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「根っこにある死生観を みつめてみて欲しい」 イラストレーター光澤裕顕さんに聞く 『死生観光トランプ』を通して表現したかったこと

こんにちは!ワカゾーの霍野(つるの)です。多くのご支援、本当にありがとうございます。

さて、『死生観光トランプ』は、世界各国の死生観や弔いの作法をイラストとキャッチコピーで紹介したトランプです。全国各地のお坊さんや仏教を愛する方、総勢14名の方々にイラストを描いていただきました。そこで、『死生観光トランプ』イラストレーターの方々に、描いてみた感想や、イラストに込めた想いなどについてお聞きしました。

今回は真宗大谷派の僧侶で、マンガ家の光澤裕顕さんにお話を伺いました。聞き手はワカゾーの藤井智子(ふじいさとこ)、書き手は霍野です。

智子:普段は何をされてらっしゃるんですか?

光澤:今は、僧侶として東本願寺の大谷祖廟に勤務しています。亡き方の骨を預かったり、納骨堂の管理など、事務的なお仕事をさせてもらっています。

智子:イラストのお仕事もそちらで?

光澤:東本願寺の職員としてイラストを描くお仕事はあまり多くありませんが、個人的にイラストやマンガのお仕事をいただいたり、宗派を超えた僧侶たちが中心となって活動するフリースタイルな僧侶たちなどでもお手伝いしています。昼は東本願寺の職員で、日が暮れてからは作家業という感じです。

智子:そうだったんですか、全く違う分野で両立は大変じゃないですか?

光澤:そうですね。でも両輪のようなところもあるかもしれません。大谷祖廟は、いわば、お墓所です。お墓所に勤めていると、亡くなった方のご遺骨をお預かりするわけです。一つ一つのお骨に、その人の人生や家族の物語を感じる。ご家族とお話していると、この人はこんな人だったのかなとか、色々と想像します。

亡くなってお骨になっているんだけど、その人と出会えているなと感じることも少なくありません。とっても良いお仕事をさせてもらっているなって感じていますよ。

智子:素敵ですね。そんな想いをもった職員の方にお骨を預かって欲しいです。私は、光澤さんが描かれる世界観が好きです。あの世界観はどうやってインスピレーションを得るんですか?

光澤:私は仏教系の大学には行かずに、大好きだった絵の勉強をするために、京都清華大学のマンガ学部に進学しました。マンガ学部のなかでもカートゥーンコースを専攻しました。

智子:カートゥーンですか?

光澤:いわゆる風刺画です。風刺画は、ユーモアたっぷりに描いたり、誇張表現をすることが大事とされます。今日主流のストーリーマンガの基礎だと言われていたりするんですよ。

智子:マンガ学部出身だったのですか!!珍しいお坊さんですよね!?

光澤:そうですね、珍しいかもしれませんね(笑)。カートゥーンは伝統的にとても「線」にこだわる学科で、自分の線をつかむのは人生の財産になるとまで言われました。でも自分の線は簡単に身につくものじゃない。練習に動物園や街なかに行って、対象を線だけでよく描いてました。量を描けば絶対に上手くなると言われて、京都の街中をペン片手にウロウロして、ひたすら描いてました。5分くらいでササッと描く。そんな練習のなかで対象を単純化させて、身体やモノのパーツを流れとしてとらえながら描けるようになりました。

智子:見える方には見えるのですね。色々な絵を今まで描かれてきたと思うのですが、光澤さんが絵を通して伝えたいものってどんなものなんですか?

光澤:仏教の面白さを表現したいと思っています。仏教が人生の指針となる教えであることは間違いないけど、私は仏教のエンタメ性を表現したい。例えば、お経もストーリーがあるわけです。『仏説観無量寿経』の「王舎城の悲劇」なんて、人間ドラマとして構成もピカイチです。お釈迦さんやお弟子の話にも、とっても豊かな物語があります。そういう面白さ、物語性、魅力を伝えたいです。

智子:マンガを専攻していた光澤さんらしい視点ですね。

光澤:どうしても真面目だったり重々しいイメージだけが先行してしまうかもしれませんが、仏教やお寺はユニークな点も多いです。お寺を巡っていると、色んな動物がいることに気がつきます。ひょんなところに像が描かれていたり、猫がいたり、天女が舞っていたり、ささやかな遊び心があります。

智子:西本願寺にも埋木がありますけど、そういったものですか?

光澤:そうそう、そういったものです。

智子:職人さんや大工さんの遊び心が粋だなって感じますね。

光澤:それと、この前、ふと思ったんです!お寺の庭に天日干しされている、台所道具たちが無性に可愛かったんです(笑)。
             
智子:なんと(笑)!

光澤:お寺で大きな法要をつとめるときは、ご門徒さん、お檀家さんたちがお手伝いにきてくれます。みんなで食べる食事をつくってくれるんですけど、そこに並ぶ、年季の入ったまな板にキャラクター性を感じたんです。

このまな板たちは、何代も受け継がれてきて、ずっとこのお寺で長年使われ、多くの人が触れて歴史をつくってきた。そんなまな板が並ぶ姿が、ちょっと妖怪のようにみえきて(笑)。長く使ってきたものは時を重ねるにつれて妖怪になるって昔の方が信じていたのが分かるような気がしました。今まで考えもしない物語を感じて、愛おしくみえてきたんです。伝わります⋯⋯(笑)?!

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智子:あの素敵なイラストの世界観はこの豊かな感受性から生まれているかと痛感しました!今回「死生観光トランプ」については描いてみてどうでした?

光澤:死の捉え方や弔いの作法は、国や文化によって全然違うこと衝撃をうけました。

智子:例えば、どんなものですか?

光澤:描かせていただいたジプシーの死生観。仲間が亡くなったら最初からその人はそもそも生きていなかったことにする、と。日本人がなんとく共有している「死んだ人は見守ってくれている」という死生観からは出てこない発想だし、私たちが抱く死生観も当たり前じゃないんだなと気づかされました。

智子:本当ですね。そういう感情や気づきってイラストにも反映されますか?

光澤:はい、感情は線に反映されますね。そのときは精一杯一生懸命描いてるんですけど、後々見返していると、このときはテンションが高かったんだろうなとか、これは無理して描いているなとか感じます。『死生観光トランプ』はとっても楽しく描かせてもらいましたよ。

智子:嬉しいです!色んな感情や気づきをもちながらイラストを描いてくださったんですね。

光澤:葬儀や納骨の方法など多様化するなかで最近は色んな選択肢がでてきました。それはそれで大切なことだとは思うんですが、方法だけを考えるのではなく、その根っこにある死生観を見つめることも大切だと思います。自分の死生観を問う。そんな機会をつくるお手伝いになっていればすごく嬉しいなと思います。

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智子:ありがとうございます。最後に『死生観光トランプ』を手にとってくださる方々に一言メッセージをお願いできますか。

光澤:今回は14人の方々がイラストを描いたと聞いています。是非1枚1枚を手に取っていただき、描き手の想いやメッセージを感じてもらえたら嬉しいです。とはいえ、なによりも、楽しく遊んでもらえたら最高ですね。

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光澤 裕顕(みつざわ ひろあき)
1989年新潟県の寺院に生まれる。京都精華大学マンガ学部マンガ学科卒業後、大谷大学短期大学部で仏教(真宗学)を勉強し、2013年に真宗大谷派東本願寺入所。現在は大谷祖廟事務所に所属。マンガ家・イラストレーターとしても作品発表を続けている。
▶光澤さんのTwitter
▶光澤さんが漫画家・小林ロクさんと対談している『フリースタイルな僧侶たち 56号』


聞き手:ワカゾー 藤井智子
書き手:ワカゾー 霍野廣由

ただいま『死生観光トランプ』クラウドファンディングの真っ只中です。多くの方に死について考える機会をもってほしい。日常に「死」がじんわりと溶けこみ、遊ぶように死について考えることができるようになればと夢見ています。応援よろしくお願いいたします。


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