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【中編戯曲】1/2のエリコ(高校生版)

1/2のエリコ(高校生版)


作 松永恭昭
登場人物
上野山
エリコA
エリコB


上野山が頬を抑えじっと前を一点みつめている。
下手よりエリコAがやってきて上野山の下手に立ち、上野山の耳に語り掛ける。

エリコA ねえ前話してたね大学、東京だけどっての。オープンキャンパスやるって。ね、進路希望まだでしょ? 行こうよ? せっかくだし。やっぱり選択肢の一つとしてね。やっぱせっかく大学行くのにね東京っていうのも選択肢として魅力的なね、選択肢として大事でしょ。だって東京だし東京。ほらここだったら上野山君も興味あるでしょ? 行ってみない? いいでしょ。ねえ。けど一泊二日だよね。日帰りは無理でしょ。ほら、ちょうどどっか行きたいねって言ってたし。

上野山、エリコAの顔を見た。

上野山 エリコ。
エリコA ねえ聞いてる?
上野山 うん。
エリコA どうしたの。
上野山 なに。
エリコA どうしたの。
上野山 歯が。
エリコA 歯?
上野山 イタくて。
エリコA イタイの?
上野山 けっこう。
エリコA 我慢できないぐらい?
上野山 できなくもないかも。
エリコA でも。
上野山 イタイけど。
エリコA 薬もらってこようか。
上野山 いいよ。
エリコA もらってくる。
上野山 ありがとう。

エリコA、下手へ去る。
上野山、頬を抑えじっと前を一点みつめている。

上手からエリコBがやってきて上野山の上手に立ち、上野山の耳に語り掛ける。

エリコB やっぱりね、進学の話なんだけどね。ちゃんと話さないとねって思うんだけどね。やっぱり大学に行きたいなら私に遠慮しなくていいよっていう。可能性のね、話だと思うの。未来の。上野山くんのっていうのもあるし、私のっていうのもあるし、まあ二人のっていうね、意味で。私は私のやりたいことやるのに、それに合わせさせるって違うと思うし。まって、一番きみといたいとかイタイのはやめてよ。そりゃ寂しいけど離ればなれになるのは。それって距離だけの問題だから、別に今の時代北海道と沖縄だって一日あれば行けるんだから。まあ、そりゃ近いほうがいいんだろうけど。

上野山、エリコBの顔を見た。

上野山 エリコ。
エリコB ねえ聞いてる?
上野山 うん。
エリコB どうしたの。
上野山 なに?
エリコB どうしたの。
上野山 歯が。
エリコB 歯?
上野山 イタイ。
エリコB この前歯医者終わったって。
上野山 虫歯じゃないと思うんだけど。
エリコB やぶじゃない?
上野山 やぶ?
エリコB でしょ。
上野山 赤ちゃん時からずっとそこなんだけど。
エリコB だから?
上野山 だからって。
エリコB 上野山君が高校生になってるってことは歯医者さんはおじいちゃんになってるってことでしょ。
上野山 そりゃそうだけど。
エリコB でしょ。
上野山 薬は?
エリコB 薬?
上野山 持ってくるって。
エリコB 誰が?
上野山 エリコが。
エリコB 私が? いつ。
上野山 いま。
エリコB なんで?
上野山 なんでって、いいっていったけど持ってくるって。
エリコB そんなこと言ってないけど。
上野山 言ったよ。
エリコB もう、普通に頼んだらいいでしょ。
上野山 え、
エリコB 薬欲しいのね。
上野山 じゃなくて。
エリコB いいよいいよ。もらってきてあげる。
上野山 あ、うん。ありがとう。

エリコB、上手へ去る。
上野山、顔をしかめる。

エリコAが下手からやってくる。

エリコA おまたせ。
上野山 エリコ?
エリコA はい薬。
上野山 え、
エリコA なに?
上野山 イテテテ。
エリコA あ、飲み物。
上野山 あ。
エリコA 飲み物いるね。
上野山 あ、いいよ。
エリコA 薬飲めないよね。ごめんね。待ってて。

エリコA、下手へ去る。
入れ替わりでエリコB、上手から登場。

エリコB 薬って、
上野山 エリコ?
エリコB 薬ってなにの薬? 痛み止め?
上野山 今。
エリコB いま?
上野山 飲み物もってくるって。
エリコB なに。
上野山 え、
エリコB それぐらい自分でしてよ。
上野山 うん。
エリコB 痛み止めでいいよね。
上野山 あ、うん。
エリコB オッケー。

エリコB、上手に去る。
入れ替わりでエリコA下手から来る。

エリコA ジュースでいい?
上野山 エリコ?
エリコA お茶売り切れてて。
上野山 あ、うん。
エリコA オレンジでいいよね。
上野山 え、
エリコA ちょっと待っててね。
上野山 あ、

エリコA、下手へ去る。
入れ替わりでエリコB、上手から登場。

エリコB 正露丸の方がいい?
上野山 エリコ?
エリコB 正露丸虫歯につめたらいいってきいたことあるんだけど。
上野山 そうなんだ。
エリコB とりあえずだし、そっちのほうがいいよ。
上野山 あ、うん。
エリコB いってくる。

エリコB、上手から去る。
上野山、頬を抑える。

上野山 イタタタタ。

ラインの着信音。
上野山、スマホを取り出して見る。

上野山 エリコ?

間。
下手からエリコAと上手からエリコBが同時にやってくる。

エリコA ごめんなさい。売り切れてた。
エリコB さっき薬渡したって言われたんだけど。
上野山 エリコ?
エリコA 運動部の人が全部買っちゃったみたいなの。
上野山 エリコ?
エリコB 保健の先生やばくない?
上野山 エリコ?
エリコA ああ。
エリコB どうも。
上野山 エリコが二人。
エリコA・B なに。
上野山 エリコだ。
エリコA ええ。
上野山 エリコだ。
エリコB ええ。
エリコA あなた私?
エリコB あなた私?
上野山 エリコとエリコ。
エリコA 私はエリコ。
エリコB 私がエリコ。
上野山 どっちがエリコだ?
エリコA 私もエリコ。
エリコB 私もエリコ。
上野山 どっちもエリコだ。

間。

上野山 これ。なに?

上野山、スマホを見せる。

エリコA なに?
エリコB ライン?
上野山 エリコが送ってきたんだろ。
エリコA さよなら。
エリコB ありがとう。
エリコA・2 エリコ。
エリコA さよなら、は書いた気がする。
エリコB ありがとう、は覚えてるけど。
上野山 (読み上げる)さよなら、ありがとう。エリコ。

上野山、手にしていた冊子を落とす。

上野山 イタタタタタ。
エリコA・B 大丈夫?
上野山 イタタタタ。

上野山、うずくまる。
溶暗。


エリコAが、額を抑え、じっと前を一点みつめている。
上野山がやってきてエリコAの横に立ち、エリコAの耳に語り掛ける。

上野山 あの、これからのね、ことだけど。大学とか、まあ進学とかの。うん。でどうしようかなって考えたんだけど。というか、まだ考えようかなっていう。そういうね、時間じゃないかなっていう。考えていこうかなっていう時間、まだ。じゃないかなって。その今決めましたっていう。感じじゃなくて、どうしようかなっていう。感じ。色々考えないと。ほら、これからエリコの事も含めて。どうしようかなって。大事なことだとおもうから。それも。将来とかそういうの含めて。エリコとどうするの?っていうのも。というか、離れ離れね、四年間っていうのもやっぱきついなぁって。でも進学しとかんとなって。残念ながら進学は遠くに行かないといけないという状況だから。まあ、お互いの? 意思というか、こうしたいっていうのもあるだろうし。そこらへんも含めて、少し考えてみる。っていうのは。まだ今すぐっていう状況じゃないんじゃないかなって。ゆっくり考える時間じゃないかなっていうって思ってます。

エリコA、上野山の顔を見る。

上野山 聞いてる?
エリコA なに。
上野山 これからの話。
エリコA これからね、うん、これから。
上野山 どうしたの。
エリコA ごめんなさい。少しぼうっとしてて。
上野山 疲れた?
エリコA そうかも。
上野山 さっきの。
エリコA さっき?
上野山 ほら、へんな。
エリコA ああ、
上野山 何だったんだろうね。
エリコA うん。
上野山 ……。
エリコA なに。
上野山 いや……。

笑い返す上野山。

上野山 それでこれからのことなんだけど。
エリコA うん。
上野山 っていう。
エリコA ……。
上野山 どう。
エリコA ……。

エリコA、困ったような顔。

上野山 なに。
エリコA ごめんなさい。
上野山 ?
エリコA 分からないの。
上野山 ……。
エリコA ごめんなさい。
上野山 いやいいよ。疲れてるんだよ。
エリコA ……。

上野山、頬を抑える。

上野山 イタタ。
エリコA イタイ?
上野山 うん。
エリコA そうだ薬。
上野山 あ、
エリコA 飲み物。
上野山 ああ。
エリコA 置いてきちゃった。
上野山 いや、いいよ。オレンジジュースは飲めないから。
エリコA 嫌いだった?
上野山 いや、まあ、うん。
エリコA そうだったっけ。
上野山 うん。
エリコA ごめんなさい。

間。

上野山 ……そんな顔するなよ。
エリコA 顔?
上野山 そんな顔。
エリコA ごめんなさい。
上野山 いいんじゃないかな。変なことにはなったけども、元に戻ったんだし。
エリコA うん。
上野山 混乱してるんじゃないかな。
エリコA うん。
上野山 あのさ、
エリコA なに。
上野山 一個聞きたいんだけど。
エリコA なに。
上野山 エリコから見て、もうひとりのエリコ。ってどう見えるの。
エリコA 私から。
上野山 そう。もう一人の。
エリコA 私から見て。
上野山 どう見える。
エリコA なんだろう。
上野山 うん。
エリコA 他人。
上野山 そう。
エリコA としか。
上野山 そりゃそうか。
エリコA うん。
上野山 全然似てないもんな。
エリコA うん。
上野山 夢でも見てるみたいな。
エリコA 夢かな。
上野山 ならいいけど。
エリコA ねえ、
上野山 なに。
エリコA ありがとう。
上野山 なに。
エリコA 私が本物だって言ってくれて。
上野山 ああ。
エリコA うれしかったの。
上野山 ああ。
エリコ 私も一つ聞いていい?
上野山 なに。
エリコA なんで私だと思ったの。
上野山 なんで君だと思ったか。
エリコA うん。
上野山 なんで。

上野山、頬を抑える。

上野山 エリコだから。
エリコA 私だから。
上野山 知ってるエリコはこっちのエリコだって。うん、思ったから。
エリコA うん。
上野山 うん。
エリコA うん。
上野山 なんで?
エリコA なんでかなって。
上野山 そう。
エリコA うん。
上野山 うん。

沈黙。

上野山 あれもなんだったんだろね。
エリコA あれ?

上野山、スマホを取り出す。

上野山 これ。
エリコA なに。
上野山 エリコからメッセージ。
エリコA さよならありがとう。
上野山 なんだったんだろう。
エリコA わからない。
上野山 わからない。
エリコA 書いたような書いてないような。
上野山 ぼうっとする?
エリコA 書いたかもしれない。そんな気はする。
上野山 そう。
エリコA わからない。
上野山 わからない。
エリコA 書いたような気はするんだけどなんで書いたかは。
上野山 そう。
エリコA ごめんなさい。
上野山 記憶喪失みたいな。
エリコA わからない。
上野山 病院行ったほうが。
エリコA 病院。
上野山 うん。
エリコA なんて説明したらいいか。
上野山 それは。
エリコA まだよくわからないの。自分でも。
上野山 少し落ち着くまで待ったら。
エリコA うん。
上野山 そうしよう。
エリコA うん。
上野山 なんか変な感じ。
エリコA そうね。
上野山 なんかエリコが、
エリコA 私が。
上野山 いや。
エリコA 私がなに。
上野山 半分になったみたいな。
エリコA 半分……。
上野山 なんとなくね。エリコの表の顔と裏の顔が別れた感じかな。
エリコA 表と裏。
上野山 なんとなくね。
エリコA うん。
上野山 ごめん。エリコはエリコだし。
エリコA 表と裏。
上野山 ごめんごめん。
エリコA 私は。
上野山 うん。
エリコA どっち。
上野山 どっち?
エリコA 表と裏。
上野山 表と裏。
エリコA どっち。
上野山 どっちがとかじゃないし。表か裏かっていったけど他の人みんなもね、いろいろあるし。ボクの知らないエリコがいたってしかたないなっていう。そういう。
エリコA 私は知っているエリコ?
上野山 当たり前だろエリコはエリコだよ。
エリコA その半分。
上野山 だから、どう解釈するかっていうね。
エリコA ごめんなさい。ちょっと疲れたみたい。
上野山 ああごめん。
エリコA 先帰るね。
上野山 うん。
エリコA ごめんなさい。
上野山 笑い話になるよ、きっと。あの時面白かったねって。
エリコA ごめんなさい。
上野山 なに。
エリコA さよなら。

エリコA、去る。

上野山 ……。

上野山、頬を抑えている。
エリコBが、やってくる。

エリコB 痛いの? 歯。
上野山 うん。
エリコB 歯医者行きなよ。
上野山 ……うん。
エリコB 坂道の所の歯医者さんいいらしいよ。予約しといてあげようか。
上野山 いい。いつものところ行くから。
エリコB ヤブでしょ。
上野山 そんなことないって。
エリコB 助手の女の子かわいいから。
上野山 ちがう。
エリコB なんだ。
上野山 違うって。
エリコB ホント、顔にすぐでる。
上野山 そう。
エリコB そうよ。
上野山 そうか。
エリコB はい、薬。
上野山 ありがとう。
エリコB 渡し忘れてたから。

エリコBから、薬を受け取る。

エリコB 飲み物、レモンティーがいいんだよね。
上野山 あ、うん。
エリコB 好きよね。飽きないの。
上野山 甘いのが苦手なんだよ。
エリコB そういうもん。
上野山 うん。
エリコB 買ってくる。
上野山 あ、後でいいから。
エリコB なに。
上野山 後でいいから。後で。
エリコB なに。
上野山 いや。エリコがいっちゃった。
エリコB いるでしょ。
上野山 じゃなくて、もう一人の。
エリコB あのおとなしい方?
上野山 さよならって。
エリコB そう。
上野山 なんでだろう。
エリコB さあ。
上野山 そう。
エリコB 代わりに私が戻ってきてあげようか?
上野山 ……。
エリコB ……冗談、冗談。
上野山 問題は。
エリコB 問題?
上野山 問題は二人になったとかそういうことじゃなくて。
エリコB なんなの。
上野山 エリコはこうしたっけ、こうするのがエリコだったっけって。一瞬フッと。
エリコB 選択を間違えた的な。
上野山 いや。
エリコB 自信ない?
上野山 そういうんじゃ。
エリコB じゃなに。
上野山 だからふっと。
エリコB なにそれ。
上野山 半分になってしまったんじゃないかっていう。
エリコB 半分。
上野山 エリコが半分になってしまったような、そんな。
エリコB どういうこと。
上野山 分からない。なにが本当か。
エリコB なにが本当じゃないか。
上野山 そう。
エリコB しかたないでしょ。それは。
上野山 しかたない。
エリコB 実際二人になったっていうのは事実なんだし。上野山君の中でっていう意味でだけど。
上野山 今こうして君がそこにいるのが自然な気がする。
エリコB けど自然じゃない気もする。
上野山 まあ。
エリコB それいったの、彼女に。
上野山 (頷く)
エリコB バカ。
上野山 ……。
エリコB 言っとくけど私はあなたの好きな私の半分になったんじゃないし、彼女もそう。他人なの、あなたの好きな私もメッセージ送ってきた彼女も。
上野山 ……。
エリコB 分かる?
上野山 メッセージを送ってきたエリコ。
エリコB ええ。
上野山 もう一人いるのか?
エリコB 知らない。可能性の話。
上野山 可能性。
エリコB 二人になったんなら三人なったって今更でしょ。
上野山 そう。
エリコB 実際二人から三人になられても困るけど。
上野山 そりゃそうだ。
エリコB そもそも二人になってる時点で迷惑よね。
上野山 なんでこんな事に。
エリコB 考えても仕方ないでしょ。
上野山 なんで。
エリコB だってなっちゃってるんだし。なんでこんなことになったか考えるよりも、この状態をどうしたらいいのかを考えるほうが意味があるでしょ。
上野山 ああ。
エリコB 今私の事エリコかどうか考えたでしょ。
上野山 ごめん。
エリコB 自分ですら自分がどんな人間かわからないのに他人になんて分かるわけないでしょ。
上野山 でも人間は増えない半分にならない。
エリコB しかたがないでしょ。別に私だって二人になりたくてなったんじゃないんだし。
上野山 わかってるけど。
エリコB 私が出ていったっていうことはなにか上野山君に原因があったって事でしょ。反省するならそこ反省しなよ。
上野山 エリコは分かるのか。なんで出ていったのか。
エリコB なんとなくね。
上野山 なんで。
エリコB 知りたい?
上野山 教えてくれよ。
エリコB やだ。
上野山 なんでだよ。
エリコB 自分で考えなよ。
上野山 わからないだろ。
エリコB そういうもんでしょ。なんでも答えがあるなんて考えるほうが間違ってるでしょ。
上野山 ……。
エリコB どうでもいいけど彼女戻ってくるんじゃない?
上野山 彼女。
エリコB もう一人の私。
上野山 なんで。君たちは他人なんだろ。
エリコB 他人だからでしょ。
上野山 君はエリコなんだろ。
エリコB そうよ、一人だけのあなた。

エリコB、去る。
項垂れている上野山。

上野山 イタタタタ。

上野山、うずくまってしまう。

しばらくして、エリコAが入ってくる。

エリコA どうしたの。
上野山 ああイタタタタ。
エリコA 大丈夫?

上野山がエリコAを抱きしめようとする。
エリコA、すっと体を引く。

エリコA きっとあなたの知っているエリコさんとは違うのかもしれません。
上野山 ……。
エリコA それでもいいですか?
上野山 ……。これだけは聞いておかないと駄目だと思うんだ。

頷くエリコA。
上野山がスマホを取り出す。

上野山 これはなんだ。多少変な事にはなったけど。でもエリコは何事もなく生きてる。
エリコA ええ、私は。
上野山 私は? ……どういう事。
エリコA ……。
上野山 もしかしたらまだいるのか。エリコが。
エリコA さあ。
上野山 エリコがいる。エリコが。
エリコA 私には分かりません。
上野山 イタタタタ。
エリコA 大丈夫?

上野山、歯を引きちぎった。
口から、血がこぼれている。
エリコA、小さく悲鳴を上げて固まってしまう。

上野山 エリコ。エリコ。

上野山、じりじりとエリコAに近づいてくる。

エリコA ごめんなさい。

エリコA、去る。
上野山、その場でうずくまる。
暗転。


誰もいない。
エリコAがやってくる。
エリコBがやってくる。

エリコB おひさ。
エリコA どうも。
エリコB どう。
エリコA どう?
エリコB いろいろ。
エリコA いろいろ?
エリコB あいつとは。
エリコA 上野山君。
エリコB そう。
エリコA わからないです。
エリコB ん?
エリコA 会ってないから。
エリコB そう。
エリコA うん。
エリコB そっか。
エリコA ごめんなさい。
エリコB なんであやまる。
エリコA なんか。
エリコB しかたないんじゃない。
エリコA なんかでも。
エリコB まあ、いいでしょ。
エリコA ありがとう。
エリコB で、どうするの。
エリコA どう。
エリコB これから。
エリコA これから。
エリコB うん。
エリコA どうしようかな。
エリコB ね。どうしようね。
エリコA とりあえず、東京方面の大学探そうかなって。
エリコB そうなんだ。
エリコA はい。
エリコB えらいね。
エリコA 全然。
エリコB 勉強したくないな、私は。
エリコA どうするんですか。
エリコB 私?
エリコA これから。
エリコB どうしようね。
エリコA なにも?
エリコB 全然。
エリコA 大丈夫ですか。
エリコB なんとかなるっしょ。
エリコA 不安じゃ……。
エリコB 不安。
エリコA 私、なんかすごい不安で。
エリコB ああ、わかるけど。
エリコA 私、誰なんだろうっていう。
エリコB まあ、しゃあないでしょ。
エリコA しゃあない。
エリコB みんなそうなんじゃない? 私達だけじゃなくっても。
エリコA はあ。
エリコB 誰も自分が誰かとか分かってないから。
エリコA そういうもんですか。
エリコB そうそう。
エリコA なるほど。
エリコB でしょ。
エリコA かも。
エリコB 私達気が合うかもね。
エリコA ええ。
エリコB 同じエリコだしね。似てないけど。
エリコA そうですね。
エリコB 今度一緒にどっか行こうよ。
エリコA ええ。
エリコB 約束ね。
エリコA そういえば、
エリコB ん。
エリコA この前、エリコさん見たんです。
エリコB 私?
エリコA じゃなくて。
エリコB ああ、いたのか。
エリコA 多分そうだとおもうんですけど。
エリコB そう。
エリコA ええ。
エリコB で。
エリコA で。
エリコB どうだったの。
エリコA えっと、元気そうでした。
エリコB 元気そう。
エリコA ええ、なんか元気そうな感じ。
エリコB そりゃよかった。
エリコA ええ。
エリコB 元気なのはいいよね。
エリコA ええ。私そろそろ。
エリコB そう、じゃあまた。
エリコA さようなら。

エリコA、去る。エリコB、それを見送っている。
少しして違う服を着た上野山がやってくる。

エリコB あ、
上野山 ?
エリコB 久しぶり。
上野山 ?
エリコB 元気?
上野山 あ、はい。
エリコB 歯はもういいの?
上野山 すいません。どちら様でしょうか。
エリコB 私私。
上野山 すいません。
エリコB 上野山君でしょ。
上野山 あ、違います。
エリコB あ、すいません。
上野山 いいえ。

上野山、去る。

エリコB 別の人か。

エリコB、去る。

PDFファイル

コチラをご利用ください

使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)


1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

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