済の仕組みがこの社会を大きく作っています、規制しています。それが、足枷、束縛条件になっています。今日は、経済が変わることによって我々の意識変容が起こるのか、それとも我々が意識変革しないと経済が変わらないのか、どっちなのか、を訊きたかったんです。
圧倒的に経済に支配されているんですよね、我々は、お金に。お金が一番偉い世の中を、我々は作っちゃったわけです。明らかにおかしな話でしょ。でも、抵抗できないんですよ、給料もらって生きているし、会社は会社で、利益あげないと従業員や株主に怒られる。みんな、生きるために必死なわけで、金を稼ぐために必死な世の中にしちゃった我々の原罪というのは、我々を滅亡に導く最大のトリガーなのか、それを乗り越えるパラダイムシフトは起こりえるのか。
今、ウエイクアップさんでは、それをどう考えておられるのか?

~ウエイクアップは、これからどうしていきたいのか~

小西:私の肩書であるCXO、チーフ・トランスフォーメーション・オフィサーの、トランスフォーメーション、変容というのも、そこに楔を打ち込みたい、というところがあります。
今、いろんな企業でも、「パーパス経営」を改めて掲げて、利益も大事だがその前にそれぞれの会社がどんなパーパス、どんな価値を生み出す組織だったんだっけ、と再定義をし始めています。それをもとに、組織運営をしていこうというように、少しずつ、質の転換が起き始めているのかなと思います。
そこに、ウエイクアップとしても貢献をしようということで、コーチングをベースにしてサポートさせて頂いたりしています。そういうふうに気づき始めた企業様をサポートすることで、資本主義全体をガラッと変えるところまで行ければベストですが、そんなことを起こしていきたいと思っています。

~意識の変化と経済の変化~

山田:ちょっと加えて言うと、今の先生の問いは、経済が変わるから意識が変わるのか、人の意識が変わるから経済が変わるのか、ということですが、僕は、両方が少しずつ絡み合いながら変化を遂げていって、最終的なところに変化を導くと思っています。
今、小西が話したのは、精神的な部分が変容することでビジネスの仕組みを変えていくという可能性があるので、その精神的な部分に働きかける。目的意識とか、関係性を大事にするとか、そういうところをもっと重要視しませんか、という投げかけなんですね。それは、これまであまりやられてこなかったことだからこそ、やっていこう、ということです。

もう1つ、仕組みの部分、経済の仕組みというものがどう変わっていくことも、人間の意識を変えると思うんです。お金というものが介在することで回る経済をつくってきたわけですけど、お金というものを介さない経済の仕組みとか、国家が発行するお金、貨幣というものを超えたお金の仕組み、それは今、ブロックチェーンとかいろんな技術によって、国家が統制していない中でのやりとりができる、ということも今後かなり進むと思われます。お金という既成概念から外れるような仕組みが、技術の力で生まれてきたときに、人間は、お金というものから距離をおいて自分を見られるようになるかもしれない、というのも感じるんですね。
だから、両方相まりながら進んでいくんじゃないか、というのが今感じているところです。

縣先生:難しい取り組みだとは思いますが、どれだけ多くの人がそういう方向に意識を変えていくのかということに、我々の命運はかかっているように思います。知的生命体が見つかる、ということより、そっちのほうがよっぽど大きいと思うんですが、僕はそこにほとんど寄与できていないので・・・。
たとえば、国ごとにお金を管理しなくていいというのは、どのくらい先の想定になっているんですか?

山田:僕も専門ではなくて、専門家の人たちとの議論の中で感じたことなのですが、100年先とかではなく、数十年のスパンの中で起こり得ることだとは言われているようです。

縣先生:数十年、それはありがたい。産業革命のあと、交通手段はどんどん進歩して、航空機であれ、リニアモーターであれ、よその土地に行くのはずいぶん楽になりました。 また、IT革命によって、フェイスブックでもZoomでも海外の知人と普通に会話する時代になりました。
ですから、お互い競い合うというようなスポーツマンシップとか、いろんな文化の交流、お互いに頑張り合うというのは残しながらも、言語が統一されるとか、貨幣も国ごとではない、つまり長野県と新潟県で違う貨幣を使っているとか、違う法律を使っているとか、違う君主を仰いでいるとかはもう400年前に終わっているわけですから。
言葉は翻訳機のおかげで、ずいぶん状況が変わって、この数年間ですごいストレスがさがっていますが、貨幣があと500年この様子だと持たない、と思っていました。SDGsだって、2030年までにやんなきゃだめだ、と言っているわけだから、こんな状況があと500年続くとはとても思えないので、「数十年で変えていく」というタイムラインで我々は行動しないとやばいんじゃないでしょうかね。それをもっと明確に打ち出していってほしいと思います。

小西:2030の次のゴールを作っていかないといけないですね。

~私たちの2050年に向けて~

縣先生:皆さんは、2050年を想定して、いろいろプログラミングされているんですよね。

小西:まだプログラミングまではいかないのですが、2050年から考えようよ、ということを、今始めている、ということです。

縣先生:大事なことですよね、ぜひいろいろ、インフルエンスしていただけるといいと思います。

小西・山田:ありがとうございます。

岡本:2050年の話がちょうど出たので、視聴していただいている皆さまにも、問いを1つお渡ししたいのですが。
このウエイクアップ・フェス全体でお渡ししている問いで、2050年に向けて
「あなたはこれから、どんな一歩を踏み出しますか?」
というものです。
各SNSで、#WUフェス、#2050年への一歩というハッシュタグをつけて投稿していただければと思います。

この講演を機に、2050年に向けて社会が少しずつ変わっていくための動きを、聞いてくださっている方一人ひとりがやっていくと、変わっていくんじゃないか、さらにその投稿を見た皆さんにも波紋が広がっていくんじゃないかということを、願っています。

山田:先生も、聞いてくださった皆さんも、ありがとうございます。
僕の感想を一言でいうと、「希望」です。希望なくして何ごともスタートしていかない。人間の心に希望がある限り、どこかにたどり着くんだと思いますが、その希望の種が、どこから生まれてくるんだろうか、その希望の灯をともしてくれるものは何かなっていうときに、今日の縣先生のお話の中にあったさまざまな視点、それから生命体の発見とか、それはきっと大きな灯になる、希望の種だろうなと思って、僕の中にも、希望がさらに広がりました。
そしてそれぞれの持ち場で、その希望がふくらむような働きかけを、日々やっていこうと強く思いました。ありがとうございました。

小西:今日の縣先生のお話の中の、畏敬の念というのを、改めて大事にしたいなと思いました。Pale blue dotの地球、宇宙のはての小さな点としての地球、その上で生かされている自分という、畏敬の念を大事に、そして広げていくようなことをやっていきたいなと思っています。ありがとうございました。

縣先生:今日は、本当にありがとうございました。ウェビナー形式なので、参加されている皆さんのお顔もお名前もわからない状況なので、どんな方が聞いてくださっているのかな、と想像しながらだったのですが。
僕は、自分自身に対してもなのですが、謙虚な人間でありたいなと思っているんです。謙虚な人間というのは、周りの人に対する思いやりや寛容な心があるということ。それは今日お話ししたように、星空を見るとか、皆既月食を見るとか、また将来チャンスがあれば宇宙旅行するとか、そういうことによっても強化されるのは、ほぼ間違いがないことです、科学的なデータの解析からも。
ですから、皆さんぜひ星空や宇宙に親しんでいただいて、そのことは、遠い将来、我々の未来に対して目を向けるということに非常に似ている試みであり関連性が強いので、この時代、特にSNSの時代に、謙虚になるということ。
どうやって自分を認めてもらうか、人から「いいね」もらうのにしゃかりきになっちゃうような人が多いような時代に、相反することを言っている気がしますが、でも、謙虚さって、すごい大事だと思うんです。自分をアピールすることと、謙虚であるということは、全然相反することではなくて、それは生き方なので、年収とか社会的地位とかを乗り越えてできる人間としての生き方ですので、皆さんと少しでも共感できればうれしいと思います。
今日は、どうもありがとうございました。

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