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小説「姉ちゃんと僕と、僕らのじいちゃん」 8
【あらすじ】両親が死んでから、姉ちゃんと僕はじいちゃんと暮らすことになった。姉ちゃんは料理を覚えて懐かしい母さんの味の料理を作ってくれた。そんな姉ちゃんの病気が発覚、死んでしまう。姉ちゃんの闘病と、そして僕の「夏のいま」が交差する物語――ゆうやとじいちゃんの会話、続いています。
「じいちゃん、ほんとに一人になっても大丈夫か?」
「なに言うか。大丈夫じゃ」
「一人で飯食える?」
「当たり前じゃ」
「さびしいぜ?」
「全然。せいせいするわ」
「まじで?」
「まじで」
「あ、そう」
「へこむな、ゆうや」
「へこんでないよ」
確かにこのじいさんと一緒にいても不毛な気がする……が、だからといって何を将来に目指すという目標も僕にはなかった。
ユカは大学に行ってからしたいことを探せばいい、と言う。僕の彼女は瞳をキラキラさせて未来を語る。そういえば、と僕は思った。
「そういえばさ、姉ちゃんは将来を夢見て語るってこと、一度もなかったな」僕は言った。
そうだ、姉ちゃんは一度だって、こんな人と結婚したいとか、こんな職業につきたいとか、話したことがなかった。まるで語るべき未来がないことを知っていたかのように。
「あやこは今を生きることに、精一杯じゃったんじゃ」じいちゃんが言った。
今を生きる。
そうだ、姉ちゃんの人生はそれの連続だった。それとの闘いだった。
僕が顔を上げると、じいちゃんと目が合った。じいちゃんは優しい顔とも、いかつい顔とも、どっちにもとれる顔で僕を見ている。
「じいちゃんの人生はどうなの?」
「わしの人生か?」
「うん、じいちゃんの人生」
じいちゃんは茶碗を食卓にカタンと置いて、目を閉じた。「わしの人生は因果じゃのう……」じいちゃんはゆっくりと目を開けて遠くを見るように言った。「妻に先立たれたかと思ったら、息子にも先立たれ、その嫁も亡くし、最愛の孫娘まで逝ってしもうた。わしはもうおいぼれじゃ。いつ迎えが来てもええ。死んでしもうたほうが幸せじゃ。じゃがわしにはゆうやがおるからの、すぐには死なれん」
僕はなにも言わずじいちゃんを見つめていた。
「今ゆうやを一人ぽっちにするわけにいかんからの」
「ぼっちになっても平気だけど、ぼっちになんかすんなよ」
「おお、したらんわ」
「ほんとに?」
「当たり前じゃ。まだ極楽には行かんぞ」
僕は笑った。じいちゃんもふっふっと笑った。
僕は思う。姉ちゃんに好きな男はいたのだろうか。姉ちゃんは、恋をしていただろうか。僕はドラッグストアで女性用の紙おむつを買ったとき、姉ちゃんは普通の女の子であることを思った。
もっと言えば、
姉ちゃんはキスをしたことがあったんだろうか。
姉ちゃんは男の腕のなかで眠ったことはあったんだろうか。
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