見出し画像

源実朝の和歌 ②

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の前々回、源実朝が詠んだ和歌
 
今朝見れば山も霞みて久方の天の原より春は來にけり
 
は、『金槐和歌集』に「正月一日よめる」とあるので、暦による年始、元日の歌ということになります。
新古今歌人・藤原良経や定家の歌に似通う歌が結構あります。
 
み𠮷野は山も霞みて白雪のふりにし里に春は来にけり(『新古今集』春上・一・藤原良経・治承題百首)
久方の雲井に春の立ちぬれば空にぞ霞む天の香具山(藤原良経『秋篠月清集』正治二年初度百首)
久方の雲井はるかにいづる日のけしきもしるき春は来にけり(藤原定家『拾遺愚草』十題百首)
 
ただ、これらの歌は立春詠です。
立春は「ハレ」中の「ハレ」です。勅撰和歌集の立春は古都(𠮷野や香具山)を舞台に詠まれることが多いのですが、実朝の家集巻頭歌は「元日」(立春とは別・人間が作った暦に基づく年始)で、続く二首目は都、皇居を舞台とした「立春」(自然に基づく年始)です。定家所伝本では「故郷立春」が三首目に位置します。
立春と元日については、谷知子『古典のすすめ』「自然と共存すること」(角川選書)をご参照ください。
 
ドラマの中で、三善康信が「久方の山もかすみて今朝見れば天の原より春は来にけり」と、「久方の」を初句に持ってきたほうがよいとアドバイスする場面がありました。「久方の」は枕詞で、「天」あるいは「天」に関わる「空」や「雲」「光」などに掛かることが多いのですが、さらに拡大して「山」にかからせた例がわずかながらあります。同時代で言えば、実朝の歌の師であった藤原定家です(実朝より後に詠まれたか)。
 
秀能がよませ侍りし、月歌
秋といへば月のただぢを吹く風の雲をばすての久方の山(藤原定家『拾遺愚草』久保田淳氏は承久の乱後の詠と推定)
 
実朝の和歌の朗詠場面はほんとうにすばらしく、衝撃的でした。俳優さんのプロフィールを拝見して、なるほどと納得いたしました。


江の島から見た月


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?