2024年度春学期 研究書評

みなさんこんにちは!こちらの記事では研究書評についてまとめていきます。


7/4研究書評

今回の文献は桑島 浩彰(2022)「米国における産業クラスターの発展―ケーススタディ1:サンディエゴ」と高橋()「シリコンバレーの歴史的形成と地域的特徴」です。今回の文献はネット記事によるものなので2つほど選んでみました。選択理由としては掲載とっくにおける集積の効果を最大化させるための条件について検討する必要性があると考え、今回はアメリカの事例を複数個比較させることで共通する条件を見つけるべく選択しました。

要約
2つの記事においてサンディエゴとシリコンバレーがなぜ発展してきたかについて歴史に沿って紹介がなされているので各地域ごとに分けて述べたいと思う。
サンディエゴ
サンディエゴは、カリフォルニア州南部に位置する世界有数の産業クラスターである。産業としては、軍需関連、観光、国際貿易、研究開発及び製造業の規模が多く、歴史的背景から見ても軍需産業及び軍事拠点としての軍港によって発展したことがわかる。第二次世界大戦後連邦政府に勤めていた研究者や科学者が多く移り住んだことが発展のきっかけとなり、冷戦の終結に伴い軍需依存型都市から自立型経済構造への転換が進められてきた。また、研究者が多く活躍したことにより研究機関の増加及びそれに付随する産学連携が産業クラスターの発展を活発化させる。また地理的条件としてロサンゼルスから車で1時間という好立地や温暖な気候、豊かな自然環境などの良質な生活環境が人材の長期的滞在を促したとも考察されている。
シリコンバレー
シリコンバレーも同じく、発展のきっかけは軍需産業であったとされている。太平洋戦争によりアメリカ西海岸は戦場に向けた重要な玄関先であった。そしてその発展には「シリコンバレーの父」と呼ばれるターマンがもたらした影響が大きいとされている。彼はスタンフォード大学に所属し、キャンパス内に工業団地を作ることにより産学連携を可能にし軍事関連の多額な研究資金を地元企業やスタンフォード大学に呼び込む流れを作ったとされている。また、他の記事によると同地域はサンフランシスコから約50キロと都市近郊に位置しサンベルトと呼ばれる温暖気候に属すことから電気代・土地代が発展前は安価であったなどの地理的条件も影響していると考えられている。

まとめ
これらの文献から都市の共通点として、軍事産業がきっかけとなり発展したこと(特に軍港としての役割が大きかったこと)・都市近郊に位置すること・温暖気候であること・産学連携が取れていることなどが挙げられる。以前中国の経済特区の事例を取り上げた際も海岸沿いの地域、港が中心に選ばれていたことからも、国内インフラだけでなく貿易を目的とした海外とのインフラの拠点となることが重要な項目であると考えられる。また、これらを日本に置き換えた時どの地域が有効であるのか、自身の研究において政策提言を行う際参考にしたいと考える。

今回の記事は以上でおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
高橋信一. (2011)「シリコンバレーの歴史的形成と地域的特徴」岐阜経済大学地域経済研究所、特集: 社会的共通資本と地域再生 第30集


6/27研究書評

今回の文献は杉之原真子(2021)による「近年の対内直接投資規制の動き:日米の事例から」です。選択理由は先週の文献において対内直接投資が増加傾向にあることと、日本の課題展として人材不足(外国語によるコミュニケーションの困難さ)や行政の手続きの簡素化が挙げられることがわかった。しかし、対内直接投資に関する国際比較では他の英語を公用語としない国よりもランキングが著しく低かったことから、人材不足が第一の要因ではないと考え、直接投資を増やすには何を改善すれば良いのか再考するため本文献を選択しました。

要約
世界における対内直接投資の動向については通信技術の発展などから1990年代以降に著しく増加しつつある。特に21世紀に入り西側先進国だけでなく中国などの新興国からの投資も拡大した。伝統的に投資受け入れ国側には自国の技術流出や国家安全保障上の懸念、外国企業による経済の支配の懸念が長く持たれていたものの、それ以外の経済成長や雇用の拡大に果たす役割も広く認識されるようになった。そのため、政策決定者は期待される経済成長のような自国への利益と安全保障上の懸念とのバランスを考慮することが非常に重要になる。加えて、外資の進出によって競争にさらされる同業種の国内企業からの抵抗によっても政策決定が影響を受ける可能性がある。
次に対内直接投資の規制の実例として日米の事例を取り上げられており、今回は日本の事例に焦点を当て述べる。日本では2003年から対内直接投資の増大が制作目標に掲げられてきた。その一方で2007年からは安全保障関連規制の強化も進んでいる。以前から外国為替及び外国貿易法において安全保障関連業種への外資による投資は届出審査が義務付けられていたが、2007年以降対象業種の拡大が進んだ。これに加え、2019年の外為法の改正による届出の対象となる投資がガブ式の10%以上から1%以上に変更されるなど範囲は大幅に拡大された。このような規制の背景には2000年以降に起こった敵対的買収の発生に対する警戒があったと考えられる。これらの憶測が広がれば制作目標に反して、投資意欲の低下を引き起こす危険性もある。そのため今後は一律に投資を制限することなく個別対応を可能にするべきであると著者は主張している。

まとめ
今回の論文から、外為法による規制が対日直接投資を妨げているのではないかと考察できた。今回の記事は直接投資に対する規制の緩和つまり、マイナスの現状をゼロにすべきだという主張であったが、それ以外にも投資を促すために外資企業に対し何らかのインセンティブを提供する(ゼロからプラスへ)といったような対応も行うべきであると考える。(具体的事例としてはTSMC社に対する日本政府からの補助金、関税の免除など)

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

6/20研究書評 

今回の文献は木下茂(2023)による「最近の対内直接投資の動向」です。選択理由は先週まで政策過程における分析を行なってきたため、今週は内容指向型の分析を進めるため本文献を選出しました。特に自身の研究では特区政策がなぜ有効に働かないのかという問題の仮説として1FDI(海外直接投資)が有効に行われなかったこと 2 集積の効果が見られないこと 3 先端技術に焦点が当てられなかったことが挙げられました。そこで今回は近年のFDIについての動向を分析し何がFDIを行う上で障壁になるのかを把握し今後の研究に繋げていけたら良いと思います。

要約
政府は2023年11月「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を閣議決定しコストカット型経済からの30年ぶりの変革を果たすチャンスとなっている。特に本政策の「競争力強化・高度化に資する国内投資を促進する」という目標の「対日直接投資の推進」の項目も注力されており、国全体の資本を拡大させることでイノベーション力向上に繋げるとの内容も盛り込まれている。具体的な目標値として「経済財政運営と改革の基本方針2023」では対内直接投資残高を2030年に100兆円(2022年の2倍以上に相 当)まで増やすという目標が設定されている。
では実際の動向はどのようなものであるのか。日本と世界の動向に加え日本の課題点をまとめていく。まず、日本の対内直接投資の現状であるが、2021年から22年にかけて増加の傾向にある。等に20年以降は非製造業の増加が全体の押し上げに寄与しているものの、直近のデータでは製造業の増加も目立つ。長期的な視点で見ると2011年、2012年時にマイナスを記録し、それ以降は上昇傾向にあるといえることや、コロナ禍である2021年に急激に増加傾向にあることなども明らかとなった。(円安に転じたことが要因では?)また、地域別動向によると北米とアジアからの定期的な投資が流入していることが明らかとなった。
これに対し、世界の動向としては2015年をピークに減少傾向に転じている。アジアや北米では安定的に推移しているものの欧州圏では落ち込みが目立つことがわかる。また、アジアについては中国向け投資が2021年から減少に転じたことにより日本を含む他の地域へのシェアが拡大しているのだと著者は考察している。
最後に日本の課題点であるが、現在の日本の直接投資増加の背景として、1継続的な円安の影響 2地政学リスクの高まりから企業がサプライチェーンの再配置を行なっていることが考えられる。一方で日本への直接投資は国際比較では低水準位止まっている。この背景的要因として1制度的障壁 2言語的障壁 3 商習慣の相違などが挙げられる。(近年の増加傾向はこれらを凌駕する円安の力によるもの)JETROの調査によると外資系企業にとっての障壁に関するアンケートで「日本でのビジネス活動にあたり、特に改善を期待する項目」を尋ねたところ25.5%が人材確保、14.4%が行政手続きの簡素化・デジタル化、9.1%が外国語のコミュニケーションという結果となった(上位3項目)特に人材確保の項目では3つ目のコミュニケーション能力の不足を重複する面や、少子化等による若手人材確保の問題など人材の質が問われている。加えて、行政手続きに関しては捺印の必要な書類が存在する等の慣習の相違に関する問題や手続きが複雑であることに加え透明性に欠けるとの声も存在した。

まとめ
今回の文献により、対内直接投資が増加傾向にあることが明らかとなり、今後も円安傾向であることから減少に転じることは少ないと考えられる。しかし、今後も超円安を記録していくことは日本経済にとって高リスクであることに加え、円高になるという予測も一部で立てられている。そのため本文献で挙げられた人材の質と行政手続きの簡素化を進めていく必要があると考える。加えて。その他の対内直接投資に関する具体的政策とその効果についても考察を深めていきたい。

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
木下茂「最近の対内直接投資の動向」一般社団法人 JA共済総合研究所、共済総研レポート No190(2023.12)

6/13硏究書評

今回の文献は田中秀明()による「第2次安倍政権における政策形成過程のガバナンス ―コンテスタビリティの視点から―」です。
選択理由は前回の文献から、国家戦略特区を指導していた安倍内閣下では政策決定下においてトップダウン式のガバナンスを取ることの一定数の根拠は認められるものの、結果的に国がイニシアチブを握るという結果となった。そこから、民間・政府・地方行政という3者の間でどうすれば対等な議論を行うことができるのかというガバナンス面での仕組みづくりが必要であり、それに関して考察を深める必要があると考え本文献を選出した。

要約
本文献では第二次安倍政権の各政策の政策形成過程におけるガバナンスについてrの検討がなされているが、今回は抜粋し、全体に共通する第二次安倍政権下の特徴と獣医学部設置に関する規制改革におけるガバナンスの問題について述べる。
55年体制を代表とする従来の日本の政治システムでは、族議員、官僚、利益団体の3者が鉄のトライアングルを作り連携して政策形成を行っていた。しかし、第二次安倍政権では従来の意思決定プロセスが維持されているものの総理大臣の方針を妨げるものではなく、安倍一強の体制が作られたと言える。これは政治的安定をもたらしたものの、政策形成過程が劣化したと著者は主張している。そこで本文献ではガバナンス面に着目し小泉政権などとの比較により政策過程を分析している。
ガバナンスとはworld bank(1992)によって「一国の経済的・社会的資源を管理・運営するに当た り行使される権限の有り様」と定義されている。加えて同機関は「グッド・ガバナンス」として予測可能な、開放的な、啓発する政策立案、専門的なエートスをもつ官僚制、その行為にアカウンタブルである執政府、 公的な問題に積極的に関与する市民社会、法律のルールに従う行為などの要素が必要であるとしている。加えて、著者はコテンスタビリティの視点が重要であるとし、文献内において政府内外で政策をめぐって科学的な分析・検証、現行制度や提案の評価、選択肢の検討などが行われて競争が起こる状態と定義している。これらのガバナンスの視点から第二次安倍政権を分析したとき、特徴として制作の取捨選択が明確であることが挙げられる。これは首相官邸が重要であるとした政策においてはトップダウンの体制を用いてイニシアチブを獲得したためである。
規制改革に関連する取り組みとして国家戦略特区が挙げられるが、農業、民泊改革などで一定の成果はあったものの、医療や福祉、雇用など「岩盤」と言われる規制についてはそれほど進歩していないとされる。特に獣医学部新設に関しては選定プロセスと獣医学部などの設置に関する規制という2つの問題が交差しているとされる。選定プロセスに関しては事実上加計学園が有利になる条件が政府主導で決められたことや情報公開の不足などが挙げられる。また獣医学部設置の規制に関しては文科省告示の認可の基準に関する規制(法的根拠がない役所の裁量行政)が存在していることからそもそも大学を審査の対象としていないことが問題とされている。そのため安倍総理はこのような岩盤規制を改善すべきであったが、実際には既得権益に考慮した政策しか実現されなかったこととなる。
加えて、第二次安倍政権下では諮問会議等の会議体がそれ以前と比べ4倍になっているもののその多くが法律設置でなく閣議決定などで設置されたものとされる。(小泉政権で発足した経済財政諮問会議は法律設置)そして主に総理や官房長官が長としてイニシアチブを獲得している。
これらを踏まえ、小泉政権との比較すると①結論が先に決まった政策であること②省庁の大臣や官僚、与党の政策部門にいる議員たちの影響力の低下が差異であるとされる。

まとめ
第二次安倍政権はグッド・ガバナンスの定義である開放的であること、法律のルールに従うということという2点に反しており、開かれた競争の場、コテンスタビリティの視点が喪失していることがわかる。そのため定義に基づいたガバナンスの追求が必要であると考える。また、首相官邸に権力を集中させないこととその他組織が鉄のトライアングルを形成することを防ぐことを両立させるためにはどのようなガバナンス管理を行うべきかも重要であると考える。
しかし、政策形成下の考察を行う一方で自身の研究の方向性と乖離した、目的を見失った研究を行なっている気がするので、客観的視点を忘れず研究を行なっていきたい。

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
田中秀明. (2019). 第 2 次安倍政権における政策形成過程のガバナンス―コンテスタビリティの視点から―. 年報行政研究, 54, 57-82.

6/6研究書評

今回の文献は服部敦(2013)による「国家戦略特区がはらむ諸課題への考察〜地方分権・情報公開・政策参加への逆行の懸念〜」です。選択理由は自身の研究に産業集積政策における政策過程の考察が必要であると考えたため、以前から対象としていた国家戦略特区に関する政策プロセスの批判の記事を取り上げました。

要約
本文献では国家戦略特区の政策プロセスにおいて地方分権・情報公開・国民の政策参加(パブリック・インボルブメント)の3つの観点が従来の流れに逆行するのではないかという意見が出ていることから今回の法制度の特徴やその懸念転移ついての考察が行われている。なお、分析対象としては国会提出時点までとされている。
まず、第一の懸念点として政策過程の不透明さが挙げられる。特区WGにおいて規制の特例措置についての検討がされる一方で、募集対象の評価をどのように行うのかやヒアリング対象をどのように選択したのかについての説明がなされていない。加えて、特区会議そのもののあり方について議論された過程は見られず、今回の特区WGでは有識者会議を設けていることから自由な議論を活発化させる一方で恣意的な偏りを生じさせる危険性も孕んでいる。このことから従来の特区政策に倣い、情報公開の必要性は十分に存在する(2024年現在ではWG議事録資料などの情報公開がなされている。変更になった経緯は?情報公開がなされた後どのように変わったのか)
第二の懸念点は地域の主体的な政策決定が行われない危険性である。本政策では国主導を特徴としたトップダウン式の政策が行われている。従来の地方主導のボトムアップ式の政策では時間経過につれて地方からの提案が減少し有効な策が提案できなくなっていたためだ。しかし、今回の政策では国主導という条件をとったために地方公共団体との権力格差が生まれてしまう危険が浮上したのである。実際、当時の毎日新聞の報道によると、政府及び与党間の調整において自民党の一部から地方公共団体が「拒否権」を行使するのではないかという反発が出たという。ここから法案に「三者が密接な連携のもと協議する」との文面が付け加えられたことからも地方公共団体を抑圧する流れ、国がイニシアチブを握ろうとしていることは明らかだ。
第三に従来の政策で効果を上げてきた取り組みが形骸化されてしまうのではないかという懸念である。霞ヶ関では前例主義が支配しており一旦制定されてしまえば、今後同様の仕組みを組み込むことが容易になってしまう。その際、今まで行われてきた提案募集型政策の意義が形骸化され従来の地域振興計画の時代に逆戻りしてしまうと著者は懸念している。

まとめ
今回挙げられた3つの懸念点は政策評価が可能となった現在も問題として挙げられている内容である。情報公開責任については言わずもがなではあるが、第二の地域の主体的な参加が行われない危険性については議論の余地があると感じた。本政策では従来のボトムアップ式の政策では勢いのある経済成長を促すことができないと考えられ、トップダウン式のスピード感のある政策に移り変わったという経緯がある。そこからどうやって民間・政府・地方行政という3者の間で対等な議論を行うことができるのかというガバナンス面での仕組みづくりが必要だったのではないか。もちろん著者が言うように提案募集型にも有効性があるのは理解できるが、国全体の経済成長を考える上で国が主導権をとる必要性も出てくるのではないか。その時に有効な意思決定ができるようにはどうすれば良いかを考える必要がある。(トップダウンデモクラシー?トップダウンとボトムアップを柔軟に取り入れる仕組みづくり)権力施行の方向性はどうなっているのか、それどうやってフラットにしていくのか?

今回の記事は以上です。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
服部敦. (2013). 国家戦略特区がはらむ諸課題への考察~ 地方分権・情報公開・政策参加への逆行の懸念~. 公益財団法人中部圏社会経済研究所 『ディスカッションペーパー』, (2).

5/30研究書評

今回の文献は安田信之助(2015)による「日本経済の再生と国家戦略特区」です。選出理由は自身の研究において集積の効果が期待できる特区政策の分析を行うことにより日本経済の活性化ができると考えているが、既存の特区政策において何が問題であったかを洗い出す必要があると考えた。中でも国家戦略特区は経済成長を目的として立案されながら、結果的に地方創生政策に移り変わったことや政策プロセスの不透明さなどの諸問題を孕んでいるため、制作過程論からの分析意義があると感じたためである。

要約
国家戦略特区は特定事業につき規制措置の特例が適用される地区を指す。この特例とは規制緩和や適用除外等を指し、本来の規制の例外措置となる。(本来の規制は制作目的を財政措置なしに実現する手段の一つ)英国会計検査院は手段の方策を政府の介入レベルで分類しており、国家戦略特区は主に金融措置などを行い経済活性化を促すため、比較的市場による解決を促すものだとされる。(市場原理の誘因付与)加えて、特区制度では規制緩和が前提となっており、これは本来の規制の意義に対し特区内で規制目的に無関係である場合、もしくは関係があっても費用対効果で規制緩和をした方が国民経済に望ましい状態が実現される場合に公共政策としての必要性が生み出される(→規制によって本来得られる利益を失っても規制緩和した方が効果的である場合適用されるということ)
そして、いくつかの特区制度から運営方針や政治的思惑の変容などが受け取れる。第一の構造改革特区は当時の小泉政権が新公共経営(NPM:民間経営手法である市場原理・顧客志向・分権化などを公共事業において取り入れること)を初めて公式に利用した例であった。次の福田政権では地方再生戦略としてNPMの基本原理を修正したPG(政府などの公的機関が適正に運営されるように受益者である国民が公的機関の意思決定を規律付けること)の考え方が取り入れられている。


5/23研究書評

今回も前回の続きとなります。

要約(1章)
第一章では主に決め方の科学についての見解が述べられており、意思決定論の見識が必要不可欠である。なぜなら政策科学は記述主義+未来志向であるためだ。これは過去の分析+未来の状態形成によってより良い未来の創造をするという公共選択を思考する学問ということだ。意思決定とは与えられた目的に対する最適な手段を選択することであり、選ばれた手段が必ず良い結果をもたらすとは限らない。しかし、価値判断基準や未来に関する情報とその判断から、目的に対する最も良い結果が得られる可能性を論理性高め決定することが良い意思決定と言える。この意思決定の手法が政策提言下にも利用されることとなる。ハロルドラスウェルは政策科学を「公共的及び市民的秩序の意思決定プロセスについての(of)の知識及びそのプロセスにおける(in)知識に関わるもの」と定義している。また、意思決定を行うプロセスとしてハモンド・キーニー・ライファはPrOACTという5つの要素を挙げている。問題・目的・代替案・結果・トレードオフである。まず、意思決定の前には意思決定を行わねばならない必要性が生じている状況がある。なぜか?→理想と現実とのギャップが生じているためそれを埋めようとする意識があるからだ。意思決定の出発点は現実(問題)の発見と理想(目的)の設定なのであるそれに対して代替案を客観的かつ論理的に分析し、結果を評価するというプロセスが求められる。また、意思決定の技法としてOR(オペレーションズリサーチ)や経済学、統計学等で構築された理論を応用することができる。
また、政策科学では政策体系に必要な立案部分を論拠づけるための科学的分析と過去の政策が設定させる過程及びそれを取り巻く社会構造を研究することが求められる。そのため、意思決定を行う前に結果を予測するためのシミュレーションを行う必要がある。そのためにはシステム的アプローチを取り入れたシミュレーションの実施が必要になる。

本日の記事は以上になります。最後まで読んでくださりありがとうございました。

5/9 5/16 研究書評


現在自身の研究において、現状分析および原因の考察を完了し問題解決のための代替案の作成に進もうという中で、政策科学の基礎について再考する必要があるとし、今回は佐藤満による「政策科学の基礎とアプローチ」を選出する。これは本学の初回生における教科書であるが研究に真摯に取り組まなかった私が避けてきた道である。今更ではあるが、もう一度この本と向き合おうと思う。

要約(序論)
政策科学とは、従来政治判断の産物であるため法則性がなく学問の対象とし難いと考えられてきた「政策」を意思決定過程などから学問的分析を行うものである。加えて、政策科学は社会の医学とも言われるように独自の理論体系から問題を認識し、診断し、処方するという全ての過程を含むものであり政策提言の方法のみを学ぶことが政策科学とは言えない。(政策提言を見据えた各過程が重要)そして、政策過程には行官民などの様々なアクターが存在しその多様性の中から最適解を見出すことが必要になる。(例えば、地域にマンションが建設される場合地域住民と建設業者、地域行政などがアクターである。そして各アクターが利益集団として存在し、景観が大事だとか会社の利潤追求、市長選挙への影響といった利益を追求しようとする。この場合マンション建設の最適解となるのはどのような対応であるのかを政治学や経営学などの既存学問体系に加え、政策学独自の理論により導き出そうとすること)→あえて言うなれば政策科学とは政策形成のあり方の理論枠組みを確認もしくは確立することを目的とする理論的営為である。
では具体的な学問的コアになる部分は何か?政策科学の父であるハロルド・ラスウェルはどのようにして政策を作ればよいかの知識(決め方)と実際にどのように政策が作られているのかの知識(決まり方)が必要であるとしている。これは過程指向の知識に分類され、これに加え政策決定には内容指向の知識も必要になると述べられている。(内容指向の知識は各政策課題によって取捨選択されるため、政策科学全般に共通する知識として前者が重要である)
そしてその過程指向の知識、には前述した通り決め方の科学と決まり方の科学が存在する。決め方の科学は合理的意思決定や経済学に基づいた政策を詰めていく方法である。しかしこれは合理的な判断を実行に移すという形でトップダウン式になりやすく、民主主義が侵害される危険性を孕んでいる。加えて、リンドブロムやホッブスは人間は「ロゴスを持った動物」であると述べ、そうした人間がいくら合理的な分析を行なったところでその人の限られた知見による偏った分析にしかならないのである。つまり決め方の科学だけでは有効な意思決定を行うことはできない。多様性を高めることは全体の合理性を高めることにつながるという民主主義政治のプロセスが必要である。この理解のために複数の政策主体がどのような原理で動いているのかを理解する決まり方の科学という視点が必要である。

まとめ
自身の研究(仮に経済特区の創設とする)に置き換えたとき、アクターとして経済特区に進出する国内外の既存企業、その地域の行政、方針を決める内閣、経団連など様々なアクターが考えられる。そして各組織が利益集団であり経済学(決め方の科学)や政治学などの側面から問題を把握することに加え、政策過程論的(決まり方の科学)な分析も必要となる。その分析には適切な意思決定のシュミレーションを選出する必要がある。しかし、従来のシュミレーションモデルでは数式モデルの応用が前提であるため社会のアクターに焦電を当てたゲーミングシュミレーション等の技法を用いることとなる(ゲーム理論は国際関係などが事例として挙げられているためもしかしたら適していないかもしれない。)

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

5/2 硏究書評

今回選出した文献は「ポストコロナの世界・日本経済の展望― 軟着陸に向かう世界、好循環へ踏み出す日本 ―」 です。これはMRI(三菱総合研究所)が2023年10-12月期GDP速報を踏まえ、経済の見通しを考察したものです。通常は論文の書評を行いますが、初心に帰り経済状況の現状理解を深めるため選出しました。

要約
世界経済は中国経済の減速から、過去に比べ低い成長率になると予測されている。また、25年にかけて、4%台の成長にとどまるとされており、急減速を回避する理由は米国経済の軟着陸と新興国経済の成長が起因するとされている。世界経済の概要はこの程度にして、今回は主に日本経済の動向について述べていく。
23年10-12月期の実質GDPは、季調済前期比年率▲0.4%と、2四半期連続のマイナス成長となった。需要項目別では、民間最終消費(季調済前期比▲0.2%)、民間企業設備投資(同▲0.1%)は、ともに3四半期連続のマイナスと、内需の低迷が続いている。しかし、純輸出は+0.7%とプラス寄与となった。
先行きとして、日本経済は物価高による消費の減少と人手不足による設備投資の遅延の影響から景気回復が止まっている状態にある。しかし、各種下押し要因の緩和により緩やかな成長軌道に転じると予測されている。賃上げの定着及び実質賃金のプラス転換から個人消費の持ち直しや経済安全保障の取り組みなどによる設備投資の拡大が期待されている。加えて、日銀は4月にマイナス金利の解除を予定しており、緩和的な金融環境が維持されるだろう。これらから経済の好循環実現に向かうことが期待されている。また、個人消費の加速のため、将来不安の解消が重要であると提唱されていることに加え、輸出の増勢が鈍化することや自動車生産の停滞などが問題として挙げられている。

まとめ
今回の文献から日本経済のプラス転換が期待されている反面、国内外の環境変化が日本経済における不安要素であることが確認できた。この文献は2024年2月に発表されたものだが、4月現在日本は急速な円安の影響で消費の減少や実質賃金の減少が問題となっている。一方、輸出増加の期待が高まっている。これらからも日本経済の不安定さが浮き彫りになっている。また、国の主力産業である自動車業界においてダイハツに引き続き日産の不祥事が発覚したことから、自動車産業における停滞が予測される。日本の主力産業の再構築が必要であると考える

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

「ポストコロナの世界・日本経済の展望― 軟着陸に向かう世界、好循環へ踏み出す日本―」三菱総合研究所、2024 年 2 月 16 日
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/ecooutlook/2024/jdvs5f0000002tqw-att/nr20240216pec_all.pdf


4/25 研究書評

今回選出した論文は菅 家 勝による「現代経済学が示唆する産業政策」です。選出理由は前回の論文で政策過程において政治的思惑や権力闘争の影響が強いと効果的な政策が行われないことが確認できた。(当たり前ではあるが、再確認できた)そこで今回は実際有効的な経済政策及び産業政策が取られるためには何が有効であり何が阻害要因になっているのかを経済学・市場機能に基づく視点から再確認することを目的として文献を選出した。

要約
本文献では諸政策に関する近年の研究をレビューし、研究分野の全体的な理解を促すことを目的とされている。特に今回は産業集積政策・研究開発政策・民間企業向け研究開発支援政策の効果について要約を行う。
初めに産業集積政策はクラスター政策と称されることもあり、世界中で展開されている。この政策は産業集積が行われることで情報収集の容易さや分業効率の向上などのいわゆる集積の効果を受けることで技術力向上などのイノベーション促進を可能にしている。ここでは企業の物理的距離が短いいわゆる集積が存在するだけで経済的効果があるとされた。加えて、政策の余地として浜口他(2020)は産業集積の規模と人口の流動性がスタートアップ の収益性を高める効果があるため、政策により産業の多様性を高め、他地域からの知識の導入を図り、金融へのアクセス環境を高めることが必要であるとされた。
次に民間企業向け研究開発支援政策の効果についてであるが、短期的には研究開発減税等が有効であり長期的には人的資本の供給拡大(移民ルールの改善等)が必要であるとされた。また、Howell(2017)による米国エネルギー省における SBIR 制度を通じた公的補助金が、採択企業のイノベーションや収益、企業存続などに与える影響の分析ではVCの投資を受ける可能性が10〜19%上昇、収入の増加が期待できる一方で新規上場や買収による市場退出の増加も明らかとなっている。

まとめ
今回の文献では効果的な経済発展のために各政策でどのようなアプローチを取るべきかについて学ぶことができたものの、阻害要因については明らかにできなかった。今後の研究において制作過程論に加え政治過程論についても考察するべきである。また、特定の政策に関して制作分析を行う必要性も感じる。

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございます。

参考文献
菅家勝. (2023). 現代経済学が示唆する産業政策. 信州大学経法論集, 14, 1-35.

4/18 研究書評


今回選出した論文は久保木匡介(2023)による「国家戦略特区と地方自治 (1)」です。選出理由としては以前から焦点を当てた経済政策であったことに加え、政策過程の分析が行えていなかったことが主な要因です。自身の研究では国家戦略特区は当初、経済成長を目標として設立されたものでしたが時間経過につれ地方創生政策へと移り変わったことを問題点と解釈していましたが、その解釈の正当性があるのか判断すべく選択しました。

要約
本文献は国家戦略特区制度が自治体にどのような変化をもたらしたのかを明らかにするため他の制度との比較や事例検討を行っている。ここで国家戦略特区の特徴として挙げられているのが政策のプロセスと自治体の影響力である。まず、制作プロセスの側面では目的を「産業の国際競争力強化」と「国際的な経済活動の拠点形成」と定めトップダウン式のアプローチが取られた。具体的には内閣府に国家戦略特別区域諮問会議が設置され、政令と内閣総理大臣により区域の指定及びその方針の決定が行われる。そしてその決定を受け特区ごとに国家戦略特別区域会議が設置されるが、そのアクターは国家戦略特区担当大臣と関係地方公共団体の長、および内閣総理大臣が選定した民間事業者によって構成される。これは他の特区政策と比べ国による区域指定が起点となっているため、国の主導性や経済界の利害に基づく利益誘導であるという見解がなされている。これに象徴されるのが「加計学園問題」であり首相官邸の影響力が強かったことに加え、特区住民の意見が反映されない構造であったことも指摘されている。次に自治体の影響力であるが、前述したとおり地域住民の意見が反映されないことに加え、区域会議が国家戦略特区WGの作業や諮問会議の決定を経て開催されていることから影響力は少なかったと見られている。しかし、実例として挙げられた新潟特区に関しては自治体が自立的に推進する意思表明が行われたと見られている。ただし、それは国家戦略特区の創設前から新潟市と経済同好会が協力した政策共同体を有していたためであったと見られている。

まとめ
今回は国家戦略特区の政策プロセスについての分析を行った。内容として首相官邸の政治的思惑の強い政策であったことやトップダウン式のプロセスが取られたことなどから実際の目的である経済成長の観点においては効果の薄い政策となってしまったと考えられた。加えて、政策過程の不透明さも問題点として挙げられていたため、EBPMに基づいた政策検討や官民協力型・開かれた政策が取られることが重要だと考えられる。

これで今回の記事はおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
久保木匡介. (2023). 国家戦略特区と地方自治 (1). 長野大学紀要, 45(2), 1-14.

4/11 研究書評

選出理由
今回選出した文献は赤池伸一(2024)による「科学技術・イノベーション政策における EBPM の現状と課題」です。選出理由は現在日本の経済成長のためには企業による技術開発が必要であると考え研究を進めてきました。これは産業競争力を強化しイノベーションを進めることが目的とされています。しかし、今までは経済政策に焦点を当て研究を行ってきたため、科学技術・イノベーション政策へ視点を変え、政策過程下の課題について知る必要があると考え文献を選出するに至りました。

要約
本論文では科学技術・イノベーション政策下におけるEBPM(エビデンスに基づく政策形成)の現状と課題について考察が行われている。まず科学とは仮説と検証という過程を通じた知識の創造であり、イノベーションとはその知識による社会や経済の変革を意味する。科学技術・イノベーション政策はそれを政策に落とし込んだものであり従来は産業別の所管官庁により行われてきた経緯がある。しかし現在は単一の省によって担われる場合は極めて少なく,省庁横断的な行政体制がとられる場合が多い。
具体的な政策手段としては大学・研究開発法人が行う研究開発に対する財政措置,民間企業等の研究開発に対する補助や委託、民間セクターに対する税制優遇措置等が挙げられる。(アメリカでは政府調達含むベンチャー企業等の支援策である、SBIR(Small BusinessInnovation Research)も注目されている。)加えて、事業規制や安全規制が科学技術へ影響することもあり、(排気ガス規制をしたら電気自動車の技術が発達するみたいな)society5.0に代表とされる社会のビジョンを提唱することも政府の役割として重要視されている。
政策過程のプロセスとしては複数の省庁及び組織がステークホルダーとして存在しているため、省庁横断的な資源配分・戦略策定組織が置かれることも多い。政策立案には行政だけでなく学術的側面からの意見を代表するアカデミアや学会、産業界の意見を代表とする各種経済団体などが相互作用することにより政策立案が行われている。加えて科学技術・イノベーション政策の全体を規定する「科学技術・イノベーション基本計画」が5年毎に策定されており関係各省、アカデミア、産業界等のステイクホルダー、一般からの意見募集などから策定されている。また、行政における意思決定プロセスについては、行政学や公共政策学等における研究の蓄積が必要であるが日本の論文数は停滞している状況にある。
また今後の課題として政策担当者と政策研究者が別の思考プロセスや評価システムに依っていることや博士人材の確保など多くの問題が残っている。

まとめ
今回の文献を通して科学技術・イノベーション政策過程において複数の機関が複雑に関係性を持ち合わせていることから思考プロセスの相違や権力関係の存在が有効な政策提言の障壁になっているのではないかと考えられた。(一方が他方の従属関係にならないことが重要であると著者も論じている)また、研究の目的である経済成長との関連性についても税制優遇措置やSBIRの手法が経済政策とイノベーション政策の複合的な事例となり経済成長に有効であると考える。今後はイノベーション政策事例も参考にし研究を進めていくことに加え、社会や学術論文のトレンドを押さえた研究を進めて行けたら良いと考える。

今回の記事はこれでおしまいです。最後まで読んでくださりありがとうございます。

参考文献
赤池伸一(2024)「科学技術・イノベーション政策における EBPM の現状と課題」研究 技術 計画, 38(4), 378-392頁


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